お~まいご~っ!
神聖国・都の郊外
「むぅ」
「どうしたノイエ?」
僕を抱えているノイエの顔から若干血の気が引いているような?
いつも白い肌が増々白く!
「大丈夫ノイエ?」
「……お腹空いた」
「そっちかっ!」
心配を返せと言いたい。
と言うか急激にノイエが空腹になるとか想定していなかった。ダッシュで僕の所に来た時に魔力でも使用したのかな?
「それも気になるがノイエ」
「はい」
「えっと……誰の母さんが居るって?」
ここ。この確認が重要です。
ノイエはアホ毛をクルっと回した。
「居ない。嘘」
「ノイエさん?」
「知らない」
「お~い」
「だから言えない」
「自供してるやん」
「言ったら怒られる」
「もう言ってるも同じ」
「むぅ……アルグ様のせいで怒られた」
「ノイエの自滅でしょう?」
「違う。えっと……言葉巧みにお嫁さんを誑かすような息子を産んだ記憶は無いと……今のはズルい」
「何が?」
「母さんが騙した」
「そっか~」
うん。何となく分かった。
「何で居るねん! 我が母親よ!」
思わず叫ばずにはいられない。
何でウチの母親が……それも地球で日本人していた頃の母親が異世界に居るねん!
「居ない。気のせい。きっと見間違い」
「ノイエにしか見えないでしょうに?」
「ヘビさんも見える」
よ~し。あの蛇を絞めて革にして蛇革製のモノクルでも作ってやろうか?
「これこれ母親よ。居るのであれば正直にごめんなさいしなさい」
「嫌よ。これは伝えても良いの?」
「よ~く分かった」
あの母親め……そっちがその手で来るならこっちはこの手を繰り出すだけだ。
「ノイエ」
「はい」
「子供ができたら僕の後ろの人の存在は絶対に教えちゃダメ。了解?」
「はい。……母さんが泣き崩れた」
だろうな。
「どうせノイエに変な事とか吹き込んでいたんだろう?」
「?」
「あれよ。『早く子供を作りなさい』とか言われなかった?」
「はい。でも私も欲しいから」
意気投合していたのね。
「ウチの母親は息子に対して『クラスに良い子とか居ないの?』とか聞いてくるタイプの人だったからな~」
息子の恋愛話とかを聞き出そうとする系の人だったからな……息子によってはマジで不良の道に走る案件だぞ?
そもそも僕には彼女とかいなかったわけで……あれ? 目の端に汗が。
「大丈夫! 僕にはノイエが居る!」
「はい」
つまりノイエが居れば他は……必要ないとか言ったら処刑コースだからな。うん。危ない危ない。
「ノイエとその姉たちが居れば十分です」
「はい」
コクンとノイエが頷いた。
「母さんが『言い訳ばかり上手くなって』とか言ってる」
「これこれ母親よ? 言い訳ではありません。事実です」
「女は誠実な男性を求めるものだって」
「何を言う? 僕ほど誠実な人は居ないでしょう? ノイエ一筋だよ?」
「お姉ちゃんは?」
「あれは……うん。ノイエの体だからセーフ!」
「宝玉を使って出た時は?」
「それは……実体はノイエの中に居るからセーフ!」
「アウトだと思って」
「何でやっ!」
おかしい。セーフだろう?
「アルグ様がアウトだって」
「いやいや待ちたまえノイエさん」
「言ってるのは母さん」
「良し母親よ。一度落ち着いてから家族会議といこうか? 了承しなさい」
「その時は母親の何かを教えるって」
「良く分かりました」
その時は僕も息子の何かをですね……あれ?
気づくとノイエの色がスルスルと変化し始めた。
「おもっ」
「むげっ」
抱えていた僕をストンと落とし……うにゃ~! 知らない間に地面を這うようにスケルトーンな人たちがこっちに!
「うわ……これほどの瘴気とか普通の人なら死ねるかも?」
パタパタと自分の顔の前を祓ったノイエが……貴女は誰ですか?
色からしてユニバンス特有の金髪碧眼系の人だ。特有とだけあってノイエの中の人にはこの色が多かったりする。ので色からの特定が難しかったりもします。
「貴方がノイエの夫?」
「はい」
僕に手を差し伸ばしてきた彼女の手を掴むと引き寄せられた。
立ち上がり改めて見ると、うん。誰だか分かりません。
「どちら様で?」
「私? 私はクルーシュ」
クルーシュ? 確かあの日にあれした人リストに載っていた武道家さんだっけ?
「カミューと同じ打撃系の人?」
「あれと一緒にはして欲しく無いかな」
笑いながらヒラヒラと手を振り、彼女……クルーシュは腰に手を当てて周りを見る。
「何故か脇腹が痛いんだけどまあ良いか」
呟いて彼女はヒュッと音が鳴るほど鋭く息を吸った。
そして軽く腰を落とし踏ん張るような体勢に変化する。
「何を、」
するのですか……と言う言葉を放つ前に彼女が一瞬淡く光った。
そしてその光を拳に乗せて地面を打つ。
ワラワラと近づいていた存在が消え失せ、暗闇も消え失せる。
「お~。師匠の見様見真似だったけど出来るもんだ」
「はいぃ~?」
相手の言葉よりも目の前の現象に目を剥く。
今のはたぶん聖女のあれだ。光ることを嫌うノイエが拒否しまくっていたあれだ。
「何で?」
「これ? まあ見様見真似だからそんなに上手くは出来ないけど」
「出来ないけどって……普通の人が出来ることなの?」
その事実にビックリなんですけど?
「出来なくはないわよ」
言いながら彼女は時折淡く光っては周りの暗闇を殴る蹴るの大暴れだ。
「血筋……まあノイエの体だから多少補正がかかるのかしら? それに一応私の師匠がこれを扱えたからね」
そんな理由で使えちゃうとか凄くない?
「師匠も言ってたしね。私には才能があるって」
才能だけでどうにかなっちゃうんだ。
「問題はノイエほど強くは打てないけど……まあ貴方を連れてここから抜け出すことぐらいはできるかな」
「お願いしますっ!」
ピンチだった自分の状態を思い出し全力で頭を下げる。
流石ノイエの姉である。ノイエの姉は良い人ばかりよ。例外に糞従姉が居るがあれはあくまで例外だ。
「ただもう一つ問題がある」
「何でしょう?」
多少の問題なら僕がどうにかします。
すると金髪碧眼のノイエが僕を見た。
「私って……魔力が少ない人なんだよね」
「はい?」
それってつまり?
「急いで出ないと途中で力尽きるかも?」
「ちょっと待て」
「それに驚くぐらいに空腹だし」
「それはノイエのいつものことです」
「かなり辛いよ? もう空腹で吐きそうなぐらい」
うわ~。ノイエの空腹ってそんなに辛いんだ。今度から食料が尽きないようにしよう。
「まあもう何度か使うぐらいなら、あっ」
「むぐ」
何故か次の一撃を放とうとしたクルーシュが足をもつれさせて僕の方に倒れこんで来た。
「あ~。何か足元が悪いと思ったら」
言い訳は良いので僕の上から退いて頂けますか?
「何よ? 愛しいお嫁さんが抱き着いて来て嬉しいんでしょう?」
それは嬉しいのですが……貴女の左ひざが現在どこに置かれているのか確認願います。
「膝?」
スッと僕に覆いかぶさっていたクルーシュが視線を下げる。
まじまじと確認をしてから一度視線を上げ、僕と見つめ合ってからまた戻って行った。
「潰れた?」
「やんわりと?」
「あ~。痛かったりする?」
そろそろ我慢している何かを口走っても良いですか?
「ごめん。退くから待って」
ゆっくりとクルーシュの膝が僕の股間から移動する。
そのちょっとした振動で僕の中の防御壁が崩壊の一途をたどる。ガラガラと崩れたそれは何だろう? 理性だろうか?
「お~まいご~っ!」
思わず叫んで股間を両手で包み込む。
無理です。ダメです。僕の息子の友達が、ボールは友達のボールが大変なことにっ!
「あばっあばばっばばっ」
全身が痙攣をおこし言葉出来ない系の汗が溢れる。
「あ~。大丈夫?」
「ばばっばばばばっ」
「これはちょっとダメかな~?」
悪びれた様子も見せずに頭を掻くクルーシュに対し全力で殺意を覚えました。
~あとがき~
ボールは友達でポールの友達のボールが大変なことにw
これでまたノイエの空腹が進むことでしょう。
主人公の傍には『母親』が居ますが、さあ思い出そうか?
あの蛇さんを脅せる存在なので…普通なわけがない。つまりそれは?
この辺の謎解きはユニバンスに帰ってからになるはずなんだけどね~
© 2023 甲斐八雲
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