蛇さんを美味しく食べる方法

 神聖国・都の郊外



「ん?」


 馬鹿な悪魔とM字開脚スクワットの可能性についての話し合いをしていたら、こっちにやってくる存在に気づいた。マニカだ。


「水も着替えもない不便な所ね」


 何処かで拝借して来たのであろう女性物の服に着替え、これまたどこかで回収したのであろう水を使って体を綺麗にしてきたっぽい。


 コイツは出来るだけ近くに居て欲しくないのだがな。


 抱えて来た荷物を置いてマニカがまた僕を睨んで来る。美人に睨まれるのは悪くない。ただコイツは性格が色々と腹立たしくなるので願い下げだが。


「で、何をしているのかしら?」

「……可能性の追求かな」


 あくまで可能性の追求だ。


 悪魔が両足をプルプルと震わせながらM字開脚状態から立ち上がろうとしているが無理っぽい。否、きっとポーラならできる。あの子なら出来るのだ。だが兄として妹にそんな無様はさせられないので悪魔で我慢する。


「同じだからっ! この体はあの子の物だからっ!」

「シャラップ!」

「何故叱られる!」


 プルプルと足を震わせ悪魔が背中から地面へと倒れ込む。


 捲くり上がったスカートの奥に見える白い下着は……普通そんな風に倒れてそこまでスカートが捲れ上がったりしないよね?


「ポーラならできる。あの子は天才だから」

「まあ確かに出来そうだけどね」


 地面の上に座った悪魔が汚れた背中をパンパンと叩く。


「ただ私ってばこの手のあれって苦手なのよ」

「何が?」

「魔力操作」


 ん?


「何故、M字開脚に魔力の話が出て来る?」

「あん? アンタ、ただの馬鹿?」

「否。断じて否だけど」


 器用に体を捻って背中の汚れを確認した悪魔がひょいと立ち上がる。


「この子は基本的に天才なのよ。才能だけなら赤毛のペチャパイには……劣るわね。あれはチートだから」

「お前もだろうが?」

「あん? 私は努力型よ」


 胸を張って自称努力型の三大魔女が寝言を言っている。

 君が努力型だと言うのなら、この世の少年少女たちは努力次第で全員が夢を叶えていることだろう。


「私の場合は……まあ良いけど。この子は基本常に自分の体に魔力を循環させることで身体強化をしているのよ。少ない魔力を効率的にね」

「えっと強化系の魔法?」

「とは別よ」


 チチチと悪魔が指を振る。


「強化魔法はあくまで外に対しての事象。身体強化は一握りの魔力と才能を持った人間が行える事象よ」

「ふ~ん」

「最もな例で言えばお姉さま」


 納得した。


「まあお姉さまの場合は有り余る魔力を全力で垂れ流す結果、循環とか無視して身体強化されまくっている状態だけどね」


 エプロンの裏から椅子を取り出し悪魔がそれに腰かける。

 って、何でお前だけ座っているのかを問いたい。


「両足がピンチだからよ」


 納得した。


 M字の疲労で両足がピンチらしい悪魔はスカートの上か太ももを摩る。


「お姉さま以外でもある程度の量の魔力と才能が有れば身体強化は出来るわね。瞳の中の姉たちとか大半がそれね。あの宝塚の強さとか異常でしょ?」

「言われると」


 確かに姐さんは日々の努力を怠らない凄い人らしいが、それでも意外と細身のマッチョである。オーガさんとかを凌駕しそうな膂力とか普通に考えればあり得ない。


「あの赤毛のホライゾンだっていざとなれば結構な体力を見せるでしょ?」

「そう?」


 先生は基本ひ弱ですよ。


「あん?」


 だが悪魔が文句ありそうな表情でこっちを睨んで来た。


「アンタを相手に一晩中、乳繰り合っている人間が『普通』とかあり得ないの」


 新事実!


「いやいや普通でしょう?」

「……」


 狼狽する僕に悪魔は静かに視線を動かす。

 しゃがんで僕たちの話を聞いていたマニカにその目を向けた。


「ねえ娼婦? 貴女を相手に一晩中盛った男って今までに何人居た?」

「数えるくらいね」


 ちょっと待て? そこでしゃがんでいるの伝説の娼婦だぞ? マニカのテクが凄すぎて一般的な野郎なんてあっという間に果ててしまうだろう?


「果てたとしても体力が無ければ復活できないでしょう? まあ元々体力馬鹿も居るけど、どこぞのお兄さまみたいに魔力の供給を受けて絶倫化している特殊な例もあるけどね」

「はい?」


 特殊な例? 魔力の供給?


 首を傾げる僕に悪魔がいやらしい笑みを浮かべる。


「知らないでしょ? 実は姉さまったら兄さまとの間に魔力回路を繋いでいるのよ」

「はい?」


 魔力回路とは?


「姉さまから一方的に兄さまに対して魔力を送りつけることができる特殊な回路。魔力のバイパスね。それにより兄さまは一時的に姉さまほどではないけど強化されるのよ」


 何故か悪魔がじっくりと僕の股間を見つめて来る。


「一部限定だけど」


 ノイエさ~んっ!


「誰の入れ知恵だっ!」


 僕のお嫁さんがそんなことをする訳がありません。

 絶対に誰かが、むしろ後ろで糸を引いたであろう存在はお前だろうっ!


「失敬な。私の場合、正々堂々とやるわ! 改造すら施すわ! なんちゃらクリニックも真っ青な魔改造よ!」

「無い胸張ってとんでもない発言をするなっ!」


 ならば誰だ。誰がノイエにそんな回路をっ!


 慌てる僕に対し悪魔が苦笑気味に笑う。


「本当にアンタってば愛されているわよね。姉さまに感謝なさい」


 絶倫化を感謝って色々と間違っていませんかっ!




「蛇さん」


 娘よ。お前は基本喋るな。


『どうして?』


 会話の方が時間がかかるのだ。


『むう』


 拗ねられても事実だしな。だからってグニグニと我の体を揉むでない。


『こうすると硬くなる』


 我は蛇だからね? 何度も言ってるけど蛇だからね? 色々あり過ぎてあれしてるけど神の領域に到達している蛇だからね?


『アルグ様が言ってた。神は居ないって。紙はトイレに流す物って』


 全部の紙をトイレに流さないで~。詰まる原因だからね?


『私の髪は凄く奇麗だから大好きだって』


 まさかののろけを挟んで来るとは。


『綺麗だから汚す時の背徳感がたまらなく興奮するって』


 お前の夫は絶対に変態だろう? 普通自分の嫁にそんな爆弾発言をするか?


『口には出さない。蛇さんみたいに思っているだけ?』


 疑問形を疑問形で返すな。

 お主は本当に何と言うか優れた力を無駄遣いしている特殊な存在であるな。


『優れてない。私はいっぱい壊れているから』


 その程度お主の力を前にすれば些末なモノだ。


『お粗末なモノは嫌。アイお姉ちゃんが喜ばない』


 何の話?


『蛇さんぐらい立派じゃないとお姉ちゃんたちは満足しない』


 お主の姉たちは全員痴女か何かか?


『結構普通。ただファの中に入るのが不思議』


 良く分からんな。


『蛇さんが小さな女の子の、』


 絶対にその言葉を続けさせるなと古き友人からの何かを受信した! 語るな娘よ!


『むう』


 ま、まあ女性は赤子の頭程度なら……我は何の話をしていたのだ?


『蛇さんを美味しく食べる方法』


 食うなって! 何より絶対そんな話とかしていなかった!


『お腹空いた』


 本音はそれか。

 この荒涼とした土地では植物など満足に育たないだろうな。


『はい。土が死んでる』


 ほう。見えるのか娘よ?


『見える。死んでいるモノは良く見える』


 それは難儀な体質であるな。


『アルグ様の後ろの人が言う。私は見えすぎるって』


 確かにな。それだけ見えると言うことは聞こえもするのか?


『はい。一番よく聞こえるのは後ろに居るユーのハァハァとした声』


 気のせいで無かったのだな。時折聞こえて来ていた声は……お主はそれで良いのか?


『良い。大好きなお姉ちゃんだから傍に居てくれて嬉しい』


 おおう。お前って本当に器と言うか何かがとんでもなくデカいな。我もビックリだ。


『ただハァハァと言いながら抱き着いて来るのは止めて欲しい』


 なに?


『太ももの付け根とか触って来て歩きにくい』


 現在進行形でお前の姉は何をしているのかとっ!


『下着の上から、』


 だから言わせんってば!


『むう』


 普通拗ねるか?


『蛇さんが、私とユーの仲の良さに嫉妬している』


 絶対に違うのだがな。


「蛇さん」


 だから口を開くなと言っておろうが。


「アルグ様が見えてきた」




~あとがき~


 主人公へのお嫁さんからの魔力回路は一部分だけの限定じゃないのでw

 とある魔法の都合、主人公があれ~になってます。

 本当にノイエって旦那さんラブなのです。


 そしてノイエと蛇さんが主人公たちに合流か?



 少しずつ薬との付き合い方が分かって来たような?

 これから頑張って…えっ? 薬の種類、変わるんですか?




© 2023 甲斐八雲

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