せ~の! じゃんけん!
神聖国・都の郊外
ペットボトルボーイの頭上に置き直した卑猥が何やら力を貯め込んでいる隙に全員を集めた。
ただ黒雲発生装置となっているユリーさんは別だ。だから仲間外れではないのでこっちに来るな。隙あればこっちに来ようとして困った人である。
マッチョ親父と枯れた爺は力尽きて完全に置物になっている。
限界の向こう側まで体力を消費したらしく完全なるグロッキーだ。
マニカは……そっとしておいてやれ。
膝を抱えた体育座りでシクシクと泣いているマニカも完全なる置物だ。
結果現状として動き回れるのは僕と悪魔。それと変態と名無しの女の子だけだ。ペットボトルボーイを含めて5人とは随分と減ったものだな。
「最初から少なかったような?」
「言ってやるな」
悪魔の容赦ない言葉を僕は受け流してあげる。それが優しさと言うものだよ。
「ユリーの部下が2人居たのですが」
変態が会話に合流して来た。
あれの部下? それもモクモクと煙を発生させる系?
「それはユリーだけのはずです。確か一緒に来て何度か雲に追いつかれそうになった私たちを庇ってくれたのですが」
今更感が満載だが、変態が辺りを探るように視線を巡らせる。
きっとその部下とやらを探しているのだろうけど空には黒い雲が広がっていて見えませんな。
つか僕の周りには『悪魔』だの『変態』だの『卑猥』だのって普通の人間はいないのかね?
不満げな視線で見渡すと言葉を失った女の子が『自分は違います』と言いたげな視線でこっちを見ていた。
「この子だけだな。まともなのは」
後はあっちで燃え尽きているオッサンと爺と娼婦が居る程度だし。
「私の忠臣であるアーブさんが居ますからねっ!」
「ユリーさんは?」
「……」
遠い目を何処に向けてるこの変態? ユリーさんもお前のためにやって来たんだろう? つかあれも変態の類か?
増々目を逸らすな。後頭部を見せるな。この国には変態しかいないのか?
「少しは我に注目しても?」
「煩い卑猥。ノイエがやる気に満ち満ちているからさっさと準備しろ」
「……我ってば、これでも神と同格の存在なのに……」
しょんぼりとした卑猥が打ち止めしたような状態で首を垂れる。見てると本当に残念な卑猥だ。
「つかこの子の親をちゃんと探してやれよ変態」
「当り前です」
クルっと顔を向け直し、変態が偉そうにない胸を張って見せた。
「この私は受けた恩を決して忘れたりしませんからっ!」
「だったら僕らにはどんな恩返しを?」
「……太陽がだいぶ西に」
全力で視線を遠くに向けるな変態。そろそろ本気で後処理のことを話してやろうか?
「いやぁ~! 難しい話怖い。難しい話嫌い」
頭を抱えて……大丈夫か? こんなのを女王にして?
「きっとアルグスタ様はあれですね? この国の美女を100人は集めろと言い出すに決まっています!」
「……」
変態が変なことを言い出した。
どうする? 決まっている……全力で泳がせよう。
「もう美女を100人とかそのうちの1人は絶対に私が含まれますから、つまりはこの国を乗っ取り支配しようと企んでいるんですねっ!」
「お前は選ばんから安心しろ」
「いぃやぁ~!」
何故か大絶叫した変態が、泣きながら僕に縋りついて来た。
「戦後処理とか絶対に面倒臭いのが分かっているんです。したくないんです。それにきっと部族の方からも要求が……怖い。怖いなんてものじゃない。見える。見えます。血で血を洗う醜い権力抗争の未来がっ!」
まあ確かに見えるな。つか僕はそうなるように仕向けたわけですしね。
「こんな荒れ地だけで何の特産もない土地で、どうやって建て直せと言うのですか? それだったら誰か有能な人を引きずり込んで丸投げした方が絶対に楽ですよね?
だから安心してくださいアルグスタ様。ノイエ様と一緒にこの国に亡命してくれれば、副王としてその地位を送ります。押し付けます」
「お断りします」
「いぃやゃあぁ~!」
ゲシュタルト崩壊しそうな勢いで変態の何かが壊れだした。
「まあ安心しろ変態」
「何がですかっ!」
ポンと縋りついている相手の肩を叩く。
「今回のお礼は金銀財宝で手を打ってやる」
「一番痛い所を~!」
やっぱり? 復興資金を奪う行為は鬼すぎるか。
「でもこの国から得たいものって特にないしな……何か珍しい魔道具でもあれば手を打つけど?」
「そんな物有りませんからっ!」
断言したよ。
「この国がどれ程他国との関りを最小限にしてきたか分かりますか? それはこの国の底を見せないためです。つまり国力に対して中身の薄さが明るみに出ないようにと」
ぶっちゃけた~。
「この国にあるのは蔵書ぐらいなんです。あんな価値のない」
「それ全部で手を打とう」
「……はい?」
泣き叫んでいた変態が涙を止めた。
「と言うかその蔵書って?」
「えっと……古いだけの本ですが、たぶん建国時からの物がたくさんあります」
驚いた感じのままで変態が語る。
何でもそれらの蔵書は都には無く、ここから少し離れた都市に置かれているらしい。
「ですが特段優れた書物では無いですよ? 魔法の書物も少ないですし」
「つまり古いだけの本であると?」
「はい」
コクンと頷く変態はその本の価値に気づいていない。
「全部寄こせ」
「……良いんですか? 本当に良いんですか?」
「構わん。それらの本で手を打とう」
「分かりましたっ!」
ぱぁ~っと輝かんばかりの笑みを浮かべた悪魔と握手。商談成立だ。
この変態は知らないのだろう。その手の本ってばホリーとか先生とかが喜ぶのだよ。
「実に良い商談を終えた」
ただ気がかりなのはあの糞姉も飛びついて来そうで……何ですか悪魔さん?
「5割ほどを請求する」
ニンマリ笑って掌を見せて来やがった。
「笑止。3割で十分だろう?」
「何でよっ! 今回はあんまり手を貸さない気でいたけど結構手を貸したし、最低5割はいただきたいものね!」
「5割は多すぎるだろう? 3割だ」
「否5割」
「つまり……」
悪魔と距離を取りともに身構える。
交渉は決裂らしい。
「「せ~の! じゃんけん!」」
ごめんお姉ちゃん。不甲斐ない僕を許して欲しい。
でもちゃんと一冊ずつ取り合う形で話をまとめたからその点は褒めてね。
ぴょんぴょんと飛んで喜んでいる悪魔を尻目に僕はそっと涙した。
「「お~」」
思わず僕と悪魔が声を上げる。
僕らが商談している間に卑猥が仕事をしていた。
「多重構造で結界を作るとはやるわね」
悪魔の感想がそれだ。
キラキラと輝いて見えるクリスタル状の結界が完成していた。卑猥が作り出した結界は、普通に見る半円のドームではなかった。あれだ。ミツバチの巣だ。ハニカム構造だっけ?そんな感じで厚みもあって形が綺麗で……やれば出来るじゃん。卑猥。
「お主は本当に失礼であるな」
「知らん。これが僕ですが何か?」
何故卑猥な存在に媚びなければいけないのかと聞きたい。
存在が神の領域に達するあれだと?
なら神らしく奇跡の1つでも起こして見せろと言いたい。
ほ~れ。ここに居る悪魔を黄金像にしてみろよ。
「……石像ぐらいなら」
「できるんかいっ!」
何故か悪魔が卑猥をどついた。
君はボケかと思っていたが、意外とツッコミも行けるんだな。良いキレだったよ。
「そんなのはどうでも良いのよ。ほら卑猥。準備は良い? 良いならお姉さまっ!」
元気よく声を上げて悪魔が待機しているノイエを促す。
ずっとを空を見上げぼんやりしていた彼女はクルっとアホ毛を軽く回すと顔を下す。
「良いの?」
「ドカンとやっちゃって! さあニク! お前も全力で撮影よっ!」
悪魔の指示にニクが敬礼をし……気づけばお前は本当に気配を消して撮影に徹している。
プロの撮影者だな。プロか? ん? 落ち着いて考えるとこいつは相手の許可を得ずに撮影しているわけだから覗きだよな? つまりピーピングトムだっけ?
「ニクよ」
「?」
僕の声に我が家の家畜……ペットが水晶を胸の前に待って構えつつ首を傾げた。
「何故か知らんが帰宅したらお前を全力で洗う」
「っ!」
声にならない悲鳴を上げてニクが震える。
だが知らん。無性に腹が立っただけだ。諦めろ。
「さあお姉さま。やっちゃって!」
何故かノリノリの悪魔がノイエを促す。
両手にボンボンを持ってチアガール気分か?
メイド服でそれは止めれ。
~あとがき~
ようやくノイエがやる気を…見せているよね?
それよりもことを急ぐ刻印さんが居ますな~。
まあ急がないとね…
© 2023 甲斐八雲
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます