とっても安産タイプに……

 神聖国・都の郊外



「シクシク……お尻が……私のお尻が……とっても安産タイプに……」

「知るか馬鹿」


 地面の上でうつ伏せになった悪魔が泣いている。マジ泣きだ。


 とあるトラブルメーカーな悪魔の尻を百叩きの刑に処した結果だ。

 大きな氷を作り出した悪魔がそれを尻の上に乗せている。意外と便利な力だよな、それってばさ。

 と言うか千年殺しをされなかっただけ感謝しろと言いたい。


「そんなことされたら私の初めてがアブノーマルになっちゃうっ!」

「あん?」

「失礼しましたっ!」


 ハリセンを構えたら悪魔が土下座をして許しを請う。

 まあ特別に許してやろう。


「で、諸悪の根源」

「はい」

「あれをどうする気だ?」


 ハリセンの先を都の方へと向ける。


 モクモクと立ちこめる黒煙チックな煙と言うか雲がどんどん拡大している。

 ただその範囲が都の方では無くてこちらに伸びていることがせめてもの救いか?


「はいお兄さま」

「何だ悪魔?」

「魔力が切れるまで黙って待つしかありません」


 そうか。


「遺言はそれで良いのか?」

「いや~! 助けてお姉さまっ!」

「はい」


 シュッと瞬間移動して来たノイエが、僕と悪魔に対し交互で視線を動かしコクコクと頷いた。


「叩いて」

「……」

「アルグ様?」


 ノイエが望むのだから仕方ない。軽くハリセンを振りかぶって落とすと、アホ毛をフリフリさせたノイエが食い気味にハリセンを食らいに来る。

 僕が威力を殺していることに気づき、自ら踏み込むことで威力アップを謀ったと言うのか?


「満足」


 満足したらしいノイエが元の位置へ。


 あの両足がフラフラの生まれたての小鹿のようなマニカはどうしたのだろうか? 下手に首を突っ込んで関わると、僕が不幸になるかもしれないから敢えてスルーだけどね。


「で、ノイエに捨てられた悪魔よ」

「くっ……」


 こっそりと逃れようとしていた悪魔を僕は見逃さない。

 地面を這って逃れようとしていたが、ズリズリと音がしていたから無理がある。本来のポーラなら音を立てずに逃げていたかもしれないがな。

 それはそれであの子の将来が本気で心配になる。


「黙って待てばどうにかなるのか?」

「その通りっす!」

「ふ~ん」


 逃れることを諦めたらしい悪魔が今度はこっちに迫って来る。何を企んでいるの?


「ですからお兄さま。待てばあの攻撃は終わるんです」

「まあそうだな」


 僕の足に抱き着いて来た悪魔が必死にそう訴えて来る。

 ただコイツとの付き合いもそこそこ長い。長いからこそ分かることがある。


「何を隠している?」

「実はポーラ、少しМっ気があって」

「ふーん」


 あっさりと受け流し相手の反応を待つ。

 一分ほど待ってみたら、悪魔が僕の足に股間を押し付け腰を振り出した。


 確定だ。この馬鹿は何かを隠している。それも絶対に良からぬことだ。間違いない。


「素直に吐け」

「嫌よ! 絶対に酷いことをするでしょう! 結果この体がどんどんマゾ属性に傾いていくのよ!」

「良いから吐け」

「いやぁ~! 抵抗するわ! 断固拒否よ!」

「さっさと話せ」

「無理に迫ると言うなら、ここで、この体が、人さまには見せられないことをされる覚悟を持つことね!」


 この激しすぎる抵抗。間違いない。


「何を隠しているかと聞いてるんだよ!」

「いゃぁ~! 言ったら最期、ポーラがお兄さまの手にかかってとんでもない辱めを~!」

「分かった。してやるから言え」


 思いもしない返事だったのか悪魔が一瞬凍り付いた。


「えっと……言いたくないんだけど?」


 かなり困惑した感じで悪魔が動揺している。

 ポーラの体を僕が傷つけるようなことはしないと思っていたのだろう。


「なら拷問だな。三角木馬はある変態にプレゼントしてしまったが、お前なら木製のアイアンメイデンぐらい1日で作れるだろう?」

「まあ可能かな?」


 本当に作れちゃうんだ。ちょっとビックリ。


「ならそれを作って自ら使え」

「いゃぁ~。ポーラに新しい穴ができちゃう~!」

「そしてくたばれ」

「最近発言がストレートすぎるぅ~!」


 それはお前が遊びすぎているのが悪いと思う。

 だが足にしがみつく悪魔は、涙ながらに僕を見上げて来た。


「お兄さまはもっと優しかったわ! あの頃のお兄さまに戻って!」

「そっか」


 確かにその通りかもしれない。

 ガシッと相手の頭を両手で抑え込むようにして掴んだ。


「お兄さま?」

「ならまず言い出したお前が元に戻るべきだと思うんだが?」


 出会った頃のポーラは絵に描いたような純粋無垢な存在だったわけだ。それがどうしてここまで屈折してしまった? 決してポーラが屈折してしまったわけでは……一部怪しい部分もあるが、ここまで屈折などしていない。時折昔を思い出してピュアな意味面を見せてくれるんだ。

 諸悪の根源はこの糞悪魔だと言うことだ。間違いない。


 ギリギリとポーラの頭を掴む手に力を籠めると、激しくタップしていた悪魔がこっちを見る。


「ポーラは大丈夫。これからだから。ポーラはこれからの子だから!」


 なるほどね。まだ言い訳をするのか?


「シェイク! シェイク!」

「ふなぁ~!」


 激しく相手の頭を振ってやる。お前は少しはまともに生きようと考えろ。


「考えているもんっ! 私だって世界平和を願っているんだからっ!」

「ならこっちを見ろ。全力で視線を逸らして言われたその言葉に納得するのは難しいぞ?」

「……大好きな兄さまの顔を真っすぐ見るのが恥ずかしいだけよ」

「嘘だな」

「ふなぁ~!」


 もう一度全力でシェイクしてやると悪魔がグッタリとなった。


 ようやく悪が滅んだか。


「兄さま?」

「ん? ポーラか?」

「はい」


 悪が去って天使が戻って来た。

 やはりポーラは真面目な方が良い。兄として妹は真面目な方が良いのです。


「兄さま」

「ん?」


 何故かポーラさんが真っすぐこっちを見ていたかと思ったら目を閉じて唇を尖らせるのです。


 まだ悪魔が残っていたのか。


「悪霊退散っ!」

「ふなぁ~!」


 今度は左右に振ってやって悪魔を払う。


「酷いです。兄さま」

「君が色ボケするのが悪いのです。お兄ちゃんは真面目な妹が好きなのです」

「はい」


 可愛らしく頷いた妹様が僕から離れた。

 で、気づけば……あれ?


「もしかして僕ってば悪魔を取り逃がしたか?」

「そうだと思います」


 真面目な妹の容赦ない返事が胸の奥に突き刺さるっす。


「ちょっとあの馬鹿呼び出してくれる? まだ話は終わってないから!」


 そもそもあの猛威を振るっている黒雲をどうるのかって言うことと、ついでにあの黒雲に隠されている秘密を暴露させないと絶対に良からぬ何かが起きるに違いない。過去の僕が、あの悪魔との付き合いが長い僕の本能が語り掛けて来るんだ。『危ない。危なすぎる』と。


 実家が埼玉県だった向坂君が良く呟いていたフレーズだ。何でも元ネタは饅頭のCMだと言うが、埼玉県民はそのCMを知っていても、実際にその饅頭を食べたことがある人の方が少ないと言う謎過ぎる製品だとか。売り場が分からないとも言っていた。何その都市伝説……マジで怖いんですけど?


「兄さま。思考が逃避してますよ」

「はうっ!」


 ポーラの指摘で正気に戻る。

 饅頭のCMなどどうでも良いのだ。まさか……饅頭怖いの正体がその饅頭なのか?


「兄さま?」

「大丈夫です。現実に帰ってきました!」


 舌足らずな口調を止めたポーラは言葉はどこか冷たい感じがする。まあ真面目な人の口調ってどこか冷たく感じるんだよね。先生とかがもっともな例だ。

 代わりに不真面目な人ほど馬鹿っぽく聞こえる。代表例はレニーラか。


「兄さま」

「大丈夫。僕は正気です」

「そうではなくて……師匠からの伝言です」

「はい?」


 着ているメイド服に違和感でもあるのかしきりにスカートの丈を気にしながらポーラが口を開いた。


「あの魔法は『姉さまが居ればどうにかなるはず』だそうです」

「おひ」

「それとちょっと魔眼の中で拳を使った話し合いをしてくるから後は任せたとも」

「おひおひ」


 あの自由人は本当に何をしているんだ?

 ってノイエが居れば大丈夫って……それってどんなフラグよっ!




~あとがき~


 ポーラが戻って刻印さんがアウトです。

 刻印さんは拳を交えた自分との戦いに赴いたので…この人は本当に何がしたいんでしょうね?


 雷帝の魔法は発動は簡単なんですが色々と厄介な魔法です。何故それをユリーが持っていたのかなどは次からの本編で語られるでしょう。

 まあノイエが居ればとりあえず大丈夫です。たぶんですが。



 たまにはおねだり的なことをw


 作者さんのやる気を向上させるために評価とかレビューとか貰えたら嬉しいです。

 ポイントが増えれば下位に沈みがちなこの作品が日の目に出て、運が良ければ書籍化なんて…まあ夢みたいな話ですけどね。

 でも皆様のちょっとした協力でその夢が少しずつ現実に近づくかもです。


 みんなの優しさをオラに分けてくれ~!




© 2023 甲斐八雲

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る