とってもストレートな発言でっ!

 ユニバンス王国・王城内国王私室



「アルグスタよ」

「はい陛下」


 登城すると同時にお兄さまのメイドがやって来て拉致られた。


 前後左右を武装したメイドに囲まれたら抵抗という文字が頭の中から抜け落ちる。

『先に行ってお部屋の掃除をしておきます』と告げてポーラもスススと消えてしまったので大人しく従った。


 抱えていたノワールは現在チビ姫が抱いている。日に日にあのお馬鹿の溺愛っぷりが増している。仕方がない。ウチの子はマジで天使だ。ただ一緒にこの部屋に来てしまったあの子がお腹を空かせて泣き出さないかがちょっと不安だ。


 まあ日中あの子の相手をするのが僕の仕事だから仕方ないんだけど、普通に考えると子連れ出勤はあり得ないとか……ですよね。でもノイエが乳母を許さず、何よりあの子を屋敷に置いておくとノイエがそっちに突撃してしまう。

 僕やポーラが留守中の屋敷でノイエがノワールを抱きしめる……たぶん仕事を放置してずっとあやし続けることだろう。それはそれで国策としてアウトだから許されない。


 この国の方針としてはノイエが王都で大量にドラゴンを狩ることで近隣のドラゴンを集めまた狩ると言った感じだ。『姉さまはタンクとしてもアタッカーとしても優秀よね。RPGなら絶対にパーティーメンバーに入れるキャラ確定だし』と悪魔が言っていたがその通りだ。ただその場合は常に食料を準備していないといけないけれど。


 はい。現実逃避終わり。


「お前が所持している『保温』という名のプレートなのだが」

「あれの所有者はノイエです。陛下」

「……」


 恨みがましい視線を陛下が向けて来た。


 理由は知っている。あのプレートの所有者が僕であれば懐柔もできよう。だがノイエになると話が変わる。ウチのノイエが頑固なのは有名だ。そしてこの国で最強、大陸でも屈指の強者だ。


 何をどうすればそんな相手からあのプレートを得られるか?


「……もう一つ作れないか?」

「アイルローゼ次第としか」

「そこを何とかならんか?」

「あの魔女は馬鹿義姉もとい屑義姉の管轄なんで僕にはどうにも……」


 駄義姉ことグローディアは4名の近習を抱えていることになっている。


 打撃役としてのアイルローゼ。護衛役としてのカミーラ。娯楽担当としてのセシリーンとレニーラだ。それ以外にも居ることにしても良いが余り居すぎると面倒なことになる。


 よって他は僕が違う場所に隠し匿っているということにしている。あくまで建前上だけどね。

 その建前を知るお兄さまがストレートにお願いして来ない様子からして、この部屋はたぶん盗聴されているのだろう。それほどの案件になってしまったとかマジでビックリだよ。


 それかお菓子でチビ姫を買収する気か馬鹿貴族たちよ?


 自慢では無いがウチの店は大陸屈指のお菓子店に成長していると自負している。何せ悪魔が地球産のレシピを大量に配布したからな。曰く『自分で作るより他人に作らせた方が楽』だとか。


 まず大量にレシピを書けたアイツにビックリだ。

 料理なんてまるでできないだろうと高を括っていたからな。


 そう告げたら殴り合いの喧嘩になった。ちゃんと勝ったから問題ない。知り合いのオッサンから授かりし伝説の秘奥義『電気あん摩』で圧勝した。ただしあの技は色々な意味で危険なので封印だ。


 よって先生の存在は余り明るみにしたくない。そうで無くとも僕には個性的な2人の姉が居る。僕のお抱えメンバーとして良く外に出て来るのが猫とホリーお姉ちゃんだ。それ以外は基本出ても屋敷の外に出たがらない。きっと色々と思うことがあるのだろう。


 そしてその2人はお城に来れば大人気だ。ファシーに至っては猫っぷりがますます増して本当に愛らしい。あれほど見てて癒される存在は多くない。ノイエに通じるものがある。よって姿を現すと城中の可愛いモノ好きが寄ってたかって僕の執務室にやって来る。


 ホリーお姉ちゃんの場合は大臣クラスが連なって書類の束を持っての参拝だ。少しでも助言を得られればとやって来ては大量の袖の下をチラつかせるのだ。ホリーは気まぐれで相談に応じては袖の下を受け取り、そのお金は全て僕に預けて『好きに使いなさい』とだけ言って来る。

 大半は寄付に回すが全額を回すと怒り出すので困っても居る。お姉ちゃんからすれば僕にお小遣いをあげているのだから少しは好きなことに使って欲しいらしい。

 仕方がないので食事代金として外食費で使うことにしているけど。


「……うん。無理ですね」


 別のことを考えてはいたが、たっぷり時間をかけてから返事しました体で返答する。


 だってあの魔女は本当に基本気まぐれですから。


「お前との仲は良好だと聞いているが?」

「だったら尚更です。波風が立つと彼女がこの地に立ち寄らなくなる可能性がありますので」

「それは本当に困る」


 困ると言っている陛下の表情が優れない。そんなに厄介な案件なのか?


「具体的に何処が欲しがっているんですか?」

「ある意味で全てだ」

「はい?」

「だから全てだ」


 何でも保温のプレートを欲しているのは研究職が居る現場の全てらしい。


 特に煩いのが魔法学院。それならポーラを派遣して鎮圧しよう。

 次いで煩いのが魔剣工房。それならポーラを派遣して鎮圧しよう。


 次いで……とにかく陛下が煩い所を順に告げて来て、全てにポーラを派遣して鎮圧する方向に決めた。


「お前……義理とはいえ妹であろう?」

「大丈夫です。ウチの妹はノイエの妹ですから」

「……」


 安易に武力で鎮圧するぞと言うことだ。


 我が家の攻撃力は大陸屈指~と言う奴だ。きっと旧ドイツ軍よりも強いはずだ。


「それと」


 まだ居たか。


「ハルムント家が」

「……」


 フレアさんの一件は馬鹿兄貴との確執で済んだが、叔母様が敵に回るとなると大戦争勃発だな。


 たぶんこの国が地図から消えるか?


「ノイエを派遣して鎮圧しましょう」

「止めてくれ。本当に頼む」


 頼まれてしまった。


「どうにかあと1枚だけ作らせることはできないか?」


『1枚あればどうにかする』と言いたげな視線に、たぶんこの辺が妥協点だと判断する。これ以上の抵抗は我が儘にしかならない。


 何よりお兄さまの胃に穴でも開いたら誰がこの国を背負う? 馬鹿兄貴が国王になろうものなら僕は全力で亡命するぞ?


 亡命先はどこぞの変態女王が支配する地域で良いだろう。

 隣国の小国に行って悠々自適に生活するのも悪くない。


「話はしてみますが、期待はしないでくださいね」

「分かっている。もしそれでもダメなら……」


 最終合意点として僕が現在保持しているプレートを使用しなくなり次第王国に貸し出し、王国が希望者に貸し出すことで話を纏めるそうだ。


 最悪それがあるなら……はい? たぶん借りた所が絶対に返却を拒否する? その場合はノイエが出向きますが?


 内乱に発展するからそれを止めて欲しいと。だからのあと1枚なんですね。

 了解です。納得はしませんが分かりはしました。


「アイルローゼに手紙を出してお願いはしてみます。ただ返事などに時間がかかる場合もありますのでその辺りはお許しを得られればと思います」

「分かっている。分かっている」


 念押しなのか切実なのか二度言われた。たぶん後者だろうな。


 疲れ果てた様子のお兄様をその場に残し、僕はノワールを回収して……ウチの子を離せチビ姫よ。


 なに? 可愛いから養女にする?


 ならば聖戦だこの馬鹿よ。お前の人生を今日終わらせる。


 抵抗激しい馬鹿姫を抱え僕は自分の執務室へ戻ることにした。




 ドラグナイト邸・夜半



「作るのが嫌とかじゃないんだけど……直ぐに同じ物を作るのは気乗りしないのよね」


 ノワールが満腹となりぐっすり眠ったタイミングで先生が出てきた。

 椅子に腰かけ足を組み……そんな動作がとてもエロいです。先生最高です。


「煽てても無駄よ。気乗りしないから」


 やはりか。


「それにこの手の奴は絶対に甘い顔をしたらダメよ」

「経験者は語る系?」

「そうね。そうかもしれない」


 机に肘を置き頬杖する先生は本当に気乗りして無い印象だ。

 たぶん嫌な記憶を思い出しているのだろう。先生は戦時中に大量のプレートを刻み続けた。この国のためにと心優しい先生は必死に働き武器となる物を作り続けたのだ。よく心が壊れなかったと思う。


 違う。そんな嫌な思いをノイエが全て引き受けたのだ。だから彼女の心は黒く染まった。


「先生の技術はみんなが平和に使えるそんな物になって欲しいですね」

「国の王族がそんなことを言うの?」

「別に良いでしょう?」


 王族と言ってもそれは体だけだ。中身である僕は全力で庶民だしね。


「……そうね。私の魔法が平和に使われるなら少しはやる気になっても良いけど」


 クスリと笑い先生から色が抜けていく。


 確かにね。だって先生はノワールの為に保温のプレートを刻んでくれたんだから。


「つまり国王陛下の胃にダメージを負って貰うしかないらしい」

「なに?」

「何でもない」


 ノイエは座っていた椅子から立ち上がりベビーベッドに歩み寄ると、スヤスヤと寝ているノワールの額にキスをした。


「アルグ様」

「ほい?」


 こちらを向いたノイエの目が気のせいかとても好戦的に見えた。気のせいだよね?


「やる」

「とってもストレートな発言でっ!」


 溜まりに溜まっていたらしいノイエの性欲が……平和って本当に遠そうです。




~あとがき~


 ノワールの為なら自分の技術を使うことに躊躇いは無い。

 今のアイルローゼの考えはそんな感じです。それと妹夫婦が平和に暮らす為なら迷うことなく魔法を使います。


 次回からはあれが出ますw




© 2024 甲斐八雲

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る