しばらく引っ込んでいるのでは?

 神聖国・都の郊外



「も~っ! 貴女と言う人はっ! どうしてこうもっと安全な方法で……もうっ!」

「大変申し訳ございません。女王様」


 ムッスンの腰布を借り私は全力でユリーから立ち昇る黒い煙を払います。


 この煙が集まると黒煙になってゴロゴロピカピカの原因になるっぽいのです。だから全力で……貴女も手伝ってくれるのですね。だからそろそろ仲直りをしましょう? こっちを見てくださ~い。泣きますよ?


 私だってそこまで露骨に無視されたら子ども相手でも泣くんですからね。嘘じゃないですから。


「自慢にもならないことを言わないでいただきたい。陛下」


 確かに自慢にはなりませんが荷物の様に運ばれている貴方の今の姿よりかはマシです。ゴルベル。


 何よりアーブさんの治療は終わったのですか? まだ? 包帯用の布が足りない? 少し待っててください。ここでようやく私のスカートの出番ですね。分かっています。良い感じで割いて、


「少し煤けているがこのマントを使って欲しい」

「……」


 サッとユリーがマントを取り出しました。


 何処からそのマントを? 上空は意外と寒いから常に丸めて持ち運んでいる?


 そんなことはどうでも良いんです。なぜ今これ見よがしに取り出したのかを聞きたいのです。私たちは対象が違くとも同志。同志ですよね?


「それは間違いなく」


 ならどうして……分かりました。邪魔をするのであれば私も邪魔をします。

 この子は私のモノですのでお触りは厳禁です。


 パタパタと両手でユリーのことを仰いでいた少女を捕まえて抱きかかえます。


「女王陛下。陛下がそのような地位も無き一般人と戯れるなど危のうございます。そのような娘のことは私に任せて」

「却下です」

「陛下っ!」


 ふふふ。分かりましたかユリー? それが絶望と言うものです。良く味わってください。


 膝から崩れ落ちて……ところでユリー? 1つ確認したいのですが?


「貴女から立ち昇っているその黒い煙は何なのですか?」

「……」


 ジリジリと手を伸ばし少女に手を伸ばすそうとしている彼女から少し離れます。


 何て危ない。良いですかユリー? 我らの活動は決して表立って行ってはいけないのです。あくまで内密に、そして秘密裏に行うことが大切です。

 気を付けないと白い目で見られてしまうこと間違いなしです。


「それでユリー。その煙は?」


 煙と言うか雲ですか? ずっと少女がパタパタと仰いでいますが霧散せず、むしろ私たちの上で黒々とした分厚い雲ができつつあります。これって危なかったりするのでしょうか?


「これですか?」


 自分から立ち昇っている煙にようやく気付いた様子でユリーは軽く腕を回す。


「ウチの近所の洞穴に転がっていた本を読んだら覚えた魔法です」

「……」

「後日近所の老人に確認したら、何でも『古くから危険な物が封じられているから決して入ってはいけない』と言われました」

「えっと……入ったのですよね?」

「はい。子供たちの遊び場でしたので」


 あはは。遊び場ですか。そうですか。そうですね。洞穴なんて子供からしたら絶好の遊び場ですものね。私は箱入り娘として育てられたので洞穴遊びとかしたことはありませんけどね。


「その洞穴に転がっていたと?」

「はい。厳密に言うと遊んでいてご神体と呼ばれる謎の石像に触れたらそれが壊れて転がり落ちて来たのです」

「……」


 えっとその石像はどのような形の? 筋肉質の男性が右拳を突き上げた像? 触れた人によっては声がして恐れられていた? それって本格的に危ない場所だったのでは?


「その像から転がり落ちた本を読んだら覚えたと言うのですか?」

「はい。他の者が何故か本を開くことができず、私が触れたらパカッと開いて」

「……」


 絶対に呪われている感じのあれですよね?


 これは危険です。私の危険を察知する何かがビンビンとユリーさんから危険を感じます。


 あら? おニクさん? 今まで何処に? えっとその紙は……私が読むのですか?


「その像は何を話しましたか?」

「はい。確か『我が人生に……』とか何とか。子供の頃の記憶なので」

「そうですか」


 これで良いのですか? まだですか? 次は何ですか?


「本を読んだら黒い煙が出ませんでしたか?」

「黒い……出ました。ぶわっと本から黒いものが」


 だそうです。ってどうしておニクさんがそんな絶望チックな表情を? 続きですか?


 分かりました。えっとですね。


「それからその魔法を使ったことは?」

「はいあります。ただ“黒雷”と言う小規模の魔法です。雷帝を使ったのは今日が初めてで」

「初めてなのですか?」

「はい」


 コクンとユリーが頷きました。


「女王陛下の危機につい反射的に」

「……」


 何でしょう。目頭が少し熱くなってしまいました。


 私はようやく忠臣と呼べる人たちを得られたのですね。昔にも居ましたが、でもあの頃はちゃんと玉座に座った女王でした。ですが今の私は自称女王でしかありません。そんな自称にアーブさんもユリーも……私はこの気持ちにどう応えればいいのでしょうか? この少女を渡せばよい?


 それぐらいのことで良ければ。


 抵抗する少女に脛を蹴られて目が覚めました。危うく相手の甘言に乗ってしまうところでした。


 ところでおニクさん? どうして荷物を纏めて逃げようとしているのですか? ユリーさんの魔法を何か知っているのですか?


「誰かあの逃げようとしている裏切者を捕まえてくださ~い」


 私の声にアーブさんが反応してあっさりおニクさんを確保しました。


 そんな愛らしい感じで命乞いをしてきてもダメですよ? と言うか私はノイエ様では無いんですから貴方を食べようとは思いませんから。




「ちっ!」


 何ごとだ?


 突然の舌打ちから妹様が襟を正した。


 今の何かを誤魔化そうとしていませんか?


「ポーラさん。何か隠したろう?」

「違います兄さま。この地面に染みが」


 語るに落ちたな妹よ。


「ノイエさん」

「はい」

「あれを捕まえなさい」

「ほい」

「いゃ~。姉さま怖い」

「……」


 ノイエがポーラを脇に抱えて僕の元へ来る。

 はっきり言って接近戦でノイエに勝てる人間はいない。今のところは居ない。


「で、何を隠した?」

「……」


 黙秘ですか?


「あの雲を何故倒さないといけない? 何より相手は雲だ。雲を倒すなんてそもそも無理な話だ」

「姉さまなら……」

「無理でしょ?」

「はい」


 あっさりとノイエが頷いた。

 ウチのノイエは出来るなら出来ると言う子です。


「何より妹よ」

「はい?」

「気づいていないのか?」

「何をですか?」


 そっか。気づいてないのか。


「瞳に模様が浮かんでいるぞ?」

「っ!」


 ハッとなってポーラが自分の右目に手をやる。これで確定だ。


「お前、悪魔だな?」

「だまっ……わたしポーラ。まだきむすめな、ろくさいじ」

「ハリセ~ンっ!」

「ありがとうございますっ!」


 全力殴打ではっきりしたコイツ悪魔だ。


「しばらく引っ込んでいるのでは?」

「……こっちにも都合があるのよ」


 そして両手で頭を覆う悪魔がやさぐれた。


「あの手のサーチ&デストロイ的なことは弟子の方が優秀なのよ。私ってばこう見えてもデスクワーカーだしね。机仕事がお似合いの女なの!」

「エロ同人誌を執筆するのに忙しかったから?」

「その通り! でもこれでもそこそこ人気のある、」

「で、あの雲は何だ?」

「……」


 こっちを見ろ。全力で視線と顔を背けるな。

 君の態度次第ではノイエさんの強肩が発動されるぞ?


「具体的に言うと?」


 決まっている。あっちの方でゴロゴロピカピカな方に簀巻き状態で投げられるのと、向こうの方へ簀巻き状態で投げられるのとどっちが好きかね?


「雷雲の下の方で!」

「ならノイエ。この馬鹿をあっちの蛇さんが居た方に投げてやれ」

「いゃ~! 純100%の蛇汁に浸かったらポーラのポーラが発情しちゃうっ!」

「とりあえず簀巻きだな」

「本気だった!」


 当たり前です。僕はやる男だよ?


「アルグ様。簀巻きって?」

「今の君が蛇さんにしていることだよ」

「……これ?」


 アホ毛が巻き付き拘束されている蛇がグッタリとしている。


 生きているのか? 死んでないよな?




~あとがき~


 雷帝を恐れる刻印さんは…まあ自業自得なので最後まで付き合っていただきましょうw


 ちょっと作者の体調が最近思わしくないので投稿ペースが不規則になるかもしれません。

 たぶん睡眠時間を増やせば幾分回復するとは思うんですけどね。

 残業が多い職場なもので…申し訳ないっす




© 2023 甲斐八雲

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