お姉さんをイジメないの
神聖国・都の郊外
足元に不安を覚えつつ勘のみで歩く。
薄っすらと見えるようにはなったんだけど、これはとても怖いな。
セシリーンとか良く杖無しで歩けるものだ。ちょっとした石の凹凸でも恐怖でしかない。
ただそれでも歩く。何故なら世界が滅びかかっているらしいのに何一つ進展していない姉妹が居るからだ。
決して請け負った感覚は無いのだが、悪魔が必死に懇願して来るから姉妹の説得に回ることにしたのだ。
ロリ体形のポーラの体で誘惑されても僕の食指は動かない。ただ可愛らしい猫は別腹だ。あれは猫だからロリではない。セーフだ。ついでにリグは身長が低いだけで一部分が凶悪だからセーフだ。つまり僕はロリではない。この手のことは断言した者の勝ちだ。つまり僕は勝者だ。
……これ以上ノイエの中に魅惑的なロリが居ないことを切に願う。居ないよね?
よろめきながら歩くこと暫し、お馬鹿な姉妹の声がはっきりと聞こえる距離まで来た。
あの青い猫のようなゴーレムは便利だ。目印としては秀逸だ。だが版権や著作は異世界を越えるという噂もある。扱いは十分に注意だ。もしかしたらタイムパト〇ールがやって来て逮捕されるかもしれない。過去の改ざんはしていないからその心配はないか? 実は別のパトロールが居るかもしれない? 異世界パトロール? 異世界でも版権や著作権を守る人たちですか?
何それ本当に怖い。
『兄さま。変なことを考えてないでさっさと済ませてくれる?』
おいおい。とうとうウチの悪魔はテレパシー的なモノでツッコミを入れて来たぞ?
『魔法よ。遊んでないでさっさと仕事をするの』
へいへい。
人使いの荒い悪魔である。悪魔とは普通契約を介して人に使われる存在のはずだ。
それなのに悪魔の奴隷だ。酷い話である。
ただ悪魔は現在とっても忙しいらしい。魔眼の中がとってもカオスとか……ある意味でいつも通りだと思うが、普段より数倍カオスだとか。実に恐ろしい。近寄りたくはない。
現実逃避をしつつカオスの中心であるノイエたちの元へとたどり着いた。
距離にして10mもないのにとてつもなく長く感じた。今度セシリーンにあったら目を閉じていても歩くコツを習おう。
「ん」
「ノイエお願いよ。ちょっと本当に両腕が弾け飛びそうなんだからっ!」
「ん」
「だからノイエ~!」
薄っすらと見える視線の先で……青い猫の上で大暴れしている姉の前で何故かノイエが胸を張っている。実に良く分かる構図だ。何となく全てを悟った。このお馬鹿さんが。
まだチカチカして見えにくい目を細めつつ、僕はゆっくりとノイエの背後へと移動する。ただノイエのアホ毛が僕のことをロックオンしている感じが見えた。
このアホ毛はもう1つの生命体として活動していないか? これって本当に魔剣なの?
見てて不安しか覚えん。今度エウリンカに逢ったら……うん。あれはあれで良い胸だったから許そう。じゃなくてノイエのアホ毛がもう少し自重するようにならないか確認しよう。
「ノイエ~!」
「ん」
姉の絶叫にノイエが何処か嬉しそうだ。嬉しそうに胸を張って踏ん反り返っている。
こういう時はハリセンを召喚して優しくツッコんでやるのが大切だ。むしろノイエはツッコミ待ちだろう。
「姉をイジメるな」
軽くパシッと叩いたら、ノイエがグルンとこちらを向いた。一瞬首が180度回ったのかと思ったが、首の動きに合わせてクルっとターンしただけだ。その動きが余りにも滑らかで淀みが無いので首が回ったように見えるだけだ。
大丈夫。もう見慣れている。そう思っておこう。
「アルグ様」
「はい」
「もっと強く」
「……」
「強く」
お嫁さんが望むのであればそれを叶えるのが夫としての務めだろう。
だが望んでいる物が暴力の時は僕はどうすれば良いのか?
「強く」
「……はい」
求められれば断れないのである。
仕方なく振りかぶって自重に任せてノイエの脳天目掛けてハリセンを振り下ろす。
大丈夫。この角度ならアホ毛が盾となって……避けるんかいっ!
僕のハリセンを避けたアホ毛への恨みは忘れない。
クリティカルヒットしたハリセンの音が静かに響く。
ただノイエのアホ毛が嬉しそうにフリフリと揺れ出した。
「ん」
そしてウチのお嫁さんは嬉しそうな雰囲気を漂わせ、叩かれた部分を撫でている。
まさか自分の姉をイジメてそれを餌に僕を引き寄せハリセンで叩かれるところまでを全て計算していたのか? ノイエ……なんて恐ろしい子っ!
ノイエの場合は天然だろうから気にしたら負けだ。天然だろう。天然であって欲しい。お願いだから天然であれ、だ。
「で、ノイエ」
「はい」
「お姉さんをイジメないの」
「……」
スッとノイエが視線を逸らした。
「ノイエさん」
「……」
僕の呼びかけにノイエが後頭部を見せる。つまり背中を向けて来た。
「面倒臭いの?」
「……」
返事がない。何も答えない。
つまり面倒だけど別の理由があってお姉ちゃんをイジメていたのだ。
そう考えると……本当にウチのお嫁さんは可愛いな。
出しっぱなしのハリセンを戻し、僕は青い猫の元へと向かう。
丸い頭の上ではノイエの姉であるノーフェさんが、人さまには見せられない表情でゲシュタルト崩壊をしていた。
つまりボチボチ限界なのだろう。
「義姉さんや」
「あん」
返事が狂暴だ。余裕が無いのだろう。
「おたくの妹さんは成長した部分を大好きなお姉ちゃんに褒めて欲しいみたいですよ」
「……」
僕の言葉に軽く目を見開いた彼女は、慌てて妹を見つめる。
ノイエは……アホ毛が嬉しそうに揺れていた。僕の言葉が正解らしい。
「ノイエ」
頭の良いノーフェさんは理解してくれたのだろう。
静かに口を開いて穏やかな口調で語り出した。
「本当に成長したのね。お姉ちゃんビックリよ」
「……」
ビクビクとアホ毛が震えている。
あれは……感動か? 感激か? 打ち震えているから感動かな?
「あんなに小さくて弱かった貴女がここまで大きくなってくれてお姉ちゃん本当に嬉しいわ」
「……」
おお。ビクビクが物凄いな。余りにも震えすぎてて逆に怖い。
「これでお姉ちゃんに何が起きてももう大丈夫よね?」
「ダメ」
慌ててノイエが振り返り姉を見た。
ノイエの場合は慌てると動きが普通になる。
「消えちゃダメ」
「でもノイエ」
「ダメ」
駆け寄りノイエが姉を抱きしめる。
褒めて欲しいからって拗ねてみたのにまさかの姉からのカウンターで……本当にノイエは見てて飽きない。何より根っこの部分が甘えん坊だから軽くあしらわれた感じが半端ない。
伊達にノイエの姉をやっていたわけではないってことか。
「大丈夫よノイエ」
「ダメ」
「平気よノイエ」
「いや」
心温まる姉妹愛だ。
ノーフェさんがノイエに右手の光を返そうと躍起になっているようにしか見えないのも気のせいだ。
これこれ姉よ。妹を捕まえて無理矢理光を返そうとしない。もう少しは頑張れ。
「無理っ!」
「読心術?」
驚きが止まらない。何故かこの姉妹は他人の心を読めるのか?
「そんな路傍の石を見るような目で見て居れば分かります」
違うんです。まだ両目の調子が悪くてちゃんと瞼が開かないだけです。
実際動きが無いなら目を閉じている方が楽なんです。だから閉じているだけですので納得してください。
「もう腕が限界なんですっ!」
「……」
切羽詰まった感じの声がマジだ。
「ノイエさん」
「……」
「ノ~イエさ~ん?」
「なに?」
僕の声にノイエが折れた。
「お姉ちゃんが大好きなんでしょう?」
「はい」
「だったら分るよね?」
渋々といった感じで振り返ったノイエが姉の元へ行き、そっと両手で光が灯る手を握った。
「……面倒臭い」
ポツリと響いたノイエの声がある意味とっても人間臭く感じた。
「我が儘を言わないの」
「アルグ様が、我が儘を言っても良いって」
「うん。でもそれは僕に対してだよ」
「……」
無表情のままでノイエが頬を膨らませる。
はっきりと拗ねている様子が見て取れる。このまま拗ねると大変だから、
「それにノイエが頑張れば、義姉さんがもっともっと褒めてくれるよ?」
「……本当?」
妹の問いにノーフェさんが全力で頷き返す。
姉の威厳は何処に捨てて来た? 君の場合は実の姉だろう? もう少しは頑張れよ?
「ノイエが頑張ってくれたらお姉ちゃん、頑張って消えないようにするから!」
「……頑張る」
ギュッと光る拳を握りしめノイエのアホ毛にやる気が漲る。
あっこれアカン奴だ。ぶっちゃけノイエのやる気にブーストがかかった。
この場合はたぶん、
~あとがき~
ロリ枠はもう1人居ますが、あれが外に出ることは無いでしょう。と言うかとある理由で主人公と会うことが無いでしょう。だからロリ枠が増えることは無いはずです。決して振りではない。
あれ? 気づけば今回ノイエが1人勝ちなぐらいに儲けているような?
何度も言ってますがノイエは決して頭の悪い子ではありません。
と言ってもその頭がどれほどの物なのかを知る人は居ません。何故ならノイエですからw
不調が半端ないな。キーボードを前に全く指が動かない。
リアルのストレスがこっちに反映するから困るわ~
© 2024 甲斐八雲
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