お兄さまにクイズです

 駄目だ。駄目だぞ。人の娘よ。


 その持ち方は色々と駄目だ!


『どうして? こうしてこうするとアルグ様が喜ぶ』


 だから違うと言っておろう! 我は男性のあれでは、


『ここを握って掌で』


 おおう。それは……だから違うと言っておろう!


『この部分を激しく動かすと喜んでくれる』


 それは駄目~! 絶対に喜んでいないからっ! 苦しいはずだからっ!


『アルグ様は蛇さんと違って我慢の出来る人』


 だからどうして我慢させるっ!


『開放感が喜びに変わる?』


 誰の教えだっ!


『綺麗なお姉ちゃん』


 綺麗だったら何をしても良いと言う訳ではないんだぞっ!


『アルグ様は許してくれる』


 もう好きにしろ! だからそこを絞めて何を考えているっ!


『練習』


 我にするなっ!


『感想は大切』


 練習台にするなっ!


『アルグ様は喜んでくれる』


 それはお前の勝手な感想であろうっ!


『むう。蛇さんは我が儘』


 お前にだけは言われたくないわっ!


『むう』


 拗ねた人の娘が……あの~? その持ち方は?


『練習させてくれないなら持ちたくない』


 だからって二本指で抓むのは、汚物を持つ感じがしてだな?


『アルグ様以外のモノは持ちたくない』


 だから我は蛇だからっ! お前も何度もそう言っているだろう!


『煩い汚物』


 言ったよ! 遂に言ったよ! この我を、ヤマタノオロチと呼ばれるほどにまで神気を得たこの我をっ!


『昔は凄くても今は汚物』


 うわ~ん。この娘が容赦なさすぎる~!


『何より今の蛇さんはただの蛇さん。アルグ様のあれに負けない大きさの、』


 だから我は男性のあれで無いと言っておろう!


『なら何?』


 だから覚えよ! 我はツチノコと言う!


『つちのこ?』


 そうだと何度も言っておろう!



 もう誰か助けて……この娘には本当に言葉が通じない。




 神聖国・都の郊外



「ピピっとあっちから私の感性を刺激する新情報がっ!」


 またか?


 あらぬ方向に顔を向けた悪魔の頭を掴んでこっちに向け直す。


 グリグリっと鈍い音が響いたが、最近柔軟体操をサボっていたな? レニーラに怒られるぞ?


「なぁ~! ペットボトルの蓋の様に私の頭が取れちゃうっ!」

「取れんわ。つか硬すぎるだろう? 柔軟体操をしておかないとレニーラに怒られるぞ?」

「はんっ! あんな拷問……ポーラのポーラが裂けちゃうわ」

「裂けんわ」

「初めては兄さまと」


 もう少し回してみるか。


「取れちゃう~! ポーラのポーラが取れていっぱい溢れちゃう~!」


 頭が取れたら何が溢れると?


 ああ。血液か。それは大惨事なのでこれ以上頭を回すのは許してやろう。


 全身を捻り360度ほど体を回している悪魔から手を放す。プルンっと回って元に戻った。


「ただお前って時折異様なほど軟体生物になるよな?」

「ふっ! 私はネタとギャグのためになら全力で体を張るっ!」

「つまり魔法を使ってもってことか? お前のその飽くなきお笑い道には脱帽するよ」

「褒めよ! もっと我を讃えよ!」


 踏ん反り返る馬鹿に呆れつつも視線を動かす。


 三脚で高さ調整している魔道具の画面では、変態女王が頬を引き攣らせてこっちを見ていた。


「どうした変態?」


『いいえ。こっちで醜いことが……大丈夫です。私の精神はこれぐらいでは挫けません』


 何があったか知らんが向こうは向こうで大変なのだろう。


「それで変態。そっちは勝てそうか?」


『どうでしょうか? あのカマキリがどれほど強いのか分からなくて』


「あん? そんなの気合だろう?」


『気合って……アルグスタ様ならあのカマキリの強さをひと目見て分かったりしませんか?』


 どんなファンタジーよ?


「そんなもん分かるか、馬鹿」


『だから女王ですから~!』


「現時点では元女王だろうがっ! 過去の人なんだよ!」


『はっきりと的確に私の一番痛い所をっ!』


 気にするな。僕はただ事実を告げているだけだ。


「お~い悪魔」

「へい」


 異様なポーズを決めた悪魔が僕の声に反応した。


「あのカマキリって強いの?」

「姉さまなら楽勝って言ったわよね?」

「なら雑魚か。お~い。変態」


『もう良いです。それで良いです』


 シクシクと泣く変態がようやく自分の全てと現実を受け入れたらしい。


「雑魚っぽいから攻撃してしまえ」


『本当ですか?』


「おう。ノイエで楽勝ならどうにかなるだろう」


『分かりました。アーブさん。あれを攻撃してください』

『はい。アルテミス様』


 変態の命令にスク水少年がカマキリに立ち向かったらしい。


「ちなみにお兄さま?」

「何でしょう?」


 満足気な僕に対し悪魔が務めて冷静な声を。


「無自覚に無責任なことを言ってる感じがするから注意するけど、」


 悪魔は何故かスケッチブックをエプロンの裏から取り出しつつ言葉を続ける。


「お姉さまってばこの大陸で掛け値なしに最強の部類よ?」

「それで?」

「ん~。30cm物差しと5mの巻き尺だと測れる範囲が違うと思うのよね」

「だね」

「つまりお姉さまなら問題無くても、」


『みぎゃ~! アーブさん、アーブさんがっ!』


 画面から変態の大絶叫が木霊した。


「あのネタキャラが勝てる保証はないってこと」

「そっか~」


 これは失念失念。てへへ。




 心優しい悪魔さんが画面と音声にフィルターをかけ、少年少女が見れるモノに変化した。


 僕の過ちは遠い過去になったのだ。

 画面の向こうで何が起きているのかは知らない。見えないし聞こえない。


「なぜ画面が猫の交尾なのか問うても良いか?」

「グロテスクな映像よりマシなはずよ」


 そっか。それに猫の交尾なら……猫だしな。猫ならセーフだ。


 鼻歌交じりでスケッチブックに描く悪魔の絵が魔道具の画面に映っているのは、本当にチートだな。


「音声が猫の甲高い泣き声なのは?」

「やっているなら声ぐらい出すわ。声と一緒にあれもだすけど」

「なるほど」


 確かに悪魔の言う通りか。ただ君の描く猫に文句が言いたい。


 完全に無関心で座っているこの雌猫の今の心境は? 欠伸交じりだが?


「別れ寸前の齢の差カップルよ。ベテラン雌猫さんは最初勢いだけの雄猫を相手に興奮できたけど、いつまでも勢いだけだとマンネリしてしまう実例ね」

「つまりこっちで昭和漫画の番長ぐらい濃い顔をして腰を振っている雄猫の心境は?」

「決まっているわ。『まだだ。まだ自分は終わってないですから! 姉さんを満足させて見せますから! この腰使い凄くないですか?』を実演しマンネリに気づいていない哀れな存在よ」


 そっか~。マンネリって恐ろしいものなんだな~。


「で、これはこれでダメじゃない? 流せなくない?」

「平気よ。ここは異世界だもの」

「そっか~」


 うん納得。


 腕を組みうんうん頷く僕の前で、雄猫が終えた。やり切った感じで『どうでした?』とその目が語っているが、振り返った雌猫は容赦ない猫パンチだっ!


「今の心境は?」

「もうアンタには飽きたのよ」

「頑張れ雄猫~!」


 君の頑張りを僕は見ていたぞ。君ならできる。やればできる。やった結果がダメだとしても次回頑張ればきっとできる!


「無理ね。きっとこの雌は自分と同じ年代のテクニシャンの元へ行くわ」

「馬鹿な?」


 そんな馬鹿な? 若さは武器であろう?


「事実よ。こうして出会いと別れを繰り返し、子々孫々と何かが受け継がれていくのよ~!」

「そんな不倫の文化などここで断ち切ってくれるわ!」


 僕のチョップを悪魔はひらりと可憐に回避する。


「これだから男は」

「なに?」

「思い通りにいかないからって直ぐにそうして暴力に訴えて!」

「ぐふっ」

「若さだけじゃないと言うなら別の方法を見せなさいよっ!」


 完敗だ。


 ガクッと地面の上に両膝を着いて……で、今って何の時間?


「しいて言えば時間調整?」

「何の?」

「ん~」


 漫画チックに描かれていた猫の交尾映像が画面から消え、何故か次に『クイズです』と文字が浮かんだ。


「お兄さまにクイズです」

「はい」

「この穴埋め問題に正解してください」


 どれどれ。


『○ち〇こ』


 なるほど。


「喉ちんこ!」

「不正解っ!」


 スケッチブックを投げ捨てた悪魔が叩くとピコピコ鳴るハンマーで僕の頭を叩いて来た。


「正解は?」


 叩かれた部分を摩りながら僕が問うと、悪魔は胸を張りニンマリと笑う。


「『ピー』」


 放送できるかっ!


「ありがとうございますっ!」


 召喚した巨大ハリセンで馬鹿の頭を叩き潰した。




~あとがき~


 刻印さんが何て叫んだのかはご想像にお任せしますw

 時間調整と言うか…両方見たい悪魔さんは色々と忙しいのです。


 ようやく神聖国編のゴールが見えて来た…




© 2023 甲斐八雲

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