お前はこのヘビに何をした!
神聖国・都の正門付近
《あり得ん。あってはならん》
一方的な攻撃を受けながら“それ”は思った。自分は……自分たちは最強なのだ。
その最強がどうしてこうも一方的に追い詰められるのか?
食らったのだ。
強者を食らい力を重ねたのだ。
弱いわけがない。
それなのにあのチビは確実に拳を振るい一撃を当ててくる。
重すぎるほどの打撃を与えて来るそれに太刀打ちできない。
《どうしてだ? 何が……どうしてこうなった?》
一斉に槍と化した体毛を蠢かせ、相手に放つ。
けれどあのチビはスルリと回避しまた一撃を放って来た。
《どうして?》
理解が追いつかない。どうしてこうも強い自分が?
「なぜだ~!」
腹の底から込み上がって来た声を抑えきれずに“それ”は吠えた。
と……相手が、小柄の少年に見える左宰相のドラゴンスレイヤーが足を止めた。
「煩い。黙って殴られていろ」
一方的に言葉を放ち彼はまた動きだす。
「止まっている巨躯の存在などただの的だ」
言葉の通りだった。
ブクブクと膨れ上がった存在はもう自分の足で動けなくなっていた。
故に止まりながら攻撃する方法として自身の体毛を武器にしたのだ。
「ふんっ!」
ゼロ距離にまで間を詰め、小柄な人物は拳を振るう。
ズドンと鈍い音を響かせ……殴りつけた肉塊が抉れて吹き飛ぶ。
「ただ大きいのも面倒だ」
拳を振るう彼は思わず愚痴を口にした。
「見てください」
手を引いて一緒に来た名無しの女の子にちょっとした自慢をします。
分かっています。大人げないですよね?
だからってそんなジトッとした目で見ないでください。段々と反応がアルグスタ様に似て来て私の奥の方がキュッと……違いますからね? 私にはそんな性癖とか無いですからね?
こほん。話を戻しましょう。
どうですか? 私の騎士であるアーブさんがあんなにも立派に……そっちはダメですよ? もう少し視線を上げましょうね?
腰から下を見てはダメです。まだ少し早いと思います。
どうしてそんなに不思議そうな目を向けて来るんですか? まさか……もう大人の儀式を済ませているとか言いませんよね? その場合は相手を見つけ次第、犯罪者として即決裁判で私が断罪します。即処刑です。
違うんですか? ならその動きは何でしょう? 手を上下に……ああ。小さい時の話ですか?
大丈夫です。私はこう見えてもこの国の女王陛下ですから何でもお見通しです。つまり今より小さな時に見たことがあると伝えたいんですね? はい。正解です。
……それはそれでもっとダメなような気がします。違うんですか?
何でしょう? その身振りは何を表しているのでしょうか?
えっとそれは私とアーブさんですか? それが絡みあって……違います。私と彼は主従の関係ですからそんな破廉恥な関係ではありません。確かに私のお母さまとして振る舞ってくれたキキリは常に『あそこの大きな人を夫にしなさい』と言っていましたが。
はい? 何かを運んで戻す感じですか? 今の話を戻すのですか? えっと大きな人? もう少し戻れって、キキリですか? キキリは私の母親をしてくれた人で、はい? 母親が正解?
貴女の母親にはあんな立派な、違いますよね? 怒らないでください。父親ですね? わ~い。正解です。
そうですか。父親のを見たことがあるのですね。それはそれでダメです。何故驚くのですか?
良いですか? 世の中には自分の娘を手にかける父親だって居るのです。絶対に油断をしてはいけません。分かりましたか?
そんな泣きそうな顔をしないでください。大丈夫です。貴女は私が責任をもって両親の元に帰してあげます。ん? その両手で首を絞める手振りは……そうですか。でも心配しないでください。だったら私が貴女が一人前になるまで立派に育てて上げます。
何処に出しても恥ずかしくない淑女として育ててみせます。
ってどうして逃げようとするのですか? 理由を求めます。
はい? 私の手を引いて……もっと早くに言いましょうね! 話せなくても努力を怠ってはいけません! 誰かが言ってました。最後は根性です。
私は話し相手である名無しの少女を抱えて全力でその場から逃げ出しました。
だってゴロゴロと地面を転がって来る肉の塊が私たちに対して直撃コースなのですから。
「間に合わないかも~!」
都の郊外
「私は質問したらなんでも答えてくれるスマホの機能じゃないんだからね?」
「分かっているが、質問したいときもある」
「まあ良いわ。撮影班にも指示を出し終わったし」
「何の話だ?」
「ん~。あの猫のペットは大変良く使えるって話よ」
ニクか。そう言えばあのニクってファシーの眷属だったんだな。
眷属で良いのか? 猫の眷属がリスって色々と間違えていないか?
「弄んで殺しそうだな」
「何をどう考えたらその発想になったのかお姉さまの目を見ながら言ってみなさい」
止め給え。そんな恐ろしいこと……ファシーに知られたマジで殺されてしまうぞ?
「それよりもだ。この卑猥がドラゴンを食い物にしていたらしいのだが、どう思う?」
「穴があれば何でも良かったのかしらね?」
「なるほど。雄雌関係なくかっ! それはビックリだっ!」
「我は男性器などではないと何度も言っておろうがっ!」
憤る鎮座したち○ーんを僕と悪魔は生温かな感じで眺める。
何を言っているのだこの男性器は?
「自分の姿を鏡で見てみろ?」
「何度も水面を見て理解している!」
台の上の卑猥が上半身を起こして文句を言って来る。
ただその姿は……これこれ悪魔くん。立った立ったとか言わないの。ここはアルプスな話では無いのだよ? 字が違う? 何の話だ? 立ったじゃなくて……言わせないよ?
相手の首に腕を回しヘッドロックを決めつつプニプニの頬を突いて抗議をしておく。
これはイジメでも暴力でもありません。ただの躾です。義妹に対しての躾なのです。
各方面に言い訳をしながら悪魔を軽く退治した。
「で、どうやらこの卑猥が今までドラゴンをパックンしていたらしいのだが、お前なら何か知っているよな?」
「ふっ……兄さま? 私がこの世の全てのトラブルに関係していると思っているその考えを悔い改めなさい!」
「なら関わっていないと?」
「……関わっているに決まっているでしょう!」
少し強めに首を絞めたら白状しました。
「言い訳を聞こうか?」
「分からないの兄さま? あっちで楽しそうなことをしていると思ったらとりあえず覗きに行くわよね? 行くでしょう?」
「場合によるな」
「ならあっちで姉さまと娼婦が乳繰り合ってたら覗くわよね?」
「無論だ」
迷う必要が何処にあろうか?
念のために事実でそんなことが起きていないか確認する意味合いで振り返ってみたが、何故かマニカが膝から崩れ落ちて額を地面に叩きつけそうな勢いで上下に動かしていた。それを見つめているノイエはいつも通りの無表情だ。何が起きているのかこっちから見ている限りは謎だ。
「つまりそう言うことよ!」
「そう言うことか」
「そう言うことよ!」
偉そうに小さい胸を張って踏ん反り返る悪魔に対し、ここをこうしてこうだっけ?
「何故にコブラツイスト~!」
完璧に決まった関節技に悪魔が泣き叫んだ。
「犯人ってばお前かっ!」
この公害発生トラブルマシーンめがっ!
「裁判長! 発言を!」
まだ何か言い訳があるのか?
「違うんです。そもそもこのヘビを呼んだのは召喚の魔女だから! この地に縛り付けたのは馬鹿弟子マーリンだから!」
「つまりお前は関係ないと?」
「……はい」
全力で顔を背けて頷いても誰も信じないぞ?
「のげ~! ポーラのポーラが溢れ出ちゃう~!」
出んわ!
「白状しろ! お前はこのヘビに何をした!」
再びのコブラツイストに悪魔が僕の腕を叩いてタップしてくる
「言うから! 全部言うから!」
「本当だな?」
「言うから~!」
最後は絶叫で悪魔が自供することとなった。
~あとがき~
大陸の各所に存在する色々な不思議に刻印さんが関係しています。
だってこの大陸は…詳しい話は本編にて。
スク水の最終形態になったアーブ君ってば負ける要素無いんだよな~。
後はタコ殴りにして終わりかな?
© 2023 甲斐八雲
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