ランドセルを背負わせるぞ?

 神聖国・都の郊外



「つまり君は魔眼の中でウチの母親に修行を付けて貰っていたと?」

「はい」

「……」


 知らん間にウチの実母がナメクジチックな星人的ポジションなお方になられていました。


 どうしてそうなった?


 ウチの母親はごく普通の日本人だったはずだ。違うと悪魔は言っていたが僕の認識ではそのはずだ。そして人付き合いが苦手で病弱と言うか虚弱な人だったはずなのだ。


 それがどうしてこうなった?


 虚弱だったけど仕事は真面目に努めて僕を一生懸命に育ててくれた。感謝はしている。尊敬もしている。それでもだ。


「ノイエ」

「はい」


 そっと顔を巡らせてウチの愛しいお嫁さんの顔を見る。


 というか君はずっと僕のことを見ていませんか?


「好きだから」

「……ありがとう」

「はい」


 真っ直ぐ過ぎる言葉にちょっと照れてしまった。


 それは良い。考えすぎると顔が熱くなるから別のことを考えよう。

 ノイエにお姫様抱っこをされているので今の僕はまな板の上の鯉である。ノイエがその気になったらいつでも食べられてしまう状況だ。


 うむ。今の僕にはその気が無い。はい嘘です。完全にガス欠です。賢者タイムを通り越して聖人タイムに突入している。今なら悟りを開くことが出来そうなほどに落ち着いているのだ。


 貧血で倒れた僕をノイエは抱えて運んでくれている。

 何故か鎧を着ることを拒否してワンピース姿だ。理由はとても簡単である。


「する?」

「しません」

「む」


 こう言う訳だ。僕が少しでもしそうな雰囲気を見せたらノイエは迷うことなく食らいついて来るだろう。


 その昔ユニバンスの貴族たちがノイエに殺されるからと不安がって結婚を拒否していたらしい。だが現実は違う。ノイエに食べられ続ける不安があるだけだ。

 ノイエの愛はとても深すぎる。そして性欲は底なしだ。


「アルグ様ほどじゃない」

「失敬な」

「むぅ」


 何故拗ねる? それは良い。


「で、ウチの母親は魔眼の中に?」

「はい」


 抱えられて進む僕の隣でポーラが頷く。


 顔色が悪かった理由……何でもウチの母親に魔眼の中で修業を付けて貰っていたのが原因らしい。


「つまりあの母親はウチの妹をイジメていたと?」

「イジメでは無かったかと」

「庇いだては無用です」

「はい」


 全くあの母親は。


「ノイエ」

「はい」

「ウチの母親に文句を言っておいてもらっても良いかな?」

「はい」


 快諾してくれた。ノイエは優しいから『母さんを叱れない』とか言う可能性もあったが、落ち着いて考えると姉と慕う人たちにも文句を言っていたからちゃんと叱れるらしい。


 なんにせよ。本来なら僕が門を言うべきなのだろうが、あの母親は現在進行形で幽霊だ。そして幽霊が見えるのはノイエだけで……はて? 何かを忘れているような?


「あ~。忘れてた。ノイエ」

「はい」

「ユーリカとか言う名前の背後霊は?」

「……」


 ノイエの視線がようやく僕から離れた。キョロキョロと辺りを見渡し、何故か先に彼女のアホ毛の先端がポーラに向けられてから視線が追い付く。


「そこに居る」

「何処?」

「その子の背中」

「……」


 詳しく聞いてみるとあの桃色幽霊ことユーリカは現在ポーラの背中に張り付いているらしい。


 説明を聞いて疑問が生まれる。


 サイズが違すぎないか? 小柄なポーラの背にユーリカが張り付いているだと?


「ズルズルと」


 それは張り付いていない。勝手に背後から抱き付いて引きずっていると言う。


「ならそれで」

「横着しない」

「むう」


 拗ねたノイエがペシペシと僕の頭をアホ毛で叩いて来た。

 本当にそのアホ毛はノイエの代わりに色々と感情を見せるようになって来たモノだ。後でエウリンカを呼び出してこのままの状態であのアホ毛は大丈夫なのか調べさせないとな。


「で、母親は魔眼に残ると?」

「はい」


 突然話を戻して妹に振る。ポーラも慣れたもので返答に迷いすらない。


 何でもウチの母親様はしばらく魔眼に残るそうだ。それは良い。というかこの世界の幽霊は自由すぎやしないか? ウチの母親もそうだが、そっちの背後霊もそうだ。


「アルグ様」

「はい」

「相談する人が居なくなった」


 何の相談とか恐ろしいから聞かない。大丈夫。僕の第六感は時折良い仕事をしてくれる。


「そのうち出て来るんじゃないかな?」

「はい」


 煩いからしばらく中に籠って居てくれて良いけどね。


「むう」


 またペチペチとノイエのアホ毛が襲って来た。


「相談したいことがあるのなら僕にすれば良いのです」


 これでも僕はノイエに夫であり、


「どうしたらアルグ様は喜んでくれる?」

「僕が元気な時にノイエが全裸で甘えてくれば良いかな」

「それはいつもしている」


 これこれノイエさん。いつもは言い過ぎですから。


 そして盗み聞きしている妹よ。その僕の語彙の中に存在していない複雑な表情でこっちを見つめない。嫉妬と羨望が混ざり過ぎてて言葉にならない表情になっているぞ?


「もっと喜んで欲しい」

「ん~。それはあれかな。特別な衣装とか着て」

「服?」

「うん」


 決してコスプレマニアでは無いがノイエほどスタイルの良い逸材が色々な衣装を着てくれると僕の何かが大興奮時代に突入するのです。

 時代が時代なら僕は船長となり大海原に冒険の旅に出ていることだろう。たぶんきっと。


「忘れていました。兄さま」

「ほい?」


 ゴソゴソとポーラが自分のエプロンの裏に手を入れて何かを漁りだす。

 もうこのエプロンに対してのツッコミは入れないことにした。入れるだけ無駄だ。


「お師匠様が新作と言ってこれをお作りに」

「なっ!」


 ポーラが引き出した物を見て僕は凍り付いた。

 まさかそれは……作ったのか? そんなマニアックな物を?


「セーラー服だと?」

「あとこちらもファシー姉さまにと」


 そ、それはっ!


「ランドセルだと?」


 お巡りさ~ん! 異世界で幼女趣味が大渋滞です。


「リグ姉さまが背負うと大変なことになるとか言っていました」

「ぐはっ!」


 想像したら大ダメージを受けた。


 リグが、あのリグがランドセルだと? もう色々とアウト過ぎて大ダメージ過ぎるだろう?


 後ろから見ればアウトはアウトだがある意味でセーフだ。しかしそれを前から見てらどうなる?


 何て恐ろしい凶器かと思うのです。


「うむ。それらは後で悪魔に代わり色々と実験調査してデータを残す必要があるな」

「……兄さま?」


 ポーラさん。例え何が起きてもお兄ちゃんにそんな目を向けてはいけないのです。


「それと」

「まだあるのかっ!」


 あの悪魔め……どれ程のトラップを仕掛けて行ったのだ?


「こちらは」

「白スク水か~!」


 違った意味で心的ダメージを受けた。


 それは今はダメだ。何故なら股間の部分にペットボトルがチラついてしまう。それが無ければ……誰だ? サイズ的にシュシュとかかな?


 あ~。フワフワしたシュシュを捕まえて無理矢理着させるのは面白いかもしれない。この手の衣装を着たアイツは絶対に照れてフワフワしなくなるからな。


「トドメで」


 追い打ち宣言っ!


「チアの衣装一式だとっ!」


 レニーラだ。レニーラを呼べっ!


 絶対にアイツなら完璧なチアをしてくれるに違いない。というか見たい。


「……うん」


 一度深呼吸して僕は心を落ち着けた。


 決めた。というか確定した。


「ポーラさん」

「はい」


 僕らは今神聖国の都へ向かい歩いている。僕だけ歩いていないがとりあえず全員で向かっている。


「都に到着次第、大至急食料の確保を」

「難しいとは思いますが?」


 ポーラの意見は良く分かる。


「そこは交渉です」

「交渉ですか?」

「そうです」


 別に難しいお願いをしようとは思っていません。


「ノイエの魔力を回復させて大至急本国へ帰還。援助物資を搔き集め再度都へ戻って来る。その間にあの変態女王たちが都を掌握すれば良し。失敗するようなら知らん」

「……部族連合を出迎えると言う話は?」

「それをしてからの帰国なら文句はあるまい」

「……」


 妹様が何とも言えない微妙な表情を浮かべた。


「兄さまが交渉するのでしたら私は構いませんが」

「はい決定」


 後はノイエの魔力次第だ。


「まず帰ってウチのベッドでぐっすり寝てからセーラー服を堪能する」

「……兄さま?」


 気にするな妹よ。あまり気にするようなら君にはランドセルを背負わせるぞ?




~あとがき~


 小説家になろうのメンテナンス延長の都合で投稿が一日遅れました。


 たぶんあと数話で神聖国編は終わりです。

 というか自分の中ではこの話である意味終わっています。

 後は変態女王たちが頑張る話ですかね?




© 2024 甲斐八雲

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