悪魔の心髄ここに極まれりだな
『蛇さん。どう?』
そうだ。そんな感じで裏側を優しく……我は何をしているのだろな? 人の娘よ?
『頑張れ』
頑張った結果が今なのだが。
自身の尊厳を捨ててだな、
『ここは?』
うむ。きっと喜ぶであろう。
『分かった』
軽い足取りでスキップする娘の手に弄ばれつつも、我は悟りを得ていた。
この娘……絶対に敵に回しちゃダメな部類の人間だ。あれだよあれ。我に酒を飲ませて殺しに来たヤマトタケルノミコト並みに危ない存在だ。
しいて言えば神の力を得ていると言うべきか?
もうね。この娘の中に数多の恐ろしい力を感じるのだ。
特に危ない感じの気配が一つある。
我がこの地に呼ばれた時に感じた気配にそっくりだ。
たぶん子孫か何かなのかもしれない。絶対に危ない存在だ。
『蛇さん』
何だ?
『まだ近くにドラゴン居る?』
居らんぞ。大半はお前があの地面の裂け目に蹴り落としたしな。
『ん』
遠くに数体気配はするがあっちまで行く必要もあるまい。
何よりこの娘、ドラゴンなる存在を全て蹴り飛ばしてあの地面の裂け目に叩き落とした。
我が住んでいた場所に遠慮なくだ。
『今では汚物入れ』
汚物って言うなって!
ゴホン……溶けはしたがこのツチノコ様のご神体であるぞ?
世が世であれば、場所が場所であれば神聖なモノとして崇められ祭られてもおかしくない、
『蛇さんから出たドロドロのヤツが?』
お前はどうしてそう卑猥な表現に持って行こうとする?
『慌てるアルグ様を見るのが好き』
だいぶ屈折している愛情表現であるな?
『違う』
何がだ?
『私が笑えないからアルグ様が代わりに笑ってくれる』
……。
『泣けないから。怒れないから。悲しめないから』
うむ。
『だからアルグ様が代わりに全てしてくれる』
そうか。
『それを見ているのは好き』
そうだな。
『見ていると胸の奥がとっても暖かくなる』
ほう。それはそれは。
『蛇さん。暖かくなる理由を知ってるの?』
知っているとも。これでも我は幾星霜を過ごし生きてきた存在であるからな。
『教えて』
ええい。教えてやる。教えてやるから前後に激しく動かすなっ!
『早く出して』
言葉だよね? 言葉のことを言っているんだよな?
『……』
ここでの黙秘は本当に恐ろしいんだが?
まあ良い。それはお前が嬉しく思っているということだ。
『嬉しい? でも私は笑えない』
それが何だと言うのだ?
『嬉しかったら笑うもの』
それは違うぞ。人の娘よ。
『違う?』
ああ違うとも。お前は先ほどから“笑えない”と言っているが、それが何だと言うのだ?
『……』
お前が求めているのはただの表情だ。表情とは表現でしかない。お前も犬と言う生き物を知っているだろう?
『はい。アルグ様が良くさせて来る』
ちょっと待て? しているのか?
『はい。アイお姉ちゃんと一緒にさせられる』
お前の姉ごと? お前の旦那は本当にどんな人物だ? 大丈夫か? その性癖は?
『アイお姉ちゃんは大喜び』
おおう。その姉も凄いな。
『ただ“うれション”って言うのをしてから犬になりたがらない』
うれションが何かは知らんがきっとお前の旦那が姉を怒らせたのだろう。
否、姉が現実に戻っただけだ。それは良いことだぞ?
『それはつまらない』
娘?
『一緒に犬をするのは楽しい』
お前の性癖も大概だなっ!
『今度は私も頑張っておしっこを、』
突然全てを悟った気がするから皆まで言うな!
『お姉ちゃんのようにクンクンと鳴きながら、チョロチョロと』
言うなって言ったよね? 我の言葉をちゃんと聞こうか?
『はい』
うむ。なら話を戻してだな……何の話をしていたか?
『蛇さん忘れッポイ』
お前にだけは言われたくないがな。
『うれションについて』
絶対に違うから! それは断言できるから!
『むう』
思い出したぞ。人の娘よ。
『教えて』
犬などは表情を変えんであろう?
だが行動や尻尾で自分の気持ちを相手に発する。伝えようとする。
『尻尾?』
そうだ。だからお前も尻尾とは言わない。自分の気持ちを身振りや手ぶり、何より人が持つ素晴らしいモノである“声”つまり言葉で伝えれば良いのだ。
『……』
分かったか? 人の娘よ。
『蛇さん』
何だ?
『それ、普段からしてる』
……。
『蛇さん。もっと頑張れ』
我、慰められた~!
神聖国・都の郊外
「そっち! もっと素早くタイピングして! 弾幕薄いよ!」
弾幕など張っていない。何より、
「僕はブラインドタッチとは無縁な人生を、」
「つべこべ言わずに打つの!」
何て人使いの荒い悪魔であろうか?
木の板で作られた簡易的なキーボードを叩いて画面に文字を打ち続ける。
ウチの学校って図書室に数台パソコンがあるだけで授業もそれを囲んで適当にする感じだったんだよな~。ぶっちゃけ先生に見つからずどれだけエロい画像を見つけるか競争になって、女子にチクられて叱られるってパターンばかりだった気がするけど。
「悪魔よ大変だ」
「何よ?」
「僕の両足が悲鳴を上げている」
その理由は簡単だ。ずっと正座をしていれば足も痺れる。
ただ僕の言葉に両手をエプロンの裏に入れてゴソゴソと続けていた悪魔が呆れた表情を浮かべた。
「反省中でしょう? 猿がっ!」
「ぐふっ」
猿ではない。猿ではないぞ!
「うっさいロリコンがっ!」
「ロリコンではない!」
「あん? 幼くなったお姉さまにあんなことをした男が何を?」
ぐふっ!
何故か僕が過去を思い出したら同時のタイミングで悪魔もそれを思い出した。
とある魔道具の壺でノイエが幼くなった時のことをだ。あれはあれで大変良かった。
「ノイエは幼くても大人であっても僕のお嫁さんである! お嫁さんを愛でて何が悪いかと!」
「これだからロリコンはっ!」
「違う。僕はサムライである!」
「あん? どんな寝言を?」
まあ聞くが良い悪魔よ。
「その昔加賀藩の祖である前田利家さんは正妻であるお松さんを抱いて妊娠させました」
「まあ夫婦だしおかしくないんじゃないの?」
この悪魔……実は歴史に弱いな?
「その時お松さんは10歳だったとも言います」
「……」
目を剥いて悪魔が驚愕している。
驚いただろう? 利家さんは従妹だった10歳も年下の松さん(数えで10歳)を孕ませたのです。
ただその仲は大変良かったようで、最終的に2男9女の子だくさんだったとか。
「つまり僕も頑張れば100万石の大名を目指せると言うことだ」
「それは……知らなかったわ」
エプロンの裏に手を入れゴソゴソしながら悪魔が膝から崩れ落ちた。
「私が知っている利家は、信長とあっちの関係ってだけで」
そうなの?
「どっちが攻めでどっちが受けか……世間的には信長が攻めだと言われているけど、でも私は利家攻めを夢見ていたのよ~!」
「おまわりさ~ん。ここに変態が居ま~す」
「変態ちゃうわっ!」
落ち居て自分の姿を見ると良いぞ?
「今の君は股に両手を押し込んで座り込んでいる変態にしか見えないぞ? それも口走っているのは男対男のダメトーク」
「……ぐふっ」
どうやら現状を理解したらしい悪魔が血を吹いた。
ただ日本の歴史って紐解くと……色々とカオスだよな。
「源氏物語とかって今の世だと下手したら発表不可な作品だよな」
「ま~ね。と言うかR18よね。放送するなら深夜枠よ」
「放送できないだろう?」
少女を自分好みの女性に育てて行く話だなんて絶対に放送できないはずだ。
「分からないわよ? ギリギリを攻める深夜アニメブームが来たりするかもしれない」
「あ~。関東の方だと深夜アニメとかが大激戦だとか言ってたな~」
「その話、詳しく」
聞く必要あるの?
「私がこっちの世界に来ている隙に、日本ではそんなブームが?」
「うん。投稿系の素人小説がアニメ化されたりしてたな~。ウチの地方だと見れなかったけど」
テレビが2チャンネルしかなかったのだ。仕方がない。
「……何故だろう? 今ならそれを理由に日本に帰りたくなって来たわ」
「お前って本当に根っこからのオタクなんだな」
悪魔の心髄ここに極まれりだな。
~あとがき~
ノイエは普段から自分の気持ちをアホ毛で…自覚あったのノイエさん?
比較的真面目な蛇さんはノイエの脱線にグッタリです。
主人公たちは完全に遊んでますね。
こいつ等は…真面目にやれと言いたい
© 2023 甲斐八雲
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