公にできない問題がね

『ええっとですね……だから私が言いたいのは、あの子は自分に鬼の血が流れていることも知らないのよ。知らないのだけれど、あの子ったら昔っからあれだから。何だったかしら?

 天然? 天然で合ってます? それは私のこと?


 ん~。若い子の言葉は難しいわね。ええっとたぶんあれね。マイペースなの。そうそうマイペース。でも凄く優しい子でね、いつも私のことを気にしてくれていたわ。どんどん体を弱くしていくであろうことを受け入れていた私ですら心を動かされてしまうぐらいに。


 だから少しでも長生きできるように田舎に引っ越して穏やかに過ごして……でもあの子は本当に優しかったから私のことばかり気にかけてくれて。本当にあの子の母親で良かったと思う。あの子を残して先に逝くことに不安はあったけど、でも心穏やかに逝けるはずだったの。


 でもあの子ったら……普通線香の火で火事を起こす?

 本当にお母さんの気持ちを感じ取れない子なんだから。


 で、私よりも精神と言うか魂が頑強だからあっさり幽霊になってあっちこっちで幽霊騒ぎを起こして回って! あの子は知らないでしょうけど、私たちのお墓に何度自称霊媒師がやって来てお祓いをして行ったことか。


 除霊されたのか? 私がここに居る時点で気づいて欲しいかな。世の霊媒師の大半はインチキだから。

 断言するのは危ないの? でも事実よ。だってそもそもあの子は陰陽師の血を引いているから除霊されるより除霊する方なのよ。あの子の遺骨にだって霊的な加護が宿っているの。それを祓おうだなんてまず不可能なの。それに気づきもしない人たちが除霊をするだなんて私に言わせてもらえば、まずスタートラインに立ってから話をして欲しいって感じかな?


 えっと脱線している? ごめんなさいね。ちょっと熱を帯びちゃったかな?


 出来たらお茶でも……あら小さなメイドさん。ありがとうね。それといつもうちの子の面倒を見て貰ってありがとうね。あの子ったら普段言葉にしないだろうけど本当に感謝していると思うから、これからもあの子のことを宜しくお願いね。


 あら? まあまあ。こんなオバサンに抱き着いても良いことなんて……う~ん。そうね。あの子の妹と言うことは私はお母さんになる訳ね。うん。私で良ければ好きなだけ甘えても良いわよ。

 あらあらごめんなさいね。オバサンってば出来れば孫を抱いて逝きたかったから。ほら最後の鬼でしょう? だからせめてもの欲張りだったのだけれども、あの子ったら本当に。


 ああごめんなさいね。今軽く口を潤したら……ところで幽霊の私がどうして飲食できるのかしら? これは魔力であって食べている風なだけ? つまり?

 ふ~ん。難しいのね。つまり夢ってことかしら? 幽霊が夢を見るのか知らないけど。


 ああごめんなさいね。オバサン他の人との会話とか久しぶりだからついね。


 普段はノイエちゃんと沢山お話しするんだけど、あの子ったらなんて言うかコミュニケーションに難があるでしょう? だから会話をしていても意思の疎通が怪しくなるのが難点でね。でも基本とっても良い子だから大好きよ?

 あんな良い子があの子のお嫁さんだなんてオバサンとっても嬉しいんだから。


 あ~ごめんなさい。そんなに睨まなくてもって、こんなオバサンを庇ってくれるだなんて何て良い子なんでしょう。

 オバサン感激の余り涙が出て来ちゃう。こんな孫が本当に欲しかったわ。


 はい? 娘が良いの? うん。ポーラちゃんは今日からオバサンの娘よ。


 で、あっちのお姉さんが物凄く怖い目でオバサンを睨んで来るの。うんうん。ポーラちゃんは本当に良い子ね。

 それで何の話を……はい? あっちで死んだ私がこっちに来た理由?


 ん~。あれよね。良く分からないのだけど、私は死んで幽霊になるまでにあの子より時間がかかってしまったの。死ぬまでに結構弱っていたから幽霊になるまでに時間がかかってしまったの。

 それで幽霊になったらあの子も死んでいたから、どうにか過去を変えられないかと思って妖術を使って過去を飛び回っていたら、ある日の過去で物凄い力に引っ張られて……気づいたらこっちの世界に居たのよ。


 最初は良く分からないからあの子の背中に張り付いて辺りの様子を眺めていたらノイエちゃんが話しかけて来てくれてね。それともう1人話しかけてきた人が居たわね。確かカミューさんだったかしら? “特殊な事態だから緊急措置で”とか何とか言って私に力を与えてくれたのよ。確か祝福だったかしら?


 ん? 祝福の内容? 確か“翻訳”って言っていたわね。どんな文字でも言葉でも理解できるとか言ってたわ。


 使えないって酷くない? ポーラちゃん。あのお姉さんがオバサンをイジメるの……だからってポーラちゃん? そんな大きな鎌を準備して何をするのかしら? あのお姉さんの首を刎ねる? 


 ん~。オバサンあっちを見ているからスパッとお願いします。


 助けなさいって言われても、私は出来るだけ子供の行動を妨げるような母親になりたくないので。それがたとえ人殺しであっても子供がそれを強い意志で望んでいるのなら見守るのが母親の役目よね。そう思うの。でもオバサン血液とか生理的に無理だから首を刎ねるところは……そんな見事な土下座とか、あの子以外にする人が居るなんて。


 普段はポーラちゃんが……そうそうポーラちゃん。女の子が土下座なんてしちゃ、違うの? 全部あのお姉さんの仕業なの?


 うん。なら仕方ないわよね。大丈夫。オバサンちゃんと寸前まで見ててあげるからスパッとしちゃいなさい。


 ん~? 助けてくれたら何かご褒美?


 ご褒美って言われてもピンと来ないけど、確かに我が子が人を殺すのを見るのはあれよね。

 ポーラちゃん。今日は叔母さんに免じて許してくれるかしら? ん? 私がポーラちゃんを止めてご褒美を貰えば良いの?


 でもそれって詐欺みたいでダメだと思うの。


 良い? ポーラちゃんはまだ子供なんだから……何でそんなに落ち込むの? あれよ? オバサンから見ればポーラちゃんは子供って言う意味だからね?


 うんうん。分かってる。ポーラちゃんはもう少しで立派な女性よ。うん。分かってる。分かってるわ。だからオバサンのお話を聞いてくれる?

 うんうん。良い? 子供は詐欺みたいなことをしちゃダメなの。子供は清く正しく真っ直ぐと……お姉さん? どうしてウチの子の写真を拡大して掲げるのかしら?


 ええ。子育てに失敗したからこそ私はポーラちゃんに希望を見い出しているの。

 だからお願いポーラちゃん。貴女だけでも真っ直ぐ育って……って、どうしてお姉さんが握手を求めて来るのかしら? 子育てに失敗した経験がある?


 うんうん。私たちは同志よ!


 それで……何の話をしていたのだっけ? ああ。私がこっちに来たタイミングだったかしら?

 確か最初に来たのは凄く美人の女性たちが沢山居たわね。何人かはあの子の屋敷でも見たけど……はい? あれが魔眼の中だったの?


 う~ん。実はこっちに来た時は衝撃が強くて記憶が曖昧なの。


 ん? 普通霊体でこっちに来たら消滅するの? お姉さん詳しいのね。

 でもあの子も幽霊で……はい? それが不思議だった? ん~。オバサンの素人考えだけど、たぶんあの子は私の子供だから精神が頑強だったのだと思う。そして私は鬼だったから精神が頑強だった。つまり私たちは2人とも鬼の血を引いていたから精神、つまり魂が頑強だったから問題無くこっちに来たのかしら?


 でもあの子は召喚だったかしら? それでこっちに呼ばれたとか誰かの会話で聞いたのだけど……はい? それでも魂だけの召喚は出来ないの? 普通は肉体ごとなの?』




「オバサン馬鹿だから良く分からないわね」


 その言葉に魔女は冷えた紅茶を一気に煽った。


「だからあの日あの場所で行われた異世界召喚は成功するはずなかったのよ。魂だけをこっちに引っ張って来るだなんて不可能なの。人の肉体は魂を守る鎧だから、でも成功した。そうなるとその仮説が一番しっくり来るわけで……う~ん」

「師匠?」


 鬼に抱かれた弟子が不思議そうな表情で頭を悩ます師を見つめる。


「何か問題でも」

「あ~うん。あんまり公にできない問題がね」

「公にできない問題?」


 弟子と鬼とが可愛らしく首を傾げた。


「うん。ちょっと、かな~り、結構……ヤバいかもしれない」

「ししょ~?」


 額に冷や汗を浮かべる師に対し、弟子は冷めきった視線を向けるのだった。




~あとがき~


 やはり会話だけで1話分使ってしまった(-_-;)


 最後に刻印さんがフラグを立てていますが…うん。結構ヤバいよね?




© 2024 甲斐八雲

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