ど~こ~で~も~あ~お~い~ね~こ~!
神聖国・都の郊外
「お兄さま。お姉さま。お兄さま。お姉さま。お兄さま。お姉さま。お兄さ……」
「落ち着いたらどう?」
「落ち着けるか~いっ!」
全身で言葉を発し、刻印の魔女らしき少女はそのまま空を見ながら地面へと倒れ込んだ。
背筋を伸ばし綺麗な直立姿勢で両手は胸の上において……まるでエジプト系のミイラのように見えるがそれを知らないノーフェはただただ冷めた視線を向ける。
「寝るの?」
「……悪夢しか思いつかないっ!」
飛び起きまた辺りをグルグルと回り出す。
これはもう駄目だ。人として何かが終わっている……生温かな目を相手に向けてノーフェは薄く笑った。
「どうして笑えるのかな~!」
「滑稽だから?」
「しんらつぅ~!」
またエビ反りでブリッジを決め、何がしたいのか分からないがとりあえず困っている様子だ。
「それでどうして欲しいの?」
「おたくの妹さんを」
「それは無理ね」
「何でさっ!」
「だって……ノイエだから」
これ以上ない殺し文句に刻印の魔女は唇を噛む。
ただ相手から掲示された条件も捨てがたいから……ここは少しだけ交渉が必要だ。
「ねえ魔女」
「何さっ!」
「まず私の足をどうにかしてくれない?」
「どうにかしたらどうなるのよ?」
「少なくともあとはノイエをその気にしてくれれば」
軽くため息交じりの吐息をノーフェは吐き出した。
「ノイエって言う才能の塊が居たから私は聖女の修行をそんなにしないで済んだのよ」
「……つまり?」
伺うような相手の声にノーフェはその目を向けた。
「今のあの子の姉よりかは使えるって話よ」
「合点でさ~!」
また全身で声を発した魔女は両手をエプロンの中に押し込み何かを探るように動かす。
「ど~こ~で~も~あ~お~い~ね~こ~!」
「……」
何処からそれを取り出したのか? そもそも何処に入っていたのか?
色々と質問したくなったがノーフェはその疑問を飲み込んだ。
相手は腐っても三大魔女らしい。腐った三大魔女のだから股間からそこそこの体積の青いゴーレムを取り出すことも出来るのだろう。
「この未来の猫型ロボの上に座れば大丈夫っ!」
自信満々で魔女は自分の背丈ほどあるゴーレムの頭を叩く。
猫? あの青いのが猫? あの二頭身のゴーレムが猫?
猫というより……未知の存在である。少なくともあれは猫などではない。猫に対して失礼だ。
「頭に乗ったらツルっと滑りそうだけど?」
「そこは大丈夫!」
バンバンと魔女が自称青い猫の頭を叩く。
「この頭の上に座ればあら不思議っ! ピタッと吸い付くように安定した座り心地をご提供しますからっ! 今なら特別に微振動のサービスのお付けします! これさえあれば寂しい一人の夜も永遠にさようなら! 新しい性癖の扉が今開かれること間違いなし!」
「そんなの要らないんだけど?」
「微振動で満足できないなら振動レベルも三段階でアップできる機能も追加します! ですが今回は特別サービスで特別なアタッチメントを付けることが出来ます! この立派なキノコを独り占めっ!」
「だから要らないから」
「何でっ!」
何故か涙ながらに怒られた。意味が分からない。
「頭、大丈夫?」
「パンク寸前よ!」
「まず少し落ち着きなさい」
「落ち着け~。落ち着け~」
謎の動きを見せるキノコを両手に持つ魔女は自分にそう言い聞かせる。
何度か大きく深呼吸し、最後に息を吐き出して自分が握る物を見た。
「何でキノコやねんっ!」
「落ち着いたかしら?」
「バッチリです」
『本当に?』と視線を向けるノーフェだが、何故か魔女はドンと自分の胸を叩いて軽く咽た。
「ゲホゲホ……大丈夫。まだ時間はあるはずだからセーフ」
「本当に?」
「いやぁ~! お願いだから抉らないでっ!」
頭を抱えて魔女が蹲る。
「大丈夫よ。大丈夫。雷帝だってお兄ちゃんなんだからきっと奮闘してくれるはずよ。ちょっと妹がチートレベルで強化されていても瞬殺は無いはず。無いはずよ。無いわよね? 無いって言ってよミ〇トさ~んっ!」
「落ち着いた?」
「うん。スッキリ」
叫ぶことで何かを発散したらしい魔女が、パンパンと自分の衣服についている土埃を払う。
「足はこのゴーレムに座れば大丈夫よ」
「そう」
落ち着いたらしい魔女の受け応えに迷いはない。
「ただどうしたら姉さまがその気になるのか……」
「それは彼に頑張ってもらうしかないわよ」
「ん~。どうにか出来るかしら?」
不安はあるが仕方がない。
魔女は猫型ゴーレムの背を押し歩かせる。
一歩二歩と動き出したそれは、真っすぐ暗闇の方へと向かい突き進んでいった。
「まずは兄さまの回収が先決ね」
「そうね」
後はあの我が儘娘をどう説得するのかだ。
「ねえ? お義姉さん」
「何かしら?」
「兄さまならどうにかするって信じているの?」
その魔女の問いにノーフェは笑った。
「あはは……ウチのノイエが選んだ人よ?」
だからこそ確信にも似た感情をノーフェは抱いていた。
「どうにかしないようならその腹に風穴を開けるわよ」
「頑張れ~。お兄さま~」
暗闇の向こうにいる兄に魔女は棒読みの声援を送った。
「あ~。クルーシュさん」
「何よ?」
僕の両足を地面に降ろした彼女は玉のような汗を浮かばせたその顔を向けて来る。
どう見ても限界なのだろう。体力なのか魔力なのか分からないが仕方ない。
「ここまで逃げれば後はノイエがどうにかしてくれる」
「たぶん無理よ」
「どうして?」
息も絶え絶えな彼女は苦しそうな表情で言葉を続ける。
「空腹が半端無いの。今にでも気絶しそうなほどに」
「それはかつて無いほどのピンチだ」
空腹状態でノイエにバトンを渡したら……うん。あの我が儘ちゃんはきっと動かないな。
「頑張れクルーシュさん」
「……」
苦しそうな表情のノイエに見下されるこのシチュエーションに背筋がゾクゾクします。
何かおかしな性癖が目覚めてしまいそうです。危ない危ない。僕は普通。普通の人です。
「ん?」
ふとクルーシュさんが脱力感が半端ない拳を振るってその顔を自身の背後に向けた。
「何か来る」
「何が?」
こんな暗闇に飛び込んで来る場違いな存在が居ると言うのですか? それはどんな勇者かと?
暫く待つと……それは本当にやって来た。
僕らの味方。それは未来の猫型ロボット。
「ぼく、ドラえ」
「言わせるかっ!」
全力巨大ハリセンでお約束のフレーズを遮った。
危ない危ない。僕の新たなる性癖よりも危ないことが起こってしまうところだったよ。
「何これ?」
「何って……」
クルーシュさんの何とも言えない視線に僕はどう応えれば良いのだろうか?
「さあ。のび犬くん。ぼくの頭に乗ると良いよ」
「知らない。僕の知ってるあれはそんなことを言わない。何より犬って何さ?」
「ばかだな~。そんなの著作権的なモノに決まっているだろう?」
「そんな姿形をしたお前が言うなっ!」
再びの全力巨大ハリセンで……うん。背中が痛いけど股間が復活した。
これで僕はまた戦える。何と?
「良いからのび犬くん。ぼくの頭に乗ると良い」
「頭って」
ツルツルしていて滑り落ちそうなんだけど?これに乗るの?また貨物扱いですか?
仕方なく乗ってみると、不思議と抜群な座り心地にビックリだ。
「さあ、しず」
「わんだ~」
バシッとハリセンを食らわせて青猫を黙らせる。
危険。異世界でこんな危険な目に遭おうとは……後であの悪魔を殴る。
「これに乗れば良いの?」
近づいてきたクルーシュさんが、何故か僕の方へと倒れこんで来た。
慌ててガッチリキャッチしたけど……あのお姉さん? 貴女は僕の股間に何か恨みでも?
たぶん倒れると思って咄嗟に腕を動かした彼女の手が、僕の股間に掌底となって……泣いても良いですか?
「ごめんなさい。もう限界みたい」
そのごめんなさいが何に対してなのかの説明を求む。
「……アルグ様?」
色が抜けて白くなったノイエが僕の顔を見て首を傾げる。そしてそのまま抱き着いて来た。
「ノイエ。今は無理。色々無理」
「うん。無理」
言ってノイエが抱き着いて来る。
「お腹空いた」
「だからノイエ。今はちょっと」
ノイエが抱き着いているから泣き叫ぶことが出来ない。
本当は叫びたい。痛いんだ……僕の股間がとっても痛いんだ。
「だから治すのはあとで」
「ノイエ~」
ギュッと抱きしめて来るノイエが離れてくれないのです。
でも未来の猫型ロボがクルっと方向転換をして勝手に走り出した。
~あとがき~
刻印さんが出したのは帝国で回収した一体です。
ゴーレムです。青い猫型のゴーレムです。ロボではありませんw
ノーフェさんは聖女のあれを使えますが、あくまで扱えるレベルです。
ぶっちゃけノイエがチートレベルなのでその護衛をするつもりで自分を鍛えていましたから。
ヤバい…年内で神聖国編が終わらないかも?
© 2023 甲斐八雲
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