我は蛇だからっ!
神聖国・都の郊外
ぬおぉぉぉ~!
脇を凄い勢いで汚水……もともと我の肉体であったモノが流れ落ちて行く。
思い返せば我の融けたい肉体は何処に?
全てが地下へと流れ込んでいた。我がこの地に来てからずっと拡大し続けた地下空間にだ。
単純に考えて、我がすっぽり収まる程度の空間が存在している。そこに全てが流れ込んでいる。
膨大な量の汚水……我の融けた肉体が濁流となって流れているのだ。
我、生涯初の全力疾走! 違う! 我、生涯初の全力水泳!
気を抜いたら濁流と一緒に地下へと流されてしまうっ!
どうしてこうなった! 全てはあの人の娘が原因だ!
何度思い返してもあの娘か原因だ。普通割るか? 頭部を割るか?
挙句に『怒られたくない』とか言って割れた我の頭部を地下へと叩き落としてからにっ!
あれは我を助ける気はあるのか?
『頑張った』
お前の頑張りは色々と間違っている。
『むう』
結果として我、今死にそう。
『頑張れ蛇さん』
いや待て。お前は我を救おうとしていたはずであったよな?
『今は無理』
何故だっ!
『汚れたらアルグ様に怒られる』
救いの手~!
我の命よりも汚れの方を恐れるのかっ!
『多くは語れない』
言い方~!
もう少し他人を労わる優しい言葉をっ!
『地表に出てきたら助けてあげる』
見えないっ!
上に向かって泳いでいるが、地表らしき部分が見えない。
『蛇さんの目は飾り?』
言葉をっ! もっと言葉をっ!
『大丈夫。危険の後に……何かある』
今が危険の最中なんですがっ! この後に何があるの?
『後のお楽しみ』
ぜんぜん楽しくないっ!
『ところで蛇さん』
頑張れ~! 必死に足掻けばどうにかなる~!
『頭が割れたのにどうして生きているの?』
……あれ?
あれほど巨大だった蛇が完全に消えた。
登場から色々と引っ張ったりしたが……あれで良いのだろうか?
「あれよあれ。風の前の塵と同じよ」
「あってる?」
「知らない。古文とか苦手だったし」
ヘラヘラと悪魔が笑いながら踊っている。
「ところでお兄さま」
「へい」
「ちょっとあっちの方に……むごっ」
逃走は許さん。
逃げ出そうとしていた悪魔を重力魔法で確保し、急いで縛り上げる。
こんな場所でマニカと2人とか不安しか残らん。
「そこはお兄さまの絶倫なあれでファイト!」
「絶倫などでは決してない」
「でも意外と無限の体力でしょ?」
「そんな事実もない」
僕の体力は一般的な部類だ。そのはずだ。
ロープで縛りあげた悪魔が蓑虫となりモゾモゾと動いている。
「何故お前は先ほどから逃げようと?」
「あっちでバトルの予感が」
「バトル?」
悪魔が言うにはどうやら都の方でバトルをしているらしい。
「あっちにはスク水少年が居るから大丈夫だろう?」
少なくともドラゴンスレイヤーだという触れ込みだしな。
「ふっ! だが相手も決して弱くないっ!」
「あの厚化粧宰相だろ? 人間辞めててもただの爺っしょ?」
「甘すぎるわ!」
ロープ蓑虫の悪魔が吠えた。
「あれはとある魔女の馬鹿弟子の医術で、おおう。そこを爪先で踏んだら口からエロエロと出ちゃうから!」
「ここか? ここが良いのか?」
「出ちゃうっ! ポーラのお口から、いけないエロエロがいっぱい出ちゃうっ!」
本気でやりそうなので相手の背中から足を退かす。
「どうせお前の弟子だろう?」
「全力で黙秘、出ちゃうから~!」
爪先を戻したら悪魔がモゾモゾと。
「で、その弟子のあれってば強いのか?」
「強いからデータ集めに」
「お前って奴は……」
ある意味で尊敬してしまうよ。
「だからちょっと出向いて……どうしてロープを強めに巻きたしたのか説明してくれないかしらお兄さま?」
「気のせいだ」
「ふっ」
全力でロープを締め直す僕に対し、悪魔は不敵な笑みを浮かべた。
「兄さま」
「ほい」
「蓑虫ってば羽化するものなのよっ! 脱出!」
スポンと悪魔が前方方向へと抜け出した。
見事な脱出であって決して羽化ではない。これが羽化なら何かしらの法則が変化してしまう。
前転からの立ち上がって見せた悪魔がポーズを決めた。
「ふふり。この~刻印の魔女と呼ばれた~私が~これぐらいの蓑から~逃げ出せないとも~」
「ジ〇ジョ立ちして自慢している所悪いが悪魔よ」
「何よ?」
何かしらのポーズを決めながら語っていた悪魔が動きを止めた。
「ブラのみ姿であるがツッコミは必要か?」
「……」
芳ばしいポーズを披露していた悪魔が、ゆっくりと自分を確認する。
ブラのみ姿の悪魔さんは……蓑から抜け出す時にメイド服と下着まで脱いだらしい。
はっきり言って変態だ。寄るな危険だ。
「ブラを脱げばバランス良いはず」
「無い胸を晒して傷口を広げるな」
「……兄さまの言葉が塩になって妹の心は再起不能よっ!」
「頑張れ」
「言葉が酷いっ!」
シクシクと泣きながら悪魔が蓑の中からメイド服と下着を回収した。
「……服を着る女性ってエロくない?」
「相手による」
「アンタの妹の何かが地の底よっ!」
握っていたメイド服を地面に叩きつ悪魔がシャウトする。まあ良い。
「それであっちに向かった組は勝てそうなの?」
「姉さまを走らせれば圧勝よ」
何故か地面の上に横たえているマニカの胸を椅子にした悪魔が、片足を高々と持ち上げて……それって先に下着を引っかけてからしないと届かなくない? ですよね?
はいはい。今のは見なかったことにするからって、僕に何の得があるんだ?
「エロいでしょ?」
リテイクで下着を穿く悪魔の姿を冷めた目で見つめる。
「ずっとお風呂場でポーラの全裸姿を見続けて来たからな~。琴線が震えることは無い」
「言葉が酷すぎるっ!」
泣きながら立ち上がった悪魔がメイド服を着て……しまった。今気づいた。
「ふふり。このまま逃走して……あれ?」
駆け出そうとしていた悪魔の足を何かが掴んだ。マニカの手だ。
「寝起きの運動には丁度良いかしら?」
「まさかのアリ地獄~!」
高級娼婦の手に捕まれた悪魔が引きずられて行く。
うん。まあ逃げないなら良いか。良いのか?
見えた~! 見えたぞ~! あれが地表の日だ~!
『頑張った』
うむ。我もまさか無事に地表に、ちょっと待て。上から石が降って来るのだが?
『転がっているドラゴンを投げ込んでいる』
どうして今っ! 我がもう少しで外に出るからっ!
『待つのに飽きた』
もう少し頑張ろうか? と言うか何で我がお前を応援せねばなん? 普通逆でしょう?
『蛇さんが遅いのが悪い』
我のせい? その発言に本気でビックリなのだが?
『頑張れ蛇さん』
お、おう。
『食らえ5連発』
そっちの意味での頑張れだったのね~!
ぬおぉぉぉ~! 天狗もビックリのこの身軽さで~! 全ての石を飛び越えてやる~!
出来る。今の我ならば出来る。何かが目覚めてしまいそうなほど、
『怒涛の8連発』
容赦が無さすぎであろう、むすめぇ~!
終わらんよっ! この程度の攻撃で我を倒せると思っていたのかっ!
まだだ。まだ終わらんよっ!
『おお』
どうだ人の娘よ! 驚いたかっ! 我も驚いているぞ!
この程度で沈む我ではない。我はこんな場所で終わりはしないっ!
『確実に狙って』
狙っちゃう~? それは反則であろうっ!
『むう。反則はダメ』
そうそう。反則はダメだぞ。ズルだからな。
『なら狙った振りからの投擲っ!』
それは卑怯と言うものだっ!
『避けた』
避けるわっ!
ええい。ここで我が全力の跳躍をっ!
『おおっ』
ようやく脱した。
流れ来る濁流を乗り越え我は遂に外へと出た。
宙を浮きながら辺りを見渡せば、石の上に人の娘が居た。
全体的に白く……あれ? あの娘ってば?
娘は我を見つめ、見上げていた。
『……アルグ様のあれ?』
どれ? たぶん違うからっ!
『でもそっくり。大きさも長さも太さも』
我を見つめてその手を動かすな! 何を測っている! その手で何を測っている!
『アルグ様の……』
ええい! 皆まで語るな人の娘っ!
『聞いておいて酷い』
うむ。あれ? それより我、落下してない?
『はい。また穴の中に……挿いる宿命?』
そんな事実は無い! 我は奇跡を起こすのだっ!
ジタバタと足掻いても……無理だ。
助けて~! 人のむすめぇ~!
『アルグ様以外の触れたくない』
だから違うからっ! 我は蛇だからっ!
~あとがき~
ようやく外へと出た蛇さんは…あれ? 頭部が割れているよね?
それでもようやく外です。
本当ならカマキリ戦を書きたかったのですが、軽い熱中症の症状が出ていて…今日は大人しくして明日以降頑張ろうと思っています。
まあ明日からはもう仕事なんですけどね
© 2023 甲斐八雲
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