出来上がっている娼婦の姿が?

 よ~し。よし。


 全身の痛みが戻って来た。つまり回復して来たということだ。


 これならもう少し……何か今ズルっと何かが滑る感じがしたんだけど? ヤバい? やっぱりヤバい?

 でもこの顔が抜けない限りどうにもならんのじゃ~! 蛇だけに! 自分蛇なだけに!


 ダメだ。軽い冗談を挟んでもピンチであることには変わらない。このままだと本格的に死んでしまう。自分死んだらどうなるんだろう?


 そもそも普通の蛇とは違ったしな。

 生まれた当初……あれ? 親の顔を見た記憶は無いな。


 もっとも古い記憶だと、コロコロと転がって逃げようとしたら声をかけられたんだ。

『次は正しく生きて“しんかく”を得られるように……』とか何とか。


 しんかくって何ですか? 進化食うの聞き間違いか?


 色々な物を食ってはきたが、ここ最近はとにかく拙いモノしか食べてなかったしな。

 あれは不味い。最愛最悪の味だ。身も皮膚も何もかもが硬いし不味いしだ。


 だから遂ぞ匂いに釣られて……そんな下等生物の狩りのような物に引っかかってしまうほど飢えていた自分も悪かったのだが。


 さあどうしよう?


 全身で力むとドロッとした感じに襲われるし、でも根性入れてこの頭を引き抜かないと本格的に死んでしまいそうだし。困った。本当に困った。


『頑張れ』


 うむ。声援ご苦労……って誰? 誰が話しかけて来たの?


『もう少し』


 う、うむ。何か会話が通じていない気もするし若干怖いけど、もう少し? もう少ししたら我の頭がスポッと抜けるのか?


『ボロっともげる』


 いゃぁ~! それってば死んじゃうからっ! 本気で死んじゃうからっ!


『根性』


 何をどう根性を見せたら頭がもげるのを許せるのかとっ!


『むう。アルグ様もいつもそう言う』


 もごうとしてるの? 君はいつももごうとしてるの?


『してない。ただ沢山すると「もげるから~」と叫び出す』


 何してるの? 君は相手に対して何をしているの?


『……赤ちゃん欲しい』


 皆まで言うなっ! 全てを悟り理解したからもう大丈夫だっ!


『蛇さん凄い』


 ぬはははは~! 当たり前であろう! 我こそはかの大オロチと呼ばれ恐れられし存在なのだからなっ!


『オロチって何?』


 オロチを知らんのか? ならば説明しよう。


『長いなら嫌』


 え~と。長くならないようにするから聞こうか? 我も何故か今、物凄く語っておかないと後悔しそうな気がしてな。

 何故だか良く分からんが風が囁きかけて来るのだ。『語れ。今すぐに語れ』とな。


『うん。なら聞く』


 うむ。実はあれは我がまだヤマタノオロチと呼ばれていた頃の……あれ? ヤマタノオロチって何だ?




 神聖国・都の郊外



「あなた達が召喚したの? ドラゴンを?」

「ええ。結果として」


 細心の注意を払って掴んでいたマニカの胸から手を放そうとしていたら、馬鹿がまた前進をっ!


 あきません。相手は腐っても三大マヨネーズの……マヨネーズ?


「どうしてそんなことをっ!」

「必要だったからよ」

「どうしてっ!」


 相手に対し詰め寄ろうとする主人公を制するモブ……今の僕の立ち位置はまるっきりそれである。


 うん。僕ってば物語の主人公とか相応しくないしね。気楽なモブポジションで生きていたい。何より主人公ならウチにはノイエが居るしな。普通どう考えてもノイエが主人公だろう。


 はいはい。マニカさん。それ以上前に出ると石から落ちますからね? カメさんはまだ元気にこっちに向かってその頭を伸ばして来ていますからね?


 美人に群がるカメの頭……悪魔が好きな類の絵面だな。


「イエス!」


 輝かんばかりの笑顔で悪魔が叫んでいた。


 ごめんなさい。真面目な空気に水を差してしまって。続きをどうぞ。


「どうしてドラゴンを!」

「そりゃ~必要だからよ」

「どうして!」

「ん? それは貴女に説明する必要があると思っての問いかしら?」

「このっ」


 落ち着けマニカ。それ以上は本当に落ちる。冗談の範囲を逸脱する。

 そっちもそっちだ。ノイエの姉たちは煽り耐性の少ない人が多いんだから無闇に煽るな。


「ま~ね。お姉さまの感じを見ていると良くもあんな残念な感じに育てたと思うわ」

「許すマニカ。あれは僕ら共通の敵だ」


 暗殺者への戒めを解き放ち解放しようとしたら、悪魔が宙に指を走らせ文字を綴って……マニカの胸から手が離れないだと?


「さっきからお兄さまがその娼婦の胸にご執心なようだからサービスよ。感謝してよね」

「あん?」

「違います。離そうとしてたらマニカが前進を続けるから!」


 制しているマニカから危ない気配がっ!


 直で彼女の胸を触っている僕の手が離れません。

 吸い付いたかのようにピッタリと張り付いています。


「その暗殺者って暗殺能力より娼婦としての方の力量の方が脅威だから、そのままお兄さまが捕まえておいてくれるかしら?」

「このままだと僕の命日が超ダッシュで近づいて来そうなんずけどね?」

「ガンバ!」


 殺したい。あの悪魔を殺してしまいたい。

 ここは両手の柔らかなモノを揉んで我慢だ。


「で、そこの糞悪魔」

「は~い」


 腰をクネクネと振りながら悪魔は笑う。


 マニカが暴走しないようにここからは僕が会話するとしよう。


「どうしてドラゴンをこの地に?」

「ん~。理由は色々とあるんだけどね」


 腰振りを継続しつつ悪魔は笑う。


「一番の理由はそれを見て呼びたいと思うかしら?」


 そっと彼女は地面に指を向ける。

 僕らに向かい突進して来たリクガメに対し、指先を向けていた。


 死に晒せこのカメがっ!


 また一つ命を奪ってしまった。


「見た目は可愛いかもしれない。でも所詮はドラゴン」

「だね」


 一般的な人類からすれば脅威と恐怖の対象だ。

『可愛いですね~』とか言いながら抱きしめに行こうものなら頭の先からパックンされる。

 文字通りの丸かじりだ。


「脅威を知れば普通それを呼ぼうとはしない。むしろ溢れるほどにこれがいれば呼ぼうとはしない。そうでしょう?」

「ま~ね。馬鹿従姉は呼んだけどさ」


 あれは本当に馬鹿だからな。


「あれはたぶん私たちが残した落書き帳のせいかな~? ドラゴ〇ボールをパロディーにして」

「おひ?」


 またお前たちかっ!


「否定はしない! どんな文句も受け入れよう!」

「や~い。ペチャパイ」

「ぐふっ……貴方の妹が即死だわ……」


 大ダメージを受けた魔女がフラフラだ。


「まさかあんな冗談を実際にする人が居るとは思わなかったけどね。魔法の可能性に引くわ~」


 立ち直った悪魔が腕を振り悪役っぽい振る舞いを見せる。楽しんでいるな、あいつ。


「呼べばどんな願いでも……結果としてあの馬鹿王女の願いは叶ったから文句は言われたくないけどね~」

「歪みの件は?」

「あれなら許容範囲でしょう? ぶっちゃけあんな風になるとは私も想像してなかったしね」


 この愉快犯は……溢れて来るため息が止まらない。


「どうせもう体が腐ってて回復不能だったとかそんなオチなんだろう?」

「そんなことないよ~。ホントウダヨ~」


 片言で語るな。嘘くささが倍増だ。


「まああれほどの大物が召喚されるとは思わなかったけどね」


 それが本音か。


「でも私がこの星に張った魔法は成功だったみたいね。実際に歪んで発動したわけだし」

「ちゃんと発動してるやん。歪みが見えんぞ? 何を偉そうに座ろうとしている?」

「実際偉いし」


 箒の上に椅子を置いて座ると言う高等技術を見せつつ……東南アジア系のサーカスを思わせるバランス感覚だな。


「歪みって義母さんがあの姿になったことか?」

「違うわよ。馬鹿じゃないの?」


 グーで殴りたい。


「肉体を持たずに召喚された方よ」

「そっちなのね……そっちなの?」

「馬鹿なのアンタ?」


 君の説明が足らない気がするが?


 僕の声に悪魔は呆れた感じでため息を吐く。


「あれが万全の状態で召喚されていたらあの王女の願いは叶っていたわよ」

「ふむ……結果としてやはり君が悪かったような気がするのだが?」


 諸悪の根源は目の前の悪魔か?


「そうね。ただ願いが叶ったと同時にこの大陸の左側に住まう人たちは全員死んでいたでしょうね。生き残れたのは姉さまくらいかしら?」

「おおう」


 それだと願いが叶った義母さんもか? 無意味だな。


「それが強い存在に願いを叶えて貰う反動と言うか対価よ」

「嫌なもんだね~」

「そんなものよ。世の中なんて」


 お前がそれを語るなと言いたくなるけど。


「で、兄さま?」

「はい」


 何でしょう?


 ジトッとした目で悪魔が僕を見つめて来る。


「胸の揉み過ぎで出来上がっている娼婦の姿が?」

「……」


 落ち着いて視線を下げて見つめれば、完全に出来上がっているマニカが居た。


 どうしてこうなった? そこに良いサイズの胸があったからなんや~!




~あとがき~


 頑張る蛇さんに自然と話しかけるノイエw

 そして蛇さんはヤマタノオロチについて…はい? 何の話?


 書くのは楽だけど意外とセリフに気を付けるのが刻印さん。

 この人はまだ明かせないことをペラペラと語ってしまうのです。

 何より話の中なら魔法で記憶を消せますが、読者さまの記憶をどうしろと?

 …刻印さんなら読者さまの記憶も消せないですかねw




© 2023 甲斐八雲

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