フラグ回収に来た~

 神聖国・都の郊外



「ほれほれノイエさん。ここまでお願いしているんだから頷いても良いんだよ? どう? 頷きたくなって来た?」

「まだ」


 ほほう。中々に強情ですな?

 ですがノイエさん。僕が貴女の夫となってからどれほどの経験を積んだと思っているのかと。

 ほれほれここが弱いんでしょ?


「ん~。すりすり」


 自らスリスリと言ってしまうほどノイエが甘えん坊モードだ。

 土下座で説得できないなら次なる手です。とことん甘やかすだ。


「ここが弱いんでしょう?」

「なぁ~ん」


 無表情なのにこの猫は甘い声を上げますな。だが適度で回避しないとノイエのスイッチが入ってしまう。ほどほどを狙いつつ甘やかすことが大切なのです。その別妙なさじ加減が難しい。


「顎の下~」

「ん~」

「耳の所~」

「ん~」

「トドメにアホ毛~」

「なふぅ~」


 完璧だ。これが自宅のベットの上ならばノイエは喜んでどんな我が儘でも聞いてくれるだろう。


「ノイエ」

「ん~」

「あの雲を退治して」

「やぁ~」


 甘えた声を出してまだ拒否するか?

 だがこれ以上攻めると間違いなくノイエのスイッチが入る。どうする? 踏み込むか?


「あの~アルグスタ様?」

「何だ。この覗き見ハアハア変態女王」

「私の肩書が伸びてませんかっ! それも嫌なものがっ!」


 気にするな変態。

 変態とは肩書が伸びれば伸びるほど喜ぶと言う傾向がある。


「嬉しくないですからっ!」


 涙をポロポロと落として反論するな。必死か?


「で、何かね?」

「いいえ。先ほどから話を聞いていて思ったのですが」

「つまり覗いていたと?」

「……見せつけてましたよね?」

「視線を逸らせよ変態」


 見せつけてなどいない。全力でウチのお嫁さんにお願いしているだけです。


 座る僕の股の間に座って寄り掛かるようにしているノイエを支えつつゴロゴロと猫可愛がりしているだけですが、これがノイエを説得する正しいスタイルとも言う。


「で、何かね変態? 覗きの感想なら要らない」

「感想では無くて……どうして聞かないのですか?」

「何が?」


 馬鹿かね君は? もう少し詳しく説明しろと言いたい。言葉が足らなさすぎるのだよ。


「足らないのではなくて、ノイエ様」

「はい」

「どうして嫌なのですか?」


 これこれ変態。そんなストレートな質問をしたってノイエは答えないよ。

 だってノイエの言葉足らずは君と比べようもないほど酷いんだから。


「……消えるから」

「ふぁっ!」


 まさかのノイエの返答にビックリだ。


「ノイエ。消えるって?」


 慌てて質問するとノイエは小さく首を傾げる。


「ユー」

「……」


 なるほどなるほど。


「ノイエ」

「はい」

「あれは消しても良いからね」


 はっきりとノイエの目を見てそう告げる。


 ふと首の辺りに冷たい風が。というか冷たい空気がまとわりついているような? だが気になどしない。霊障ごときで僕を止められるとでも思うのか?

 さっさと昇天してしまえ。この背後霊よ。


「もうユーリカも十分にノイエの生活を見たと思う。だからそろそろ休ませてあげると良い」

「休ませる?」

「そうです。ノイエもいっぱい食べたらデザートまで休んだりするでしょう?」

「休みなく出して欲しい」

「少しは休もうね? つまりそう言うことです」

「はい」


 僕の言葉にノイエが頷く。


 流石僕のお嫁さんだ。大変に賢い。そして全身が寒いんだがユーリカの馬鹿は僕に何をしているんだ? 入り込もうとでもしているのか? 全力で追い出すぞ?


「でも消えちゃう」

「ユーリカなら許してくれる」


 あれだってノイエの姉なのだから。


「違う。アルグ様の」

「はい?」


 僕も消えちゃうの?


 おうおう。ちょっとちゃんと話し合おうかお嫁さん? 確かに僕は向こうの世界で幽霊をしていてこっちに来てこの体に入ったわけだ。


 あれ? もしかして危ないのか? ノイエの力を振るわれると僕も消える?


「ヘイ悪魔っ!」

「残念。私は幽霊の類は専門外よ」

「何故にっ!」


 お前は無駄に高性能な完璧超人であろう?


「専門は魔法と魔道具だから。霊能は専門外よ」


 何やらゴソゴソとエプロンの裏に両手を突っ込んで片付けをしている悪魔の返事は適当だ。


「適当に言ってない?」

「適当に言ってるけど事実よ」

「なるほど」


 さてこれは困った。どうする?


「うむ。ならば我が相談に乗ろうではないか」

「……」


 ペットボトルボーイの頭の上に鎮座する卑猥が反り立って声をかけて来た。


 見下すな卑猥。お前の下に居るだけで汚れてしまいそうな気がする。


「お主という奴は本当に……」


 呆れつつもひょんと飛んで卑猥がノイエの胸に着地する。鎧越しだと流石に挟めないぞ?


「だから我は……まあ良い」


 ノリの悪い卑猥だな。


「それで知りたいことは霊能……つまり零体のことで良いのか?」

「知っているのかこの卑猥?」

「無論だ」


 そうか。この卑猥にも得意分野があったのか……だからノイエさん。掴んでモミモミしてあげないで。今から真面目に会話するからさ。


「我の目にははっきりと、もごもご」

「これこれノイエさん」


 モミモミを止めなさい。卑猥が喋れなくなっているからね?


「ダメ」


 何が?


「怒られるからダメ」


 だから何が?


「……」


 モミモミしながらノイエが沈黙し、一分もしない時間で揉む手を止めた。


「それなら良い」

「何と我が儘な娘か……」


 2人の間で何かが行われたらしい。知らんけど。


「この娘に憑いている娘……桃色髪の娘とお主を我が守ろう。さすればこの娘が全力を出しても問題無い」

「本当に?」


 どうもこの卑猥はいかがわしい……疑わしい。


「今の言い間違いは若干傷つくのだが?」

「気にするな卑猥。だって君は卑猥だもん」


 それ以外でも以上でも以下でもない。卑猥なのだから。


「で、卑猥」

「何か?」

「本当に僕らを守れるの?」


 それ重要です。ぶっちゃけ僕だけ護ってくれれば問題ありませんが?


「無論だ。こう見えて我の格は神に匹敵する。そんな我が本気を出せば結界の1つや2つ容易く作れる」

「量じゃなくて強度が重要なんですが?」

「無論だとも。我が作りし結界であれば人間の小娘の力などには屈しない」


 ノイエの手の上で卑猥が偉そうに反り返る。


「ねえねえお兄さま」


 トコトコと歩いて来た悪魔が耳打ちして来る。というか君なら来ると思っていたよ。


「今この卑猥絶対にフラグを立てたわよ?」


 だよね? 僕もそう思う。


 何故なら若干ノイエのアホ毛にやる気が宿っているからだ。


「本当に大丈夫か卑猥?」

「心配するでない。我の実力は折り紙つきぞ」

「見て見て。奇麗なフラグが」


 楽しそうにしないで悪魔?


 あんまり遊ぶならノイエへのお願いを止めてあの雲の退治を、


「お願いしますお兄さまっ! ポーラのポーラを好きにしても構わないのでっ!」

「要らんて」


 そもそもにポーラのポーラって何よ?


「そんな恥ずかしいことをこんな公の場で」

「一回死んで来いっ!」

「ミニハリセンかっ!」


 投げ捨てミニハリセンで馬鹿の顔面を狙い撃った。


「さて卑猥」

「うむ」


 何故か良く分からんが僕らはあの雲を退治しないといけないらしい。もしサボったらホリーがまた出て来て怒られそうだしな。それはつまりノイエも叱られてしまう。叱るのはノイエの体だけど。


 あれ? それだったらノイエは叱られない?


「お前のような存在に命を託したくないのだが頑張れ。全力で頑張れ」

「それが我に物を頼む態度か?」


 仕方あるまい。未だにノイエは僕に背中を預けたままなんだから。


「ちなみに桃色髪の馬鹿は何してるの?」

「うむ。ずっとお主の全身の骨を砕こうと、」

「南無妙法蓮華経」


 経を唱えたら全身の冷たい感じがスッと退いた。やはり日本人はお経だな。


「お主……」

「はい?」


 驚いた様子の卑猥が震えている。何かを発射するなよ?


「修行をすれば悪霊ぐらい祓えるようになるぞ?」

「マジで?」


 それは知らない裏スキル。そんな才能が僕にっ!


 でも悪霊って……ノイエと被るから意味ないな。うん。意味ない。


「まあ良いや。ノイエさん」

「はい」


 スッとノイエが僕の腕の中から抜け出し立ち上がる。


「退治してくれる?」


 改めて問うとノイエは僕に視線を向けた。


「ヘビさんには負けない」

「フラグ回収に来た~」


 負けず嫌いなノイエの何かにが灯ってしまったよ!




~あとがき~


 存在を忘れていましたが、卑猥こと蛇さんは神の領域の存在です。

 てすので霊能に関してはトップクラスの専門家です。


 ただね~。蛇さんは知らないんだよな~




© 2023 甲斐八雲

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