〔番外編〕最もあやしい話

 本作『半実話あやし奇譚』は他人ひとに聞いた話がもとになっている物語だ。また、聞いた話に脚色を加えてあるため、半分だけ実話というのが本作の特徴になっている。


 しかし、今回は僕自身の体験談であり、かつ完全な実話を語ろうと思う。信じるか信じないかはあなた次第だが、この話に嘘偽うそいつわりはない。また、今まで書いてきたエピソードの中で、最もあやしい話と断言してもいいだろう。心して読んでもらいたい。


 それは梅雨時期の蒸し暑い日だった。正確な時刻は覚えていないが、午後一時頃だったように思う。ひと仕事終えた僕は、パソコンの前に座って缶コーヒーを飲んでいた。


 その日は軽い頭痛がしていた。目の奥に頭痛の種のようなものがあり、ギュッと締めつけるような痛みがある。耐えられないような強い痛みではないが、気分がどんよりとする不快な痛みだった。


 パソコンのモニターを見ていると頭痛がひどくなるかもしれない。僕はそう思いながらもネットニュースなどを読んでいた。時事ネタに目と通しておくのも客商売には必要なことだった。


 ひと通りニュースを読み終えると、案の定頭痛が少しひどくなっていた。目を休めたかったがメールのチェックもしなければならない。お客さんから予約や問合せのメールが届いているかもしれない。


 そして、受信したメールを順番にチェックしているときに僕は見つけたのだ。その問題のメールを――


 それは見知らぬ人物から届いた一通のメールだった。


 読むと呪われるというチェーンメールがある。まことしやかに恐ろし内容が書きしるされているメールだ。一瞬、そういうたぐいのものかと思ったがそうではなかった。


 差出人を確認するとT氏とある。てっきり偽名か思っていたが、なんとT氏は本名を晒していた。そればかりか、勤めている会社や部署まで明記していた。


 そんな彼が送ってきたメールの内容は――


 僕は目を疑った。一度読んでもにわかには信じられず、最初からもう一度読み直した。二度読んでもすぐには信じることができなかった。


 こんな奇異なことが実際に起こりうるのだろうか? いったいT氏はなにを考えているのだろうか。


 これはあり得ない。あやしいレベルの話ではなかった。T氏が送ってきたメールの内容を端的に言えば打診だった。


『半実話あやし奇譚』を書籍化してみないか。


 そういった内容がそのメールには書きしるされていた。


 きっと、なにかの冗談だ。僕はそう結論づけたが、冗談などではなかった。某大手出版社に勤めているというT氏は、本気で『半実話あやし奇譚』の書籍化を検討しているようだった。


 冗談でなければきっと夢だ。きっとそうだ。これは夢に決まっている。


 頬をつねってみた。痛い。腕立てをしてみた。しんどい。青汁を飲んでみた。まずい――いや、最近の青汁はそこまでマズくない。


 どうやら夢でもないらしい。T氏は実在の人物であり、書籍化の話は現実のようだ。


 だが、それでもあやしいという思いは消えていない。あやしすぎる。冗談でも夢でもなければ、カクヨム登録者を狙った詐欺的なものではないだろうか。書籍化してみないか詐欺。カクヨム登録者であればコロッと騙されてしまうだろう。


 僕は未だにあやしんでいる。本当に『半実話あやし奇譚』が書籍化されるのだろうか。


 そんなことがまさか……


 とにかく僕の拙作が書籍化されるなんてあやしすぎる。『半実話あやし奇譚』の連載開始以来、最もあやしい話に違いなかった。


 目の奥にあった頭痛の種は、いつの間にか完全に消えていた。


     ◇


 ということで、改めてご報告です。当方の拙作『半実話あやし奇譚』が書籍化されることになりました。あやしいけど本当に書籍化してもらえるみたいです。まさかの書籍化でテンションあがり中です。


 どの作品を書籍化してもらっても当然ながら嬉しいんですが、『半実話あやし奇譚』の書籍化は特に嬉しいんですよね。カクヨムに登録したのが去年の十一月で、はじめて投稿した作品が『半実話あやし奇譚』になるんです。いわば処女作ですから、他の作品よりもちょっと思い入れが強かったりします。


 それを書籍化してもらえるというのはやっぱり嬉しさ倍増です。この嬉しさをどう表現したらいいのでしょうか。表現の仕方がわからないので、表現しないでおきましょう。嬉しさをひとりで噛み締めておくことにしましょう。うふふふ……


 それはさておき、『半実話あやし奇譚』を書籍化してもらえたのはみなさんのおかげにほかなりません。連載開始から書籍化の話をいただくまで半年強、こつこつと書き続けてくれたのは、みなさんがコメントやレビューを残してくれたりしたからです。それがなければ、とっくに書くモチベーションを失っていたと思います。


 もし、書くのをやめていたら当然書籍化も叶いません。『半実話あやし奇譚』が書籍化されたのは、間違いなくみなさんのおかげなんです。みなさん、本当にありがとうございました。


 実は書籍化の話は七月の頭くらいにいただいてました。すぐにお礼の報告をしたかったんですが、正式発表されるまで口外禁止だったんですよね。やっとお礼ができて、気持ちがすっきりしました。


 ちなみに、書籍版のタイトルは『半実話あやし奇譚』ではなく『5分で読書/思いもよらない奇妙な体験』です。また、タイトルだけでなく、本文もかなり加筆や修正をしてあります。カクヨム版とはほとんど別物に仕上がっているエピソードもありますし、カクヨム版にはなかった謎のストーリーテラーなんかも登場します。


 それと書籍化してもらえるのは全話ではありません。13話ぶんになります。


 5分で読書シリーズの一冊になりますので、中学生くらいの方の朝読用の書籍です。朝読って読書習慣をつけるために実施されているものですが、実は僕も子供の頃は読書習慣がまったくなかったんです。大人になるまでに漫画以外の本は小説を含めて数冊しか読んでいません。おおげさに言っているんではなくて、本を読まない人間ってほんとに読まないんです。読書感想文の宿題も本を読まずに、友達のを改良して提出してましたしね。


 そんな僕の本が朝読用になるなんて不思議な感じがしますが、読書の楽しさを知るきっかけになってくれたら嬉しいですね。


 以下のカドカワ公式ホームページに『5分で読書/思いもよらない奇妙な体験』の詳細が載っています。よければご覧くださいませ。


https://www.kadokawa.co.jp/product/322006000810/


 もし、ご興味を持っていただけた場合は、お近くの書店やア○ゾンなどでご購入くださいませ。書店の場合は児童書コーナーにあるはずです。




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