お姉ちゃんをぶつだなんて嘘よね~!
神聖国・都の郊外
「女王陛下」
「何でしょうか?」
そんな顔をしないでください。決して私が悪いのでありません。全てはユリーが、おかしな煙を吐き出して歩くユリーが悪いのです。だから決して私が悪くありません。
見てください私の目を、この迷い無き目を、一点の曇りなど無いこの目を見てください。
私の目を見れば嘘を吐いていないと分かるはずですね?
お~い。どうして目を背けるのですか? 一度落ち着いたら私が誰かということを説明しますから話し合いをしましょうね? ちなみに何度も言っていますが、私はこの国の女王陛下ですからね?
「宜しいでしょうか。女王陛下」
「あっはい。ごめんなさい」
話しかけていたアーブさんを無視する格好になっていましたね。申し訳ありません。ちなみに何でしょうか?
「あちらに見えるのは彼らではありませんか?」
「彼ら?」
アーブさんの視線の先に私も目を向ければ……そうですね。間違いありません。
何故かノイエ様が上着を着たところで止まってこちらを見ていますし、アルグスタ様と凄く美人の女性が取っ組み合いの喧嘩をしています。それとポーラ様が地面を殴りつけていますね。
どうしたらそのような状況に陥るのか謎なのですが?
「さあ急いでくださいアーブさん」
「はい」
彼らが見えればもう迷う必要はございません。
急ぐのですアーブさん。ゴールはもう目の前です。
「ん、ん~?」
「何よ。変な声を出して?」
「ん~?」
突如として奇声を発する魔女にセシリーンはファナッテの尻を撫でながら質問する。
このお尻は悪くない。モチっとしていて揉みやすい。肉厚で昔に聞いたことのある『安産タイプ』と呼ばれる物のはずだ。ただそのタイプは何故か自分にも当てはまるらしいので、セシリーンとしては言われるのは好きではない。
お尻が大きな女のような気がして嫌になる。何より自分の目で確認できないから尚更だ。
でも他人のお尻であれば悪い気はしない。
モッチリとしているファナッテのお尻は揉み応えが素晴らしい。
「聞いてるアイル?」
「ん~?」
ダメだ。相手は完全に魔女に戻っている。
戻っているというか彼女の本質と言っても良い。
好奇心の塊で、未知と見ればそれを調べ確認したくなるのだ。
「……あれって魔法じゃないわね」
「えっ?」
しばらく唸っていたアイルローゼはそう結論を出した。
「魔法じゃないと言えば語弊が生じてしまうのだけど、あれの魔法的分類は召喚魔法よ」
「なら黒い雲を呼び続けているの?」
「それとは違うと思う」
確信はない。確信はないがアイルローゼは言葉を続けた。
「何と言うか……私はそっちの感受性が弱いというか、無頓着な感じがするから断言はできないけれど、あれはたぶん良くないものよ。人の悪意とかそんな物の集まりと言えば伝わるかしら?」
「確かにアイルの言葉じゃないみたいね」
「煩いわよ歌姫」
拗ねてそっぽを向く魔女の様子が手に取るようにセシリーンには伝わって来た。
「なら悪意を呼び出す召喚魔法ってことで良いのかしら?」
「見た限りはそう判断するしかないのだけど……ああ。もう。どうしてノイエは大人しくあっちの黒い雲の方を見ててくれないのかしら?」
「彼のことがたくさん見れて嬉しい癖に」
「煩い」
「正解だったのね?」
「……煩い」
増々相手の拗ねる様子にセシリーンは目を閉じたままで微笑む。
本当にこの魔女は揶揄い甲斐があって可愛らしい。
「もうノイエ。大人しくあっちの雲の濃い方を見なさい」
「そんな無理を」
外の妹に対して無理な命令をする魔女に対し、歌姫の笑みが苦笑へと変化する。
『はい』
ただその声は確かに聞こえてきた。
「嘘?」
「えっと……」
「「ノイエ?」」
余りの出来事に魔眼の中に居た2人は思わず聞き返してしまった。
「こんの糞姉がっ! もう辛抱ならんっ!」
「かかって来なさいよね! アンタみたいなどうしようもない男なんて私が直接人生を終わりにしてやるんだからっ!」
女性に手を上げることは……いくら相手がマニカであっても許されざる行いだ。が、そんな縛りを忘れる時もある。だって人間だもの。
怒りのままにマニカの両頬を摘まんで横に引っ張る。
どうだ美人? お前なんて変顔にしてくれるわっ!
「女の顔を引っ張るだなんて最低ねっ!」
「確実に股間に爪先を打ち込もうとするお前よりかは絶対にマシだ!」
「煩い! 抉れて死んでしまえ!」
嫌だ。死因が股間の蹴られ過ぎだなんて死んでも死にきれない。そんな死因だと葬式の時、絶対にしめやかな雰囲気にならない。
クスクス、プププな環境になるのは間違いなしだ。
「鼻フックだ! お前なんて豚鼻になれ!」
さあブーと鳴け。この豚がっ!
「ふざけないでよね! 私の何処が豚だと言うのよっ!」
「見ろ。家畜のようだ」
「殺す! ノイエが泣こうがお前を殺す!」
「のっは~!」
怒りに身を任せマニカの蹴りが僕の股間を襲う。
お前は男性の急所を確実に狙い過ぎだ。もしその蹴りが一発でも当たりでもしたら、
「はい」
「ん?」
ノイエの声につい反応してしまった。
ポーラが縫い終えた上着を着る手を止めて……ポーラさん。ノイエはボタンの順番を間違えちゃう系の子だから、ちゃんと上から止めてあげないとダメなんだぞ? 何が起きて君はまたそんな地面に対して拳を振り下ろすのかね妹よ? 大地は友達。ボールと同じだよ?
あれ? どうして世界の進みが遅いんだ? まるで世に聞く走馬灯のような……ノイエに向けていた視線を巡らせれば、マニカの足が僕の股間をヒットしていた。挙句にこの馬鹿は足を引き抜き二発目の蹴りを繰り出してくる。
ダメだ。それはやってはならん。何故なら僕はもう一発目の蹴りで走馬灯を見るほどのダメージを得ているのだから!
「死ねこの馬鹿がっ!」
ああ。マニカの声が良く聞こえるよ。これが俗にいうゾーンの状態なのか?
「ごぶふっ!」
流れが戻った。音も映像も何もかもが元に戻った。
そして言葉で言い表せない激痛がっ!
「おおう……」
膝から崩れ落ち倒れ込む。
これはアカンヤツや。絶対に良い子は真似しちゃいけないヤツや。
何故なら全身が震え脂汗が半端ないほどに出る。
寒くないのに震えが止まらないんだぜ? あはは。ただ蹲っているだけのように見えるだろう? でも今の僕は決して立つことが出来ないダメージを受けています。
今、仮にゾンビが現れても逃げられません。このまま噛まれてゲームオーバーです。
「私の勝ちのようね」
「卑怯な……」
アカン。声が震える。言葉に出来ないほどの激痛がジンジンと響いて来て涙も溢れて来た。
「ん~? 良いのかしら? 今の私に逆らうことがどんなことだか分かっているのかしら?」
『止めろ……』
言葉にならない。震える体が、顎が言葉を作り出せない。
「私に逆らうって言うのは」
『やめろ~!』
僕の背後に回ったマニカの爪先が僕の股間をっ!
うはっ! 意識が飛びかけた。今絶対に死んだと思った。
「あら? 痛かったのかしら?」
「お、まっ」
「んん?」
ピーンチ!
何か言おうとするとマニカの足が僕の股間を狙って来る。今なんて絶対に股間を蹴らずにお尻を蹴りに来た。
ノイエさん。お願いします。恥を忍んで……おいコラお嫁さん。何故こっちを見ていない? そんな雲の塊を見るよりもあなたの大切な旦那様を見た方が良いと思いますよ?
愛しいお嫁さんを見た結果がこれなんだから、もう少し旦那さんに愛を下さい。
「アイお姉ちゃんが煩い」
アイルローゼが煩い? また世のおっぱいを呪っているのか? 先生にだって小さいながらも感度の良い胸があるんだから気にしないでください。分かりました。今度出てきたら先生の胸を愛でる会をしましょう。チッパイでも楽しめる方法を考えておきます。
だからノイエ、本当に助けて!
「はい」
クルンとノイエのアホ毛が軽く周り伸びてきた。
そして……マニカの表情が絶望に染まる。
今起きた出来事が信じられないと言いたげに右頬を押さえながら地面へと崩れていく。
つまり僕の横に倒れ込んだ。
「うそ……ノイエ、うそよね?」
ブワっと彼女の両目から涙が溢れる。
「お姉ちゃんをぶつだなんて嘘よね~!」
事実だ。
~あとがき~
アイお姉ちゃんの声に反応していると、もう1人の姉が…ノイエさんのキャパをオーバーしたし、何より大切な旦那さんが大変なことに。
とりあえず煩いのは黙っておけです。深い意味はありませんが大問題ですね~w
そろそろ変態たちが再合流します
© 2023 甲斐八雲
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます