否定が出来んぞ悪友よ

 神聖国・都の郊外



「ただいま」


 尋常ではあり得ない速度で“歩いて”来たノイエが僕の前で立ち止まる。

 一瞬彼女の周りの景色と言うか空間が歪むようにグニッと変化したのは気のせいだ。いつものことだ。


 それよりも、だ。


「ノイエ」

「はい」


 両手に持つそのあからさまにいかがわしい物体は何ですか?


 大きさとか形状とか色々とアウト過ぎます。


「そんな怪しげなオモチャを拾ってきちゃダメです。ポイしなさい」

「はい」


 僕の注意にノイエがポイっと手にしたアダルトなオモチャにしか見えないモノを投げ捨てた。


 異世界にもあんな露骨なオモチャがあったとは……犯人はお前か?


 振り返った先に居る悪魔が驚愕の表情を浮かべていた。やはりお前か?


「なんて立派な大人のオモチャ!」

「驚くところがそこなのか?」


 思わずツッコミを入れてしまったよ。確かに立派だが。


「大きさと良い、形と良い」

「ボケ倒す気か?」


 キラキラと輝く目で悪魔がこっちを見る。


「お兄さまのチ〇ーンにも負けず劣らずの」

「はい悪魔。お前の人生終わらせようか?」

「あん?」


 反抗的な態度にこっちはノイエの盾を召喚する。


「卑怯よっ!」

「知らん」


 ノイエに恐怖する悪魔が吠えた。


 ただノイエはアホ毛をフリフリさせながら辺りをキョロキョロと見ている。


 どうしたノイエよ?


「お姉ちゃんは?」

「マニカなら」


 M字スクワットの向こう側に……じゃなくて、何故かマニカは荷物を引きずってこっちに向かっていた。


 あれが着替えを求めて何処かに行って戻って来た時に抱えていた荷物だ。

 縛っていたロープのようなモノが解けかけて……ゴトッと中身が落ちた。


「果物」

「ノイエ。見てないで」


 自分を見つめて動かない妹に声をかけたマニカであったが、食べ物を前にしたノイエの食い意地の凄さを忘れていたらしい。一瞬で姉との距離を詰め、彼女から包みを回収すると中身を物色しだしていた。

 何が恐ろしいかって最初に落ちた洋ナシのような形をした果物が地面の上から消えているのだ。そして無言で頬を膨らませてもきゅもきゅしているノイエが居る訳で。


「ちゃんと拭いてから食べた?」

「もきゅ」

「なら良いです」


 次から次へと口の中に果実を放り込むノイエは余程空腹らしい。


「ヘイヘイそこのお兄様」

「今の僕はもきゅっとしているお嫁さんを愛でていて忙しいのだよ」


 お前のような悪だくみから生まれた悪魔と遊んでいる暇など無い。


「こっち見なさいよ。お姉さまの食事風景なんていつも見られるでしょうに」


 あれはあれで貴重なんだけどね。


 君にはノイエと外と果実の素晴らしさが分からないのかね? 必要であれば後でノイエの食事風景の素晴らしさを小一時間ほど語ってくれようか?


 何より良さを理解しているのであろうマニカを見ろ。あんなにうっとりとした表情を浮かべて妹を見ている様子はまさに変質者だぞ?


 大急ぎでお巡りさんを召喚しないと駄目なぐらいに。


「兄さまも大概だから」


 何おう?


「それよりもこっち見たら後でお姉さま用のセーラー服を貸してあげる」

「何かね悪魔くん」

「はやっ!」


 相手の言葉の途中で振り向いただけだが何か?


 それよりも勘違いしないで欲しいが僕は決してコスプレマニアではない。ただノイエには色々と可愛らしいコスチュームを着て欲しいとは思っている。

 思っているので機会があれば実行する。これすなわち天の理だ。


「はいはい。言い訳は良いから」


 言い訳ではない。自然の理なのだ。


「で、何よ?」


 ノイエが投げ捨てた大変立派な男性のあれを両手で持ってにぎにぎしないの。

 ポーラの姿でそれをすると大変いかがわしくなります。お巡りさん案件です。


「わ~。せんぱいのせんぱいがふとくてすっごいの~」

「これこれ悪魔くん。それ以上はアウトだぞ?」


 セーラー服姿でその発言は完全にアウトだ。興奮するであろう変態はこの世に多いが、僕の可愛い妹であるポーラをおかずにしよう者は皆殺しでも良いはずだ。


「で、そのオモチャが何だと言うのかね?」

「物凄いオモチャなの」

「そっか~」


 確かにその生々しい感じは色々と凄いな。

 悪魔がにぎにぎしているせいか先ほどからビクビクと動いて……あれ? 生きてない?


「お前とうとう生きるチ〇ーンを作り出していたのかっ!」

「誰がそんな物を作るか、馬鹿っ!」

「お前なら作りかねん」

「それこそ才能の無駄遣いでしょうに!」

「才能を無駄に消費するのがお前じゃないの?」

「まあ確かに」


 思い当たる節でもあるのか、悪魔がすんなりと認めた。認めるな?


「確かにウチの馬鹿弟子とあの姉ラブ変態娘がタッグを組めばこれぐらいのオモチャなんて」

「作るのかよ?」

「可能性としてね」


 それはそれで怖い。


「でも流石に生モノだと腐って無くなっているわよ」

「お前のその両手のモノは?」

「だから新品同様のすっごいヤツ」


 胸を張るな。何が嬉しいのか語るが良い。


「嬉しいと言うか超激レア生物よこれ?」

「そうなの?」

「ええ。貴方だって名前ぐらい聞いたことがあるでしょう?」

「ん?」


 ただのチ〇ーンじゃないの?


「これってあのツチノコよ」

「へ~」

「感動薄っ!」


 驚かれてもね。


「異世界でツチノコ言われてもさ~」

「確かに」


 僕の言いたいことを悪魔が察してくれた。




「んくんく」

「もうノイエったら~」

「んく」


 次から次へと果実を食べ続ける妹の愛らしさにマニカの興奮が止まらない。


 ただ果実を丸呑みして行く姿がこんなにも愛らしい人物がこの世にいるだろうか?


 居る。目の前に居る。


 だから興奮が止まらない。ハァハァだ。


 けれど自分は姉だ。この愛らしい存在の姉だ。そんな姉が妹の前でそう簡単に醜態を晒すことはできない。ここはグッと我慢して後で2人きりになったら昔教えることの出来なかった色々と伝授する。ここなら、今なら邪魔する者は居ない。あの憎きカミューは居ないのだ。


「ノイエ~」


 愛しい妹に抱き付きマニカはその頬にキスをする。


 パンパンに膨らんでいる頬越しに果実の硬さを感じたが気にしない。

 妹にキスできるのだから問題無い。


 大荷物になったが見つけた果実を集めて運んできた甲斐があった。

 発見時に運ぶ判断をした自分を褒め殺したい。


「ああ。もう我慢できない。本当にノイエは可愛くて」

「もきゅ」

「ノイエはお姉ちゃんのことが好き?」

「もきゅ」

「もうその言葉だけでお姉ちゃん色々と出てしまいそう」

「んく」


 もきゅもきゅしていたノイエが嚥下し、クルっとその顔を回し視線を向けて来た。


「お姉ちゃん」

「なに?」

「お願いがある」

「良いわよ」


 即答だった。


 マニカの辞書にノイエからのお願いを断るなんて言葉は載っていない。

 それがいかに自分の矜持を捻じ曲げ、ねじ伏せ、血涙を流しそうになってもだ。


 愛する者の前でマニカの矜持はゴミほどの価値に成り下がった。




「で、これがツチノコだとして何の意味が?」


 二本の指で抓んで持って観察する。


 本当に立派な男性器だ。そんな風にしか見えない。


「ん~。一応ね、それってその昔あの馬鹿魔女の1人が召喚したのよ」

「つまり君のお仲間だよね?」

「そうとも言う歴史が古代文書のどこかに埋没しているとか」

「比較的新しい教科書に載っているから」

「馬鹿なっ!」


 馬鹿はお前だ。


 拒絶なのかボケなのか分からないが、刻印の魔女とか言う三大魔女に数えられる存在する巨悪がポーズ込みで驚きを体現している。


「で、これを召喚したのは召喚の魔女でしょ?」

「ええ。たぶんね」

「「……」」


 揃って僕が持つ生々しい存在に視線を向ける。

 これが日本であれば伝説の発見だと言うことでテレビ局にでも売り込むんだけどね。


「刻んで捨てておく?」

「あ~だったら根性で魔眼の封印を解くから収納しても良い? 塵レベルになるまで刻んで色々と実験したいかも?」

「お前って奴は……こんな男性器で何の実験をする気だ? 誰が喜ぶ?」

「あの踊り子だったら『旦那くんのだ~』とか言いながら喜んで使いそうだけど?」


 否定が出来んぞ悪友よ。


「で、どうする? 収納するのか?」


 そもそも頑張らないと解けない封印って……その目玉はどうなっている?


「ん~。取り合えば三枚に下ろしてみてから考えましょうか?」


 物騒な。


「物騒な!」


 あれ? 僕の心のの声が……って、


「「はい?」」


 ほぼ同時に僕と悪魔は声を発してぶら下がっている男性器……ツチノコを見た。


「我を傷つけられるとでも思っているのかっ!」


 ブンブンと短い尻尾を震わせツチノコが、喋った?




~あとがき~


 合流したノイエはまずご飯です。そしてマニカに無理なお願いを…。


 主人公たちは全力で男性器…ツチノコの観察です。

 とりあえず三枚に下ろそうとする発想が刻印さんクオリティーだなw




© 2023 甲斐八雲

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