第7日目 バイバイ兄ちゃん

”そっか気づいちゃったのか。空美…。そっか…。”

昨日私は自分が死んでいると気づいた。

自分が死んでいる事に気づくと不思議と向こうの世界への行き方も分かってしまった。

あぁ私はここにいてはいけない人間なんだ、だから向こうの世界へ行こうと思った時兄ちゃんに引き止められた。

「あと1日だけいてくれ」

と頼まれたんだ。

私はすごく嬉しかった。大好きな兄ちゃんと一緒にいられる時間が延びたんだから。

冥界の神様だって少しの遅刻は許してくれるだろう。なんて言ったってもう1週間近くこっちにいるのだから後1日ぐらい変わりはないだろう。

だから私はあと1日だけこっちにいる。

逆に言えば明日、いや今日の日が沈みきる頃にはここにお別れをしなくてはならない。

なのに、それなのにあと少しの時間しかないのに兄ちゃんは、一人で泣いている。

なんで!?私はまだここにいるんだよ?!

ねぇ兄ちゃん!!

えっ?ねえ兄ちゃん!?聞こえているよね!?

無視しないでよ!

えっ…?兄ちゃん…?え…ねぇ、私の声聞こえている?


兄ちゃんは、私の声なんて聞こえないみたい。ずっと1人で私の写真の前で泣いている。


あーははっそう、そうなんだ。

私の声、兄ちゃんにも聞こえなくなっちゃったんだ。

もう私が何言ったって兄ちゃんには聞こえてないのか…。

そっか、そっか…。

うっ……。


しばらく1人で泣いたら落ち着いてきた。

あーぁ久しぶりに号泣しちゃったな。

もうここには居られないんだし、ちょっと色々な所巡ってから向こうへ行こうかな。

…うん、そうしよう。

聞こえてないと思うけど…

”兄ちゃん今までありがとう。私、向こうに行くね。兄ちゃんの事ずっとずっと待ってるからゆっくりこっちに来てね。すぐ来たり、追いかけてきたりしたら許さないんだからね!”

…っぐすっ。

…うっ、うん。もうよしっ兄ちゃんにバイバイ出来た。泣かずに出来た、でぎだっ。よしっ行こう、空美。こっちにバイバイしに行こう。




「空美…ぐみっ、くみ。なんでっなんでお前なんだよっ。なんでっなんで…。」

康太には空美の声が全て聞こえていた。

泣いていたことも、自分にさよならをしてくれたことも全て全て分かっていた。

だけど、ここで自分が空美に声をかけては全て台無しになってしまうと思ったのだ。

だから聞こえないふりをした。無視を徹底した。

一昨日までだったら空美は、自覚をしていなかった。だから一緒に過ごせた。話だって出来た。

だけど今日の空美は違う。

自覚をしたのならもう向こうへ行かなくてはならないのだ。なんでなんて知らない。それがこの世の掟だ。

自覚なんてさせたくなかった。ずっと事実に気付かす、ここで一緒に過ごせればよかったんだ。

だから俺は事実をひた隠しにした。

空美に気づかれないように、何も不審に思わず過ごせるように、細心の注意を払ってきたつもりだ。

いけると思った。隠し通せると思った。

だって空美が死んだのは8年前だ。

忘れもしない8年前の暑い夏の日、空美は学校帰りに飲酒運転の車に跳ねられ、そのまま…。

それからの記憶は無い。はっと気づくと空美の葬儀は終わり、俺は葬儀場の煙突から昇る煙を眺めていた。

しばらく俺は動かなかった。いや、動けなかった。人形って表現が1番ピッタリかもしれない。何も食べず、水分だけは無理やり取らされた。そんな日々が続いた。

このままいけば俺も空美の所へ行けるんじゃないかって本気で思った。

でも、あの時、空美は帰ってきたんだ。

”ただいまー!”

あの声を聞いた時、俺は耳を疑ったよ。

あぁついに幻聴も起きたか、そう思った。

だけど違かったんだ。

不思議と空美の声は俺にしか聞こえてなかったんだ。姿も誰にも見えていない。

空美が大好きだった母さんにも、空美のことを溺愛していた父さんにも…。誰にも見えてないし、声も聞こえてなかったんだ。俺にしか見えない空美は、いつもと変わらない顔でニコッて笑った。その時思ったよ。

コイツの事は俺が守らなきゃいけない。

コイツはもう俺にしか頼れないんだって。

だから俺は持ち金の全てを空美のために使おうと思った。有り金を集めて、集めてちょうど500万円になったんだ。

だからその500万円を空美に渡して、一緒にいてくれるように頼んだんだ。

空美は俺のおねがいをOKしてくれた。嬉しかった。もう俺には望むものなんて何も無い、空美が帰ってきてくれたのなら何もいらない…そう思った。

空美をここに留める為ならば何でもする…。

俺は、空美にもう一度生命いのちを吹き込む為に本を読み漁った。

怪しい本だったけど、生命の復活方法が載っている本が1冊だけあった。

その本によると復活させたい者と、濃い血縁関係又は何らかの強い繋がりがある者の、血液を混ぜれば良いと書いてあった。

俺は迷わず、指先を切り自身の血を出した。

空美のは、無理と転ばせ、傷の手当をする振りをして血を拝借した。

あぁこれで空美は完全に復活する。

よかった。これで空美はずっと俺と一緒だ。


そう思ったんだ。だけど現実は違う。

寿命は神様が決めるものだったんだ。

人間ごときが、どうこう出来る問題じゃ無かったんだ。

だから空美は再び空へ還ってしまう。

俺とずっと一緒にはいられないんだ。

ずっと一緒がよかった。

だけどそれは叶わない夢だ。

空美が事故にあったあの日から今日で8年が経つ。

今頃空美はもう空の上だろう。

時が経つのは早い。

もう俺も26だ。

当時高校3年生だった俺はとんでもないことをした。

生命の秩序を乱したんだ。

大変な悪事をはたらいてしまった。

今死んでも空美と同じ世界へはいけないだろう。

ならば、もっと得を積んで空美に胸を張って会いに行ける男になろう。

金も、地位も興味無い。

俺が欲しいのは空美の笑顔、ただそれだけだ。


気持ちを入れ替え、頑張ろう。

空美に会えるその日まで…。

来世でまた空美に会えるように…。

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