第30話 トラックが三台
三十代後半の
越智さんには
当時の都子さんは山間部の小さな田舎町に住んでおり、なぜか日課の散歩中に赤信号の横断歩道に侵入した。そして、たまたま通りかかった軽トラックと接触し、ほとんど即死状態で亡くなったという。
お通夜と葬儀は都子さんの住んでいた町の公民館で執り行われた。小学生だった越智さんは両親と共に参列したのだが、町が遠方にあったために学校を四日休むことになった。
通夜式が終わってすぐのことだった。越智さんはずっと我慢していたトイレにいこうとした。そのとき、薄暗い廊下でふたりの中年女性とすれ違ったのだが、越智さんの親戚ではない見覚えのない人だった。おそらく、同じ町に住む都子さんの友人だったのだろう。ふたりは声をひそめながらこんな話をしていた。
「信じられないわ。そんな罰当たりなことをしたなんて……」
「でしょう? だから、みんな噂してるのよ。都子さんがトラックに轢かれたのは、それが原因だったんじゃないかってね……」
「あり得なくはないわね。
「私もそう思うわ。今までの例からしても一台ってことはないでしょうね……」
罰当たりなこと? 三台って? トラックが三台ってこと? 女性たちの会話は意味不明だったった。しかし、ふたりの顔があまりにも神妙だったため、越智さんはなんだか恐ろしくなったそうだ。
ここで越智さんの話はいっきに約二十年後まで飛んだ。
朝晩が涼しくなりはじめた時節だったという。都子さんには五人のお子さんがいたらしいのだが、その次男にあたる男性が深夜に投身自殺を図った。簡単な遺書だけを残してマンションの高層階から飛び降りたのだという。悩みなどこれっぽっちもないような明るい人で、実際に借金などは抱えておらず、仕事もプライベートも順調そのものだった。
親戚の誰もが悲しみよりも先に困惑を覚えた。
なぜ、あの人が自殺を……?
斎場で行われた男性の葬儀に越智さんも参列したのだが、そのさいにずっと忘れていたことを急に思いだしたそうだ。都子さんの通夜式が終わったとき、偶然耳にしたあの話だ。
「あり得なくはないわね。
どういった
ふと越智さんはこう思い至った。三台というのは認識違いだったかもしれない。
三台ではなく三代。つまり――
「きっと三代は続くわよ」
都子さんはなにかしらの罰当たりなことをした。その報いとして、都子さんを起点とした三代目までの誰かに、
一代目の罰は言わずもがなだが都子さんの事故死。二代目の罰は都子さんの次男の自殺。今のところなにも起きていないが、三代目の罰は孫の代の誰かが受ける。
子沢山だった都子さんには多くの孫がいる。三代目といってもひとりやふたりではないが、越智さんも都子さんの孫であり、三代目のひとりとして数えられる。本当に三台ではなく三代であったとすれば、次はいったい誰に災いが降りかかるのだろうか。
ふとそんなことを考えてしまったとき、越智さんは夜も眠れないほど不安になるのだという。
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