第7話 ケーキと種明かし
謎の箱の中身はケーキだった。舞が等分に切って皿に取り分ける。
人数分のグラスにシャンパンを注ぐのは凜音の役目だ。
「にしてもさ、凝ってたよね今年のは」
「そうねえ。来年あたり太刀打ちできなくなるんじゃありませんか、所長」
応える声はなかった。今年のは、というのはどういう意味だろう。そしてこの明らかなパーティーの準備は一体?
インターホンが鳴った。
はあい、と凜音が事務所を出て行く。ディスプレイを見ていた綾香が顔を上げた。
「春菜さんから返信です。『パパありがとう。推理は的中よ。リナとミルザは犯行を自供して、マークの容疑も晴れたわ。やっぱり私のパパは名探偵ね』」
ふん、と所長が鼻を鳴らした。
「『……というわけで、どうだった? 恒例の創作事件。楽しんでもらえた? 今年はもう1つ驚きのプレゼントも用意してあるの。期待しててね。業者に連絡したからもうすぐ届くと思う。最後にパパ、誕生日おめでとう。事務所の皆によろしくね』」
あなたの春菜より、とメールは結ばれていた。
そういうことだったのか。事件はすべて所長の娘、春菜の創作だったのだ。
しかもどうやらこの趣向は、所長の誕生日のたびに毎年繰り返されているらしい。
何て奇抜な。私は呆れてしまった。探偵である父親に架空の事件を推理させ、解決の達成感をもってプレゼントに代えようとは。
そういえば、と私は思い出す。
最初にメールが届いたとき、綾香は差出人の名前を春菜・テイラーと言った。所長が容疑を晴らしたマーク・テイラーは娘の結婚相手だったというわけだ。所員らが彼のことを知っていたのも頷ける。
凜音が荷物を抱えて戻って来た。
「ロンドンからだって。見てよほら、高そうなワイン。絶対おいしいよコレ」
「ダメじゃない凜音ちゃんが開けたら」
「いいじゃん。てゆーか所長もいい加減こっちおいでよ主役なんだから!」
ワインと一緒に届いたのだろう、凜音は立派な花束も手にしていた。
白を基調とした小さな花々の中央に、一輪だけ大きなピンクのバラが添えてある。
バラを目にした舞が、それこそ花のほころぶような笑顔を見せた。
「素敵。驚きのプレゼントってこれのことね」
「どういうことですか?」
綾香の問いかけに、花言葉よ、と舞は所長の方を向いた。
「大輪のピンクのバラ。花言葉は『赤ちゃんができました』」 了
『rose』の秘密 夕辺歩 @ayumu_yube
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