なら色々な不満を乗せて

 神聖国・都の郊外



「うそよ~~~!」


 ギャン泣きだ。


 妹の反抗期……では無いが抵抗を受けた姉が、周りの目など気にせずに泣いている。地面に座りこみ上半身を反らして空を向き泣いている。

 流石に痛々しい。ノイエから嫌われると言うのはこんなにも無様を晒すことになるのか。鼻水まで垂らして泣いている元高級娼婦の姿にマジで引く。


 だがその隙に僕は復活した。まだ股間がジンジンと痛むが復活だ。

 普通ここにこれほどのダメージを受けたらしばらく悶え苦しむのだが、比較的早く復活できた。自分の回復力にドン引きだ。


 カクカクと膝が震えているが気のせいだ。立ち上がれるようになったけど、まだ歩けないのは秘密だ。


「はい」

「ん?」


 ずっと黒い雲を見ているノイエが何か呟きクルンクルンとアホ毛を回す。


 何かしらの電波でも受信しているのか?


 クルクルとアホ毛を回して……そのまま高速で回したら空とか飛びますか? 未来の猫型ロボの秘密道具ばりにビックリ機能ですね。

 ノイエの場合は自力で飛びそうだけど。飛べないまでにも宙を蹴って高速移動しますけどね。


「アルグ様」

「ほい?」


 アホ毛を止めたノイエがこっちを見た。電波の受信を終えましたか?


 こちらを見る彼女はいつも通りの僕の愛らしいお嫁さんだ。とりあえず鎧を着ようか?


 彼女が脱ぎ捨てていた鎧を手に近づいて着せていく。


 うむ。ノイエの胸が成長したことを知ってから確認すると、確かに出会った頃に比べて大きくなったな。そもそもノイエの鎧が着れなくなって作ったのが……ユニバンス王国に置いてきている新作ですね。こっちは旧作です。直して着れるようにしたモノです。


「ノイエ」

「はい」

「……実はこの鎧、小さい?」

「はい」


 即答でした。

 やはり小さかったのですね。


「アルグ様言った」

「はい?」


 自分、貴女に何を言いましたか?


「胸は大きい方が良い、もごっ」


 思わず焦ってノイエの口を塞いだ。


 言ってません。僕は決してそんなことは言ってません。言ってないよね?


 相手の目を見て確認し、全力でアイコンタクトを飛ばす。


 分かるよねノイエさん?


 コクコクとノイエが頷いてくれた。流石僕の愛しいお嫁さんだよ。


「もっと大きく、もごっ」


 手を放したらノイエがとんでもない続きを口にするのです。


 こんなことを決して言いたくは無いですが、ちょっと馬鹿ですか? 言葉を少し選ぼうね? 大丈夫? 貴女のお姉さんたちと全面戦争とか僕には無理ですからね? 分かりましたかノイエ?


 コクコクとノイエが頷いた。


「小さい方が、もごっ」


 本当に君は僕のアイコンタクトを受けているのですか? 怒らないからもし受けていたらそのアホ毛を伸ばしてあっちでギャン泣きしているマニカの頭をペシペシと叩いてみなさい。はい良く出来ました。流石僕のお嫁さんだ。


 だから本当にお願いだから胸のことから離れようね?


 コクコクとノイエが頷いてくれた。


「……その手をさっさと放しなさいよね。この馬鹿弟子がっ!」

「ごふっ」


 ノイエの膝が僕の股間にっ!


 前のめりに倒れ込むと、ノイエを巻き込んで一緒に地面へ。


「咄嗟に僕に抱き着いて反転するとは……お前は誰だ?」


 ノイエらしき人物に組み敷かれた僕が吠えても格好はつきません。が、相手も自分の行動にビックリしたような表情を見せている。

 その驚きの表情はどんな意味ですかね?


「で、誰よ?」

「ん?」


 驚きの表情がスンッと締まって睨みつけてくるこの感じは間違いない。


「先生?」

「誰だと思ったのよ」

「えっと……巨乳を憎む誰か?」

「やっぱり殺す」

「へるぷみ~」


 相手の手が僕の首に回って締め上げて来るとです。


 ただ相手の両手は首を絞めるだけで力は入っていない。ありがとう。ノイエの謎仕様よ。でも先ほどの股間への膝はどうして防御してくれなかったのですか? 今日の股間へのダメージは生涯でもそうそうあり得ないほどのダメージだと思います。


「ああもうっ! マニカのせいで両腕がまだ……もうっ!」


 プンスコ怒る先生が僕のお腹を座布団にして確りと座る。


 実は鎧分プラスのノイエはそこそこおも……くない。旦那たる者、お嫁さんの体重など気にしない。僕のお嫁さんは羽毛ほどの重さしか無いのです。

 ただ今のノイエを抱きかかえて走り回れと言われたら勘弁ですけどね。それにあれです。人を抱きかかえるのって意外と大変なのです。重さよりも持ち難さが優先されるのです。


 ただノイエの姿をした先生は、僕に腰かけ目を点にしている。点と言うかフラットだ。感情が無い。普段以上に無表情だ。表情が死んでいる。


 何を見ているのかと顔を動かして確認すれば、ギャン泣きしているマニカを見ていた。

 あれを見れば確かに何かが崩壊するよな。気持ちは分かる。分かってしまったよ。


「私の両腕を……私の……」

「……」


 何も言えない。無表情だった先生の顔が絶望に染まって俯いて来る。

 一瞬目が合ったが……はい。ごめんなさい。顔を背けますのでお尻でお腹をグリグリしないでください。


「……まあ良いわ。それよりも弟子」

「はい?」


 何かを振り払い先生が顔を上げた気配がした。

 つまり現実から目を背けることを選んだのだろう。分かるぞその気持ち。

 それでこそノイエの姉だ。安定しているよ。色んな意味で完璧だ。


「あっちから人が来るみたいだけど一発撃てばいいのかしら?」


 これこれ先生。その攻撃は最大の防御的な発想は止めなさいって。


 先生が見ている方に視線を向ければ、あ~。あれなら攻撃してもいいかも?


 なぜあの変態どもはこっちに戻って来た? 僕はどさくさに紛れて都を落とせと言ったよね? それなのにどうして……気づけば都に向かった面々の数が減っている。


 枯れた爺と荷物な変態。それとあれはユリーさん? 何故彼女が居るの?


 総勢6人になった人たちがこちらに向かい走っていた。


 まさかの返り討ちか? 何と情けない。勇者よ……ってヤツだな。


「返り討ちに合ったって感じ?」

「ん~。ちょっと違うかしら」


 これこれ先生。何やら考えごとをするのは良いけど指先で僕の鎖骨をくすぐるのを止めなさい。それは攻撃に当てはまらないから有効な手段なんだよね。

 無駄に優秀な頭脳を悪戯に使わず正しいことに使ってください。


「あら? あの中の1人があの雲を作り出している元凶みたいね」

「何ですと?」


 誰か知らんが雷帝を発動した……ユリーさんだな。消去法で彼女だな。


「先生。一発ぶちかましちゃってください」

「良いの? なら色々な不満を乗せて」


 やる気満々な先生が腕まくりをして、


「ダメです。お姉さま~!」


 飛びついて来たポーラの手で先生の魔法が阻害された。


 凄いな。物理的に妨害したよこの妹様ってば。


 しかしポーラさん。どうして僕の顔を座布団にしているのですか? そのグリグリとお尻を押し付けて来るのは何を模しての行為ですか? せめてもの救いはスカートの生地が1枚挟まれていることぐらいか? それが無ければR18間違いなしだよね?


「あの魔法は途中で妨害すると大爆発を起こします」

「……それは面白そうね」


 あ~。ポーラは言葉を誤ったね。

 そんな楽しいことを言われたら先生はやる気になっちゃう人だ。だって彼女は掛け値なしの魔女だからね。


「ダメです。お姉さまっ!」

「邪魔をしないで。どうなるのかを見てみたい、にょほっ!」


 間の抜けた声を上げて先生が全身を震わせる。

 顔とお腹は塞がれているが、僕の2本の腕は自由なのだよ。

 つまり先生の太ももから上を撫でることもできる。


 ここか? ここがええのか?


「何しているのよ馬鹿弟子……こんな場所で馬鹿じゃないの?」


 知らんな。聞こえんな。今の僕の目にはポーラのスカート越しの下着のラインしか見えないのだ。


「ちょっ、何処に手をっ! ダメっ! 後ろは絶対にダメだから!」


 にょほほほほ~。聞こえんな~。


 しばらく両手で先生の下半身をマッサージしたら、彼女は逃れるように僕の上から退いた。


「さて。ポーラ退いて」

「……」


 先生を退かして自由になったはずの僕は顔を座布団にしている妹にお願いを……これこれポーラさん。退きましょうね?


 返事がない。そして何故かポーラの両足がキュッと閉じられて顔を挟まれた。


「いや~ん。ポーラのポーラがお兄さまの手で汚されちゃう~!」

「何を言っているんだ! この馬鹿悪魔がっ!」


 あらん容疑が課される前にこの悪魔を退かさねばっ!


「ふっ……この刻印さんがそう易々と、」

「奥義。3年殺し」

「……はうあっ!」


 親指をポーラの一部分に強く押し込んだら、彼女はあっさりと僕の顔から離れた。




~あとがき~


 色々な不満を乗せて魔法を撃とうとするのがアイルっぽいなw


 そんな訳でまだ完治していないですがアイルローゼがちょっと外に出てきました。

 理由は簡単。だって目の前に未知があるから!




© 2023 甲斐八雲

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