あれは本当に祟るから

 神聖国・都の郊外



 自分思う訳ですよ。神が居るのなら世の中ってどうして平和にならないの? 何よりどうして宗教家同士で争うの? どう考えても神とか言う存在が争いを望んでいるわけじゃない?


「神は人々の行いに干渉せずという」

「でも信仰は集めるんでしょう?」

「う、うむ」


 干渉はしない。でも寄付は寄こせってやってることはゴロツキやチンピラの所業じゃん。まさに下種の極みってヤツだと思うんです。


「そもそも神を信じる人って精神的に逝ってる人かギャンブラーぐらいでしょう?」

「そこまで両極端ではないと思うぞ?」

「僕の認識だとそんな感じです」

「う、うむ」


 何よりあのフレーズが大っ嫌いなんです。あの『神様のおかげ』ってヤツ。


 僕は前からずっと主張していますが、頑張ったのは個人の努力の結果です。そこに神の力が働いた? はぁ? 何を寝言を?


 頑張った人の努力の結果を奪うなと言いたいのです。一生懸命に勉強をしてその努力が実って志望校に合格したのならその結果はその人の努力の結晶です。もしその人が志望校に受からなかったのならその人を応援しなかった神のせいです。


 神という存在は良い所取りをするなと言いたい。

 人の不満を引き取る受け皿であれと思うんです。


「それでは人々に感謝されず」

「だから信仰心欲しさの欲を出すなと言いたい。神という存在はそんなに欲まみれなのか?」

「……あながち否定できんな」


 なの?


「ゼウスなど特に酷かったというしな」

「……ヘイ悪魔」

「らっしゃい」


 叩けば響くオタクかな?


「ゼウスはやりまくりな神様で有名よ。やり過ぎて馬の姿になって牝馬を相手にバコッちゃうほどに」


 うわ~。引くわ~。


 で、君はどうしてもう復活しているのかね?


「笑止! 私の演技力をもってすれば姉さまを騙すぐらい」

「ノイエ~。ここに嘘つきが居ます」

「裏切ったなっ!」


 違います。僕はただ真実を告げただけです。


 ノイエがやって来て悪魔を回収すると、アホ毛で拘束した。そして両手にペガサスの羽根を持って……妹様の何かが色々と崩壊し始めた。


「そんな訳で僕は神という存在が嫌いです」

「我も特にあれを弁護する気はないが……人によってはあれを信仰することで掬われている人もいる訳だと思うが?」

「そう言う人たちはそう言う人たちと小さなコミュニティを作って勝手にやれと。何故勧誘する?」

「神の素晴らしさをだな」

「勧誘しなければ素晴らしさが伝わらない時点でダメだろう?」

「それはだな」

「何より神は人に対して不干渉なんだろう? なら何故その素晴らしさを伝えることが出来る?」

「……」


 素晴らしいのは神の所業を伝えている人の話術ってことだろう? 詐欺師の手法やん。


「宗教なんて所詮詐欺やん」

「だが人は騙されていると理解しながら騙される者も居ると聞く」

「ただの馬鹿やん」

「うむ。だが騙されて夢を見ることで、辛い現実を忘れたいと思う者も居るのであろう」

「別に宗教でなくて良くない?」

「宗教の方が世間体的に見栄えが良いのであろうよ」


 嫌な話だね。


「否定ばかりしているがお主とて神に祈ったことぐらいはあろう?」

「そりゃね」

「神とは元来その程度の存在で良かったのだよ。だが人がそれ以上の何かを望んだ。その結果として天界が出来上がり神が生まれたのだ」

「嫌な話だね」

「お主の願いが神を作ったとしてもか?」


 極端すぎない?


「人の願いの集まりが神の力となる。力というか血肉というべきかな?」


 なら僕からの願いはもう届かないから問題ないね。


「何故だ? 何故そこまで神を憎む?」

「いくら願っても救って欲しい人は助からなかったからかな」

「……」


 朝昼晩と願ったさ。どれほど願っても叶わなかった。


「人の寿命は決められているとも言うしな」

「それを決めたのは神か?」

「……分からんよ。けど神は人に関して不干渉となっているしな」

「なら神に願うだけ無駄でしょう?」

「そうなるな」


 分かっている。人は弱い生き物だから結局何かに縋るんだる

 けどその結果は大体良くないものとなる。そんなもんだよ。


「アルグ様」

「ん?」


 ふんわりとやって来たノイエが僕のことを抱きしめる。抱きしめてくれる。


「大丈夫」

「何が?」


 さわさわと頭を撫でて……ノイエから母性を感じる。


「必要ならその“かみ”も私が殴り飛ばすから」

「……ノイエなら出来そうだね」


 ウチのお嫁さんなら有言実行しそうな勢いは確かにあります。




「あまりお勧めしないけどね」


 地面の上で痙攣していた少女の姿をした魔女は夫婦の姿に目を向ける。


「あれは本当に祟るから」


 自身の経験から呟き苦笑した。




「むむむむむ……」

「ねえアイル」

「何よ?」


 伝わって来た感情にファナッテの背中を撫でていたセシリーンは見えない目を向けた。


「ノイエを相手に敵愾心剥き出しになるのは止めて欲しいのだけど?」

「……」


 相手の言葉にアイルローゼは何も言えなくなる。

 母性の塊である歌姫の様子を見ているから特にだ。


「ここはあの子の成長を喜ぶところだと思うけど?」

「分かっているけど」

「うふふ」


 微笑みセシリーンは可愛らしく拗ねた気配を発する存在に増々微笑みかける。


「最近の貴女は本当に愛らしくなって私は好きよ」

「知らないから」

「そうね。でも拗ねるだなんて昔の貴女からは想像できないわね」

「知らないから」


 拗ねた口調が本当に愛らしい。


「それでアイル」

「何よ?」

「彼らが言っていた雷帝って?」

「……」


 余りその手のことに興味を示さない妹が視線を向けてくれないから観察するのが大変だが、それでもアイルローゼは少ない情報から自身の頭の中で推理をしていた。


「と言っても魔法ならまだしもあれは本当に推測するしかないけど……はっきり言って未知ね」

「未知?」

「ええ」


 抱きしめていた膝を解放し、アイルローゼはゆっくりと座り直す。


「私はあれを知らない。だから見て察することしかできないのよ」

「その結果は?」

「……良くないモノかしらね」

「魔女としてその答えで良いの?」

「構わないわよ。私の専門じゃないのだし……何よりあの手のことを考えるのは殺人鬼の仕事でしょう?」


 答えてアイルローゼは気づいた。

 猫が連れて行ったあれが戻って来ていたはずだ。


「ホリーは?」

「ええ」


 さわさわとリグの背中を撫でていたセシリーンがゆっくりと視線を遠くへ向けた。


「ふらりと出て行ったわ」

「……」


 黙ってアイルローゼは息を吐く。

 本当にここに生きる者たちは……好き勝手に生きている。勝手が過ぎるほどにだ。


「本当に困ったものね」




「もう大丈夫だから」

「はい」


 ノイエのおかげで色々回復した、


「で、悪魔?」

「ほい」


 頬杖ついてこっちを見ている悪魔……その表情は何だ? こっちを見るな。


「あの雲の正体は……待て悪魔。何処へ行く」


 地面の上を這って悪魔が逃げ出した。


 とりあえずノイエさん。あの馬鹿を捕まえて来てくれますか?




~あとがき~


 済みません。作者が色々と限界です。

 ただここで少し時間が取れるので何話か書けると思います。


 書けるよね? 書けるかな?




© 2023 甲斐八雲

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