第6話 推理と『rose』

 犯行は計画的だった、と所長は背凭れの向こうから続けた。

「すべては半年前、リナとエマの仲が修復され始めたときに始まった」

「主犯はリナってわけ? 仲直りしたフリをしてたんだ?」

「今さらリナにエマを殺す理由などない、と他の団員に思わせるためにな」

「いくら何でもボロが出ませんかねえ。半年もだなんて」

「元花形の演技力があればこそだ。殺害後、リナはエマの声色でマークを呼び出した。廊下の電話機を使ったのは、本来はエマの携帯を使う予定だったのが……」

 そっか! と凜音が目を見開いた。

「携帯使えなかったんだ。エマの体の下にあったから。リナは電話を使うためにミルザを仲間に引き込んだってことか。……あれ? 何か違うな」

「証言の一致や冷静さからして、ミルザは初めから共犯だった可能性が高い。見張り役か、アリバイ要員か。リナとの間に金銭の授受くらいあっただろう。たしか母国に送金をしていたな」

 何だ、よく聞いているじゃないか、と私は半ば呆れ半ば感心した。

 所長の推理はつまりこうだ。

 リナはミルザを仲間に引き込み、半年前からエマ殺害計画を進行させていた。彼女はまず、劇団内における自分のマイナス印象を時間をかけて覆すことから始めた。

 決行の夜、リナは何気ないふうを装って寝間着のまま201号室に接近。直前で覆面と手袋を付けると、ミルザが用意した合鍵で室内に侵入し、持参したナイフでエマの胸を刺した。

 だが、一撃では殺せなかった。ベッドから落ちたエマに追撃を加えてようやく目的を果たす。次に携帯を探したが、見つからない。どうやら血まみれのエマの下敷きになっているらしい。

 不測の事態だ。

 携帯を諦めたリナは宿直室脇の電話機を使うことにする。部屋の外に出てドアに凶器を立てかけた。後で、やって来たマークがそれに触らざるを得ないように。

 1階に下りたリナはミルザに裏口の鍵を開けるよう指示。その後、自身は電話でマークを呼び出した。

「ただ、2人はエマがダイイング・メッセージを残したことには気付かなかった、と。今のストーリー、所長はどのタイミングで考えついたんです? 『rose』が出てすぐですか?」

 首を傾げる舞に所長は違うと答えた。

「発想が形になったのは綾香が関係者の出身地を読み上げたときだ」

「降参。教えてよ所長『rose』って何色?」

「ピンク」

「「「ピンク?」」」

 3人が驚きの声を揃えた。

「リナのパジャマの色だ。綾香、エマの出身地は?」

「カナダのケベック州です」

「あ……! そうかフランス語」

 舞が額を押さえて天井を仰いだ。所長は含み笑いを漏らした。

「ケベックの公用語はフランス語。フランス語で『rose』はピンクを意味する。瀕死のエマは母語でメッセージを残したわけだ。彼女が収支を記していたというノートをチェックするべきだな。財布の残金との照合も。杜撰な犯行だ。電話代は犯人持ちだったことだろう」

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