だってノイエが可愛いんだもん

 神聖国・都の正門付近



《ふざけるな》

《ふざけるな》

《ふざけないで》


 雨の様に降り注ぐ雷に身を撃たれながらもそれは一歩ずつ前へと進む。

 不思議なことに分厚い雲から降ってくる雷は都には落ちない。それどころか都の上空を避けるように雲が広がり、自分の上に分厚い雲が、真っ黒な雲が存在しているのだ。


 都に雲が向かわないならとそちらに進めば雷が酷くなる。つまりこの雲は都を守っているのだ。


 こんなふざけた話は無い。自分は都の支配者だ。支配者を締め出すなどあってはならない。

 けれど近づけない。どうしても近づけない。今は遠ざかるしかない。


 遠ざかり雷から受けた傷を癒して……またあの都を奪い返せば良い。


「「「ぐわっ」」」


 天より降り注ぐ雷が右肩に突き刺さった。


 骨や肉を抉られる激痛。

 雷光に焼かれる激痛。


 どうして自分が?


《憎い》

《憎い》

《憎い》


 だから憎む。だから怒る。だから呪う!

 自分を不幸にしようとする存在に対し激しく憎悪する。


「「「全てを殺してくれようかっ!」」」


 抉られた部分を回復させながら、それは姿を変える。抵抗するために姿を変え続ける。




 理解などできないだろう。なぜ“雲”に狙われているかなど……自身の上空に存在する分厚い雲の“意志”としても気づけないだろう。

 だからこそ雲はそれを追うのだ。


 一個体で優れた憎悪を持つ者を。執念深く追っているのだ。


 下手に人の多い場所に入られれば追うのが面倒臭い。だから人の少ない方へ追いやる必要がある。面倒だが必要なのだ。


 確実に狙った獲物を捕食するために、だ。




 都の郊外



「せ~んせっ?」

「……」

「こっちを見ろ」

「……」


 全力で乳揉むぞ?


 顔どころか体ごとあっちを向くな。邪険にするな。こっちを見ろ。マジで見ろ。


 本気で乳揉むぞコラ? 何なら足の付け根を揉むぞコラ?


「で、先生。ノイエが無理と言っていますがどうするの?」

「……」


 いい加減にしろよコイツ?


 ワキワキと両手を動かしノイエの姿をした魔女に近づく。


「ダメです。アルグスタ様」

「止めるな変態よ」


 何故か背後に回って来た変態に動きを止められた。


 離せ変態。僕はこの魔女に天罰を与えるのです。ちょっと全力で揉みしだくだけです。大丈夫。この魔女は最初抵抗するけど途中からトロトロになって甘えだせばこっちの物です。あとはこっちの言うことを何でも聞きだす可愛いワンチャンになるのです。

 ただ時折理性が戻る時があってその時の葛藤がまた可愛いのです。


「って私のことを変態と言っていますが」


 変態に変態と言って何が悪い?


 確定変態が僕に抱き付くな。変態が移る。何よりその薄い胸では僕は感動しない。

 薄いだけではダメなのです。薄くても別の優れた部分を見せつけろと言いたい。先生のように素晴らしく滑らかでキュッと絞まった脚とかを持って来い。


「白昼堂々とこんな場所で奥さまを襲う方が遥かに変態かとっ!」

「馬鹿なっ!」


 そんな馬鹿な話は無い。

 愛しいお嫁さんと仲良くするのに場所や時間など関係ないのだ。

 だってそこにお嫁さんが居るから、だから僕は迷うことなく乳繰り合うのです。


「それにあのノイエ様は普段と違い少し変です」

「変とは何だ。お前の人生を今日を限りに終わらせてやろうか?」

「こっちの人も精神的に色々と変ですっ!」


 本当に失礼な変態だな? 変態だから失礼なのか? 変態って言う生き物は失礼だから変態なのか? これは何て難しい哲学だろうか?


「どっちが失礼かとっ!」

「おや? 心の声が出ていましたか?」

「はっきりと口を動かし言ってましたから!」


 涙ながらに叫ぶな変態。


 それよりも僕は目の前のお嫁さんの体に意見すると言う大層立派な使命が……その昔ありましたね。今はもう大丈夫です。はい。大丈夫です。


 変態に常識を説いていたら先生がめっちゃ恐ろしいほど冷たい視線を僕に向けていたのです。

 決して視線に屈したのではありません。これは大切です。


「誰の胸を揉みしだくですって?」

「愛しいお嫁さんのモノに決まっていますが何か?」


 ここで迷ってはいけません。経験者は語る。ここで一瞬でも迷いを見せれば先生からの平手打ち一発ぐらいを食らう覚悟が必要となります。即答が大切なのです。


 ですが先生は何故か頬を赤くして……また視線を僕から背けました。


 僕の睨み勝ちか?


「ところで本当にあの子が言ったの?」

「何を?」

「無理って」

「はい」


 僕は愛しいお嫁さんに聞きました。『あれを倒せますか?』と。返答は『無理』でした。


 言ったよね? ノイエが言ったよね? 間違ってないよね?


「はぁ~」


 ノイエの姿をした先生が額に手を当ててから壮絶な溜息を。


 何でしょう? この馬鹿な子の相手をするオカンのような雰囲気は?


「貴方って人は本当にあの子の言葉を鵜呑みにして……いつもそれで騙されているでしょうに?」

「愛しお嫁さんに騙されるのなら僕は本望ですが?」

「……幸せそうで良かったわ」


 褒めないでよ。僕ら夫婦はいつでもいつまでも幸せいっぱいですからね。


「で、誰が騙されていると?」

「貴方よ馬鹿弟子」

「はい?」


 僕の何が騙されていると?


「あの子の面倒臭がりようは異常でしょうに……夫をしていてそれを忘れるだなんて」


 面倒臭がりと言うかノイエの場合、食とドラゴン退治にしか興味を抱いていないだけですが?


 それ以外は基本のらりくらりと逃れようとする。下手をすると耳を塞いで聞こえない振りをする。若干の悪意を感じる時もあるが、ノイエが愛しい存在だから許す。全力で許す。


「貴方がそんな感じだからあの子が甘えるのよ。それも際限なくね」

「あれ? 心の声を口にしてました?」

「表情を見てれば分かるわよ馬鹿」


 褒めないでよ~。あはは~。

 先生の視線が険しくなって来たので頭を掻きながら後退……出来ない。後ろに居る変態が邪魔です。


「放せ変態」

「……お奇麗なノイエ様に冷たく睨まれるのって悪くないですね」

「おひ」

「冗談ですよ~。あはははは~」


 変態が手を放して僕から逃れようとして膝から崩れ落ちる。

 ヌルッと移動して来たペットボトルボーイがキャッチして回収して離れて行った。


 あの変態を女王陛下として扱う貴重な存在だよな……知らぬ間に人様に見せられない凄い格好になっているけどね。

 あれだあれ。勝手な想像だけど繁華街の裏の方でこっそりと営業している女性相手のお店に勤める男性の様だよな。あのV字の隙間に千円札とか挟むんだろうな。


「それで馬鹿弟子」

「ほい」

「あの子は本気で絶対に退治できないと貴方に言ったの?」

「……」


 いつも通りの澄ました顔で言ってましたが?


「つまり分からないのね?」

「心の声が届いてますか?」

「だから表情を見れば分かるわよ。好きな人の……何でもないからっ!」


 自爆した先生が顔を真っ赤にしてしゃがみ込んだ。

 綺麗な自爆だ。素晴らしいよアイルローゼ先生。ギャップ萌えでキュンキュンだ。


「それでウチのお嫁さんが面倒だから嘘を言っている可能性があると?」

「可能性というかほぼ確定よ」


 何故か断言しつつ立ち上がった先生は軽く咳払いをした。


「さっきから語りかけているけど『つーん』とか言って返事しないし」

「はい?」

「こっちの話よ」


 全身から深いため息を吐いて先生が何とも言えない表情を見せる。


「どうしてあの子はこんな風に育ってしまったのかしら?」

「周りが全力で甘やかしたからじゃないですか?」

「あん?」


 すっごい目で睨まれたよ。でもそうじゃないの?


「みんなして蝶よ花よと甘やかし続けたからだと思うんですが?」

「なら貴方はあの子を甘やかさないと断言できるのね?」

「無理ですが何か?」


 あん? ノイエに対して厳しく接しろと?


 そんなのおっぱいネタの時ぐらいじゃないと無理です。それ以外は甘々ですよ。だってウチのお嫁さんはめっちゃ可愛いんですから、甘やかさないとか絶対に無理です。


「つまりそう言うことよ」

「全力で納得しました」


 それは仕方がない。だってノイエが可愛いんだもん。




~あとがき~


 作者さんは忘れて無かったからねw


 現在都の近くで雷に撃たれ回っていますが生きてます。

 そして雲は…まあ色々とね。


 ノイエは倒せないと言います。戦う気が無いから倒せないのです。

 だって頑張ってもお腹が減るだけだもん。


 つかノイエの周りに居る人たちって本当に甘やかせてばかりだな…




© 2023 甲斐八雲

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