証拠隠滅するってわけか?
神聖国・都の郊外
よ~し。ちょっと待て。そして今からの問いに素直に答えろ。
「何よ?」
エプロンの裏から2mほどのパイプを引き抜いている人物が手を止めた。
「そのパイプは何処に埋まっていた?」
「……いやん。お兄さまの嫉妬の視線が」
何故両手でパイプを前後に動かす? その角度だと色々とあれだぞ? ただの拷問だぞ?
「で、そのパイプは何だ?」
「ん~」
ズリズリと引き抜いてその全貌が露わになる。
何処かで見たことのあるシルエットだ。洋画の類で見かけるロケットランチャーで正解か? バズーカとかとも呼ばれる類のあれですよね?
「使い捨てのロケットランチャーで正解ね」
「ほほう。で?」
「つまり」
肩に背負った悪魔がロケットランチャーを発射した。
白い煙を尻尾のように伸ばし……スルスルと飛んでいくあれは何処へ?
「都よ」
「とうとう都の破壊をっ!」
「違うわっ!」
プンスコ怒りながら悪魔はロケットを吐き出した筒を投げ捨てる。
地面に触れるやガラスのように割れて土へと還った。
無駄に芸の細かい奴め。
「ならあのロケットは?」
「ん~」
腰をクネクネと振りながら悪魔が踊る。
「今回の私は基本観客なのよ」
「はぁ?」
お前は何を言っている?
「ガッツリ舞台上で演じている役者の1人だろう?」
「なのよね~」
認めたよ。
「最近自分の意志の弱さに驚愕しているの」
「お前の発言に驚愕している俺が居るが?」
「気のせいよ」
気のせいとは思えんが?
「せめてアンタたちへの手伝いはこれから手を抜くとしても、あの都に向かった人たちの手伝いぐらいはしても良いと思うのよね」
「その心は?」
「……自分の黒歴史って証拠隠滅する必要があると思うのよね」
本音はそれか。
「で、あのロケットで都ごと爆破して証拠隠滅するってわけか?」
「違うわよ!」
どう見ても破壊による証拠隠滅だよな。
「あれは急いで作ったとある魔道具の解放キーよ」
「キー?」
つまり鍵ですと?
「そう鍵よ。あれを食らえばあの魔道具は完全状態なる」
「ふ~ん」
なるほどね。
「で、その代償は?」
「……」
「黙秘は許しません」
「……」
ジトっとした目で睨んできた悪魔がため息を吐く。
「リミット解除だからその性能は100%で発揮できる。代償としては数分後に自壊が始まることぐらいかしら?」
「本気で証拠隠滅だな」
「仕方ないのよ」
何故かスッと背筋を伸ばし、悪魔は視線を地面へと向けた。
「あんな恐ろしいモノは消えてなくなってしまえば良いのよ……」
囁くように言い放ち悪魔は静かに目を閉じた。
「でも作ったのはお前だろう?」
「それは言わない約束よ」
お約束って……あっ綺麗なキノコ雲が。
「本当にあの子は自由で良いわよね」
「自由すぎて困っているような気がするけど」
「なぁ~」
遠くに居る猫が甘えるような声を出し戻って来た。
好奇心で突き動き、先ほどから落ち着きがない。
現在行われている作業が珍しいのだろう。それもそのはずだ。主導しているリグですら初めて行っている。
「この液体の正体は?」
「人工的に作り出した羊水よ」
「胎児と同じ条件ってこと?」
「ええ。ただこの液体には酸素が含まれているから、へその緒は必要としないけど」
「そうなんだ」
フラスコの中から引きずり出した人物の状態を手探りで確認する。
母体は大丈夫だ。
感じとしては寝ているだけで何処もおかしな点は無い。触診の限りでは正常だ。
「問題は子供の方だね。確認のしようがない」
「貴女の師匠だったら調べられるのにね」
「女性のお腹に手を突っ込むのは賛成できないけど」
「でも確実でしょう?」
フード姿の人物は笑いながらもフラスコ内の清掃をし新しい羊水の準備を始めた。
フラスコの隣に台を設置し、液体を満たした透明のタンクを設置する。
本当に手慣れたものだ。これで専門では無いのだと言うのだから。
「なぁ。なぁ」
「ダメだよファシー。お腹を叩かない」
「な~」
母親代わりの人物であるセシリーンのお腹を楽し気にポンポンする猫は本当に嬉しそうだ。
その様子は攻撃には見えない。早く産まれて来いと……。
「と言うかファシー?」
「なあ?」
「自分が『お姉ちゃんとしてこの子の面倒を見る』とか考えてない?」
「な?」
首を傾げて何かを誤魔化そうとしている猫の様子からして、リグは自分の質問が正解だったと理解した。
「ファシー」
だから優しく。本当に優しく……相手の肩に手を置いた。
「自分の年齢を考えようね? お姉ちゃんって年齢じゃないから」
「にゃっ!」
「むしろ私よりも年上だし」
「シャ~」
現実を突きつけられた猫が怒って威嚇して来る。
「まあセシリーンの代わりに子育てするのは悪いことじゃないと思うけど」
触診は終えた。自分が判断できる限り母子ともに健康なはずだ。
「出来れば自分で産んで育てた方が……どうしてそんなに驚愕する?」
はっきり見て分かるほど驚いている猫がいた。
驚愕の余りに普段見せない表情を浮かべ、何よりその瞳を覗かせている。
「まさか一度も考えていなかったと?」
「にゃ、にゃあ~」
何かを誤魔化すように視線を巡らせ、何故か猫は別のフラスコへと突撃して行った。
ペシペシとフラスコを叩き何かを誤魔化しているように見えるが。
「アイルのフラスコを叩く意味は?」
「なぁ~」
静かな指摘に耐えられなくなって猫はまた別の獲物を求めて……奥のフラスコへと突撃して行った。
「ふなぁ~!」
そして悲鳴が響き渡る。
彼女が向かった奥に置かれているフラスコは……全力で逃げてきた猫は母親代わりの歌姫の胸に抱き付いて頬を擦り付けだした。
全力で甘えて居る。甘えて何かを忘れようとている。
「別に男性のあれなんて彼のを見ているだろうに」
「ふにゃにゃにゃにゃにゃ~!」
「はいはい。彼とは別だね」
何となく猫の言葉を理解し、リグは猫の尻尾を掴んで母親……歌姫から引き剥がす。
抵抗著しい猫ではあるが、セシリーンに傷をつけることに抵抗があるのか、思いの外素直に離れた。
「わざわざ隔離しておいたのにそれを見に行くとはエロい猫ね」
「なぁ~!」
『異議あり!』と言いたげに尻尾を逆撫で猫が憤怒する。
それを軽く笑って受け流す刻印の魔女は……突進して来た猫をひらりと回避して、その顔に何やら魔道具らしいガラス板を押し付けた。
「見るが良い! 私が集めた男性のあれだけを映し出す至極の映像集を!」
「ふにゃあ~!」
断末魔のような声を上げ、猫が床の上で仰け反り苦しむ。
「……」
余りの光景に流石のリグも何も言えずに居た。
「ふっ……かまとと振りおって」
「魔女」
「何かな? そこの超乳?」
「胸が大きいのは生まれつき」
実は後天的な理由で胸が大きくなったリグだが、当の本人はそれを知らない。
知らないからこそ周りから反感を買うのだが。
「どうしてあんな映像?を集めたのか聞いても良い?」
「決まっているでしょ? 趣味よ」
「そっか」
納得だ。
「やっぱり魔女ってどの魔女もそんな感じなんだね」
「よ~しそこの超乳。今の言葉は戦争だから」
「事実だと思う。みんな同じ」
「違うから。圧倒的に、絶対的に違うから」
「どこが違うの?」
「それはあれよ……カラーリングよ!」
言ってポーズまで決めた魔女だが、その手のリアクションはリグには通じない。
何とも言えない香しい時間が流れ、ポロポロと涙をこぼしながら魔女は膝を抱いて壁際に座り込んだ。
「ツッコミ量産化計画を支持したい」
不思議な言葉を呟きながら壁を友だちにした魔女は……リグは早々に見切りをつけて作業に戻った。
歌姫をフラスコの中へと戻し、
「羊水は?」
「……そっちのノズルを開けば出るわ」
「これかな?」
透明なタンクに付いているそれらしいモノを見つけ、リグは捻ってみる。
ドボドボと鉄のような筒から液体が噴き出し……たぶん羊水だ。
「このままだと液体が、ああ。凄い」
フラスコは半ばから開いていたが、羊水がゆっくりと溜まるにつれて開いていた部分が塞がって行く。
「そうか。こうして上へと水が溜まってて行くと」
感心しながら見つめるリグはフラスコの凄さを理解した。
ゆっくりと足元から溜まって行く液体に押され、空気が外へと出て行くのだ。
最期は天辺部分に小さな穴を作り、そこから羊水がしばらく溢れてから口を閉じた。
「さて。セシリーンの無事も確認したし」
チラリと視線を巡らせば、悶絶する猫と壁を友にする魔女が居る。
居るが……そこはリグだ。これぐらいでは動じない。
あっさりと2人を無視して歩き出すと、部屋の隅に置かれている平石の上に乗った。
「寝よ」
それがリグだ。
~あとがき~
昨日は投稿できずに申し訳ないです。
『最近体調悪いな~』と思い病院に行って検査を受けたら、検査が終わる前に緊急入院が確定してました。救急車に乗らず自力で病院に来た重体患者のような状態だったとか。
投薬などで危ない水準を脱し無事に退院しましたが、しばらく通院が義務化されました。
サボるとかなりヤバいそうなのでしばらくおとなしく通います。
そんなこともあって仕事しながらの通院生活となるのでしばらく投稿が不定期になります。
本当に申し訳ないです
© 2023 甲斐八雲
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