私の見立ては完璧だった~!
神聖国・都の郊外
「「おおうっ」」
僕と悪魔が驚きの声を上げた。
まさか……こいつは化け物か?
あっさりとM字開脚スクワットをして見せるマニカに対して驚きが止まらない。
「こんなのは筋肉じゃなくてコツよ。脚と腰の位置を間違えなければ簡単でしょう?」
上下に動くマニカの姿が凄いんだけどとにかくエロい。
「悪魔さん。あんなことを言ってますが?」
「くっ……私だって」
触発された悪魔が同じ動きを……頑張る子供の初めてのダンスレッスンかな?
「悪魔よ。ぶっちゃけ微笑ましいぞ?」
「ちが~う。私のエロスがこう溢れているでしょう!」
「エロス?」
色気の1つも感じさせないちびっこメイドのスクワットだな。
視線を巡らせれば『これが見本だ』と言いたげにマニカがゆっくりと、は~い。そこ。警告です。
「何よ?」
「スクワットをしながら指を舐めるな」
「普通でしょう?」
「あれを見ろ」
「……」
マニカを真似た悪魔が指を舐めている。
何か負けた悔しさにいじけた女の子が指を噛んで我慢しているようにしか見えない。
「同じ女性なのにどうしてこうも違うのだ?」
「衣装よっ!」
若干涙を流しつつ、悪魔がそんな寝言を言い出した。
負け惜しみもここまで来ると本気で痛々しいな。
だが周りの生温かな視線に屈せず悪魔は立った。
スクワットを止めて立ち上がりそしてエプロンの裏に手を突っ込む。
「メイド服は……私のアイデンティティーを奪われたくないから却下! チャイナは魔女のだから、」
「これこれ悪魔くん。素直に負けを認めなさい」
人は負けることで成長するのだから
だが僕の忠告などに耳を貸さない悪魔は、エプロンの裏から何やら布の袋を引き抜いた。
「これよっ!」
「どれよ?」
「着替えるまで待ってなさいっ!」
何故か怒り口調で悪魔はマニカの傍に移動すると、おいおい。変な魔法を使うなって。
僕の周りに黒い霧のような物が立ち込めて周りの様子が全く見えない。
「折角の素材が目の前に居て遊ばないのは私の矜持に反するのよ!」
あの~悪魔さん。脱線してませんか?
「黙れ! このガガンボがっ!」
知らぬ間に僕の扱いが害虫にっ!
「こんな野暮ったい服を着て! もう少し着る服に気を使いなさいよね」
「拾い物だし」
「それでもよ!」
ゴソゴソと衣擦れの音だけが聞こえて来る。
周りは完全に黒一色の世界だし……ところであの変態たちは無事なのだろうか?
すっかり忘れていたな。まああの手の類の変態は簡単に死なないのが相場だしな。
「ヘイお待ち」
「ん~」
元気の良い悪魔の声が響き、僕の周りに存在していた黒い霧が晴れて行く。
ゆっくりと明るくなる視界の先にそれが居た。
ミニスカートの存在に違和感を覚えているらしいマニカが裾を軽く下へ引いている。外て何より一緒に着替えたのであろう悪魔が膝から崩れて地面を叩いていた。
「私の見立ては完璧だった~!」
「……泣くなよ」
「完敗なのよ~!」
知ってる。見て理解している。
ミニスカセーラー服のマニカの破壊力は半端ない。実年齢を鑑みても完成度が高すぎる。
卒業間近の先輩が『最後だから』と言って挑戦し過ぎたような……とにかく生足がエロい。
「そこのお子様がパーティーでコスプレした感じにしか見えない悪魔よ!」
「的確なコメントに涙が溢れて止まらない!」
若干血が混じりそうな勢いで悪魔が泣いている。だがこれが現実だ。受け止めろ。
「マニカの靴がサンダルなのは却下だ! 黒のローファーを求む!」
「合点でさっ!」
自身のミニスカに手を突っ込んで悪魔が黒い革靴を取り出す。
流石だよ。流石だ悪魔よ。それでこそ我が同志だ。
「生足ローファーって神だよな」
「ん~。私としてはニーソの方が」
「「あん?」」
だが意見とは違えるモノらしい。
マニカがチラチラと下着を見せながらサンダルを脱いでローファーを履き替えたところで我々の仲が決裂した。
「あり得んだろう? 生足は最強だ。至高だとも!」
「はんっ! そんなの夢見がちな野郎の幻影よ! 綺麗な生足を維持するのに女性がどれ程の苦労を強いられるか知らないでしょう! だからここは黒のニーソを」
「却下だ却下」
「つまりそれは」
「「戦争だ!」」
短い同盟はあっさりと解消し、僕は昨日の友であった悪魔と取っ組み合いの喧嘩を始めた。
だが仕方ない。生足は大切なのである。
『蛇さん。あの人がアルグ様』
遠くて全く見えんが……1つ聞くぞ娘よ。
『はい』
あの薄っすらと遥か遠くに見える、少女のような人物を相手に取っ組み合いの喧嘩をしている男性がお前の夫なのか?
『今日も元気』
元気で片付けて良いのか?
『いつものこと』
いつもか。そうか……いつもなのだな。呆れてしまうと言うか何と言うか。
このとんでもない娘の夫だけあって普通の人間では無いのだろうな。
何より喧嘩をしている2人の傍に居る娘からも何とも言えない危険な臭いがする。そして取っ組み合いの喧嘩をしている少女なんて恐ろしい気配がプンプンだ。自然と尻の穴がキュッと絞まる。
娘よ。
『はい』
あの男が本当にお主の夫なのか?
『はい』
若干動かしていた足を速め娘は夫のいる方へと向かう。
普通の人間では考えられない速度であるが、この娘なら不可能が無さそうな気がする。
ただあれがこの娘の夫だと言うのか?
のう娘よ。
『はい』
我は知らぬ間に
『知らない』
で、あるか。
違うと言うのであれば、あれは何だと言うのだ? あの男の後ろに居る存在は?
『色々と教えてくれる人』
人か。確かに人ではあるな。人ではあるのだが……あれを人として括っても良いのか?
『優しい人』
娘の言葉を疑う訳では無いのだがな。だがあれは間違いなく人ではないであろう?
『違うの?』
ああ。我が知りうる存在であるのなら、あれは人であって人ならざるモノ。
その存在を
都の正門付近
「アーブさ~んっ!」
ズキズキと全身に痛みが走るけれどそれを我慢し歯を食いしばって私は走ります。
女の子の手を引いて……おニクさん。貴方のその暢気に木の実を袋から取り出して頬張る姿を見ていると軽く殺意を覚えるのですが? あとでリスの美味しい調理法を研究してノイエ様にご披露しても良いでしょうか?
一時の怒りも飲み込み私は急いで濛々と土埃が立ちこめている場所へと向かいます。
アーブさんが居た場所は軽く地面が抉られ窪みになっていました。
一瞬滑り降りることも考えましたが、私の運動神経では降りたが最後、無事に戻ってこられる保証がありません。
ここはグッと我慢して、女の子の頭上に居るおニクさんの尻尾を掴みます。
「おニクさん」
「……」
他人にお願いごとをする時は笑顔で告げることが大切です。
少しでも相手の緊張を取り除くべきなのです。
「様子を見に行ってきてください」
あとは問答無用で投げ込みました。
反論を与えてはいけません。時間とは有限なので。
放物線を描いて飛んで行ったおニクさんが立ちこめる土埃の向こう側へと姿を消しました。
流石私の仲間です。友です。貴方のその勇敢な姿は決して忘れません。
何故か逃げ出そうとしている女の子の肩に手を置き、私は土煙が治まるのを待ちます。
しばらく待っていると土煙が薄くなり、窪みの底が姿を現しました。
その中心には二本足で確りと立つアーブさんと、彼の頭の上に立ち私の方に両手を振るい文句を言いたげなおニクさんが居ました。
何故彼は怒っているのでしょうか? 女王のために勇敢な行いをしたことを誇るべきです。そして貴女もどうして逃げようとしているのですか?
私は怖くないので傍に居なさい。
再度逃走を企てた女の子もその行為を諦め……私はそんな彼女の両目を静かに己の両手で隠します。あれはまだ幼い子供が見てはいけないものです。
と言うかあれは……人が見ても良いのでしょうか?
私は平気です。大切な私の騎士を見ているだけです。決して邪な感情など微塵も抱いていません。ええ本当です。
……ハァハァ
~あとがき~
マニカをコスプレさせて刻印さんが絶望のどん底へ…w
ノイエたちは次回合流かな? で、主人公の後ろには何か居るらしいです。その正体は次回かな?
そしてアーブさんが大変なことにっ!
© 2023 甲斐八雲
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