第6日目 兄ちゃんと真実

”んーふわぁぁよく寝たぁー”

”うわっ寒!”

兄ちゃんの作ってくれたクッキーを食べながらテレビを見、久しぶりに夜更かしをした私は太陽が登りきった昼近くに目を覚ました。

もう昼だと言うのに、空気は冷たく体をいじめてくる。

”なんでだろう。今日はいい天気なのになぁ。昨日の雨のせいで気温が下がっているのかなぁ。あー寒い寒い。”

”空美?やっと起きたのか?もう昼だぞ‪wま、今日は特に予定もないからいいけどな。”

そう言って兄ちゃんは、ニカッと私に笑いかけてくれた。

…あれ?んー?

兄ちゃんの顔なんか赤くない?

えっ…。なんか泣いた後みたい…。

えっどうして?なんか嫌なことがあったの?

それとも怪我とかして痛いの?

どうしてそんな顔してるの…?

”どうして…”

”ん?空美?なんか言ったか?”

”あっいや、なんでもないよ!そうだ!私、顔洗わなきゃ。えーと、洗面所は…どこ?あれ?どこだっけ?”

”あぁ洗面所か、洗面所はな、ここの廊下突き進んで右手に曲がるとあるぞ?”

”そっか、ありがとう兄ちゃん。じゃちょっと行ってくるね!”


パタパタ


”突き進んでぇ右手っと、あっここだ!”

洗面所は、すぐ近くにあった。

洗面所には、鏡が無かった。

普通だったら分からないはずがない、それくらい近くにあった。


……どうして?

なんで私はここの場所が分からなかったの…?

何かがおかしい。

だってさっき兄ちゃんは、半袖を着ていた。汗だって少しかいていた。

つまり今日は、暑い。

なのに私は、寒気が止まらない。

寒い、寒い、寒い。

風邪でも引いたのだろうか。

そう言えば頭も痛い気がする。

”兄ちゃん〜!ねぇー!私、熱あるー?”

”ん?熱?具合悪いのか?!大丈夫か?!”

”あっいや、大丈夫だよー。平気、平気。”

”そうか…?大丈夫か?ほんとか?”

”大丈夫だって!平気だよ!”

”そっか、よかった。でも今日は、念の為家に居ような?兄ちゃん、ボードゲーム用意して待ってるから、顔洗ったらこっち来いよ?”

”分かった〜”

必死な兄ちゃんの顔を見たら余計心配かけるようなことは言えなくなった。

大丈夫…だよね?ね?私。大丈夫、だよね?


”兄ちゃん!終わった〜!ゲームしよ!”

”お、終わったか。こっちも準備万端だぞ〜。”

リビングへ行ってみると、オセロにトランプ、将棋にすごろくといった様々なボードゲームが並んでいた。

”どれやりたい?”

”えーとね、じゃあこれ!”

私が取ったのは、黒ひげ危機一髪のタムタムバージョン。

小さい頃、兄ちゃんと遊んだ物だ。

”やっぱり空美はそれか‪w‪”

”もー!いいんです〜。タムタム好きだもん!可愛いもん!”

”ごめんごめん。じゃ、それやるか。ん、喉乾いたなあ。なんか飲んでくるか。”

”じゃあ準備しててくれ。ちょっと飲んでくる。”

”OK!りょーかいですっ!”

”よろしくな〜”


パタパタ


ん、よし。

完全に兄ちゃんは、向こうへ行った。

胸に浮かんだ違和感を調べるのなら今しかない。

何かがおかしい。

その何かを知りたい。

私は、何かを忘れているの…?

兄ちゃんと、一緒にお出かけした時を、思い出してみると、私は他人と一切会話をしていない。パンケーキ屋さんに行った時もだ。

テンションが上がっていて気づかなかったけど私、あの時も誰とも会話をしていない。

誰も私に話しかけてくれなかった…?

いや、そんなことは無いはず…。

パンケーキだって、食べた、よね?

…あっそうだ、あの時パンケーキは何故か兄ちゃんの方に運ばれてきたんだった。

私が文句言って、兄ちゃんがなだめてくれて、それでそれで…。

あれはなんでだったんだろう。

私、もしかして見えてない…?

いや、そんな事無い、ないよね?

私、見えてるよね?人間だよね?

あっそう言えばタムタムショップに行った時もそうだった。

店員さんに声をかけられたのは兄ちゃん。

「彼女さんへのプレゼントですか〜?」

と声をかけられ、兄ちゃんはやんわり

「違うんですよ。妹への贈り物です。」と答えていた。私は違うと叫んだ、のにあのお姉さんは、顔を歪めなかった。

あれは、私を無視したんじゃなくて、聞こえなかった…?

私の姿が見えなかった?

えっ…私、存在してるよね?

そうだ!!鏡!

自分で確認すればいいんだ!

そういえば鏡はどこ?

洗面所には、無かった。

これ、おかしくない?

ま、いいや。今はとりあえず確認が先。


鏡がないなら、テレビを消して…。



ない。

写らない。

私の顔が無い。

私の身体がない。


あっ私の写真。

テレビの裏なんかに隠してある。

これ…高校の卒業式だ。

ってことは、私今高校生じゃないんだ。

私は、誰…?


あっこれ、遺影だ。

だってほら。

テレビの裏に棚がある。

これ仏壇だ。

ユリの花に私の好きなチョコレートまで丁寧に置いてある。


あーそっか。ははっ。私、死んでいるんだ。

そっか、そっか。

なんかしっくりくるな。


”空美〜?準備出来たかー?”

”兄ちゃん、私、分かっちゃった。私、死んでいるんだね。”

”っ…!空美!気づいてしまったのか?”

”まあね、気づいちゃったよ。私は、ここにいて良い人間じゃないんだ。”

”そんなことは、無い!空美はずっとここにいていいんだよ!”

”ふふっありがとう、兄ちゃん。だけどね、私もう行かなきゃみたい。”

”そんな、せめてあと1日!俺が買った時間までは、いてくれ!お別れだって出来てないんだから。”

”兄ちゃん…分かったよ。”

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る