第5話 アイデアと秘密
「資料は以上です。確認したいことがあればメールで受け付けるそうです」
そう締め括った綾香に対する所長の返事はなかった。寝てしまったのだろうか。
「忍び込む姿を見られてる。凶器に指紋も付いてる。もうマークが犯人で決まりじゃない?」
「そうすると『rose』の意味を説明することができませんね」
「それはほら、ええと、マークが実はバラの花束を抱えていたから、とか?」
「素敵だけれどそんな証言はなかったわねえ。何より彼には動機がないし」
言いながら、舞が給湯室から例の白い箱を運んできた。
「単純だけど、やっぱりローズマリーが犯人かしら。ミルザとリナが見た『電話を使っていた女』はエマじゃなくてローズマリーだった。見間違えたのね。本当のところ、ローズマリーは現状に不満を抱いていた。思い余ってエマを殺害した彼女はマークに罪を着せようとした」
「二人が二人とも見間違えるでしょうか」
「ううん、やっぱり駄目か。無理があるわね」
テーブルは謎の箱と菓子と飲み物、そしてグラスと皿に占領された。何が始まろうとしているのか私にはまったく分からない。事件についても悩まされっ放しだ。マークの容疑は晴らせるのか?
2つの疑問に、私がすっかり参ってしまったときだった。
「事件の夜の関係者の服装と、エマの携帯電話の所在を確認してくれ」
所長が言った。寝てはいなかったらしい。
綾香がタイプし始めるのと凜音が問いかけるのは同時だった。
「え、所長分かったの? 犯人、分かったんだ?」
「分からんがアイデアはある」
「『rose』って何のこと?」
「色だと思う」
「色?」
「エマは最後の力を振り絞ってメッセージを残した。ランプの付いた室内、バラクラバでも被っていたのか、犯人の顔は分からなかったが、着衣の色は分かったのだとしたら?」
「それが『rose』。……って何色?」
凜音が首を傾げた。赤か白か、それとも黄色か。バラには色も形も沢山ある。
「返信が来ました」
早い。事前の準備があったかのようだ。
「服装はローズマリーが白いネグリジェ、ミルザは黒のネグリジェ、リナはピンクのパジャマでマークは赤いシャツにジーンズ。……エマの携帯は彼女の体の下にあった、と」
ふん、と所長が鼻を鳴らした。
「リナとミルザの犯行で決まりだな」
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