良いから全力で都を取ってこいや~!

 神聖国・都の郊外



 うわ~。何なんでしょうね?


 見ている自分の目が狂ってしまったのかと思います。


 先ほどまで戦っていた麗人の槍さばきも凄かったですが、ノイエ様の攻撃も凄い凄い。


 残像が何体も生じて……今残像が攻撃してませんでしたか?


 あの人には常識と言うか何と言うか、普通と言った言葉が適合しない人なんでしょうね。


「決を取ります。この後の交渉をアルテミス様に一任するで良い人は挙手を願います。……満場一致で可決しました」


 はい。何かが決まりましたが私の耳には何も聞こえませ~ん。

 私の耳は耳垢がたくさん詰まっていて何も聞こえないのです。今だけです。ちゃんと定期的に掃除してますから本来は詰まっていたりしません。


「では女王陛下。あのご夫婦との交渉をお願いします」

「全力でお断りします」


 私は私を裏切ったユリーを睨みます。


 対象のあれが違くとも私たちは同志だと思っていたまに……この裏切者めっ!


 私が女王に復帰した暁には、未成年の同性に対し邪な感情を抱く者は極刑に処すという法を作ります。絶対です。ただ異性は許しましょう。男の子を、成長過程を見守ることこそが大切なのです。ですが過程を見守ることが大切であり、成長してしまったらあとは枯れるのを見るだけ。それは気持ちが塞がってしまうので私は遠慮します。


「さあ女王陛下。あの夫婦とっ!」

「押さないでっ!」


 裏切者のユリーが私の背をっ!


 嫌です。あの夫婦はきっとおかしいんです。ですから私としてはあの夫婦と関わるのは……みぎゃ~! 何か今チクっとした~! こっそり手にしたナイフで私をどうする気ですかユリーっ!


「大事の前の小事です」


 女王をナイフで脅迫するのは小事ではない気がしますっ!


「気のせいです。些細なことです」


 どこがっ!


「さあ陛下。さっさと行けっ!」


 足蹴りにされた~!




 お~。ノイエが絶好調だ。

 勝てなくともあの三大魔女の1人をあそこまで追い詰めるとはね。


「にいさま~!」

「何でしょう?」


 ノイエの猛攻を不可視の盾で防いでいる魔女がマジ泣きしていた。


「無表情で殴って来るのってさっきの宝塚の攻撃よりも怖いっ!」

「頑張れ~」

「って絶対に影分身とか使ってるから~!」

「気のせいだ。ノイエの場合はただの残像だ」

「自分を足場に今フェイント入れた~!」


 入れたね。見ていた僕もビックリだよ。


「流石ノイエだ。マジで惚れ直すわ~」

「今すぐ脳外科に行け~!」


 ギャンギャンと泣きながら魔女が吠える。


 ノイエの勇姿を見終えたら医者に行くのもやぶさかではない。

 この記憶が決して消えないようにして貰いたいものだ。


「あの~。アルグスタ様?」

「ほい?」


 呼ばれて振り返ると変態が居た。

 変態と言う名の女王変態だ。変態女王だっけ?


「酷くないですかっ!」

「済まん。心の声が溢れていたよ」

「今絶対に心と口とが連動してましたよねっ!」

「その通りです」

「もう嫌だ~」


 何故か変態が僕の前で膝から崩れ落ちた。

 頑張れ。そんな日もある。


「そんな日が長すぎるんですけどっ!」


 だね~。僕も今日と言う日が何か月も続いているような気がしているよ。


 でも週刊漫画だとそんなのざらだから気にしない気にしない気にしない。

 ナメクジっぽい人たちが住んでいた惑星なんて消滅するまでにその日一日が何年かかったかを思えば……何の話だ?


 一日の密度が濃いって話だな。


「で、どうした変態? 影が薄すぎて蛇に食われたのかと思ったぞ?」


 何より君の護衛をしていたあのスク水少年は無事か? 股間のペットボトルが大変なことになっていたが?


「彼は現在休憩しています。そうではなくて、」


 震える足で立ち上がった変態が僕のことを見つめてきた。


 何だよ? 僕には最愛のノイエが居るから恋をしても無駄だぜ?


「あの山っ!」


 どの山?


「あれですって!」


 一瞬首を傾げそうになった僕を制するように変態が指をさす。

 僕の背後に存在する……あ~。忘れてた。


「あの山をどうにかするって言いましたよね?」

「言ったっけ?」

「言いましたっ!」


 プリプリと怒れる変態がそんなことを。


 つかすっかりと忘れていた。ファナッテは魔法と言うか何かしらの何かをしてどうなったんだろう?


「あれだよ変態」

「どれですか?」

「これは大変高度な戦略に基づく広角的な戦略をあれしてこれした感じでどれ?」

「私が聞いてるんですけど~!」


 もう短気ちゃんだな~。


「大丈夫だって」


 軽く欠伸をして僕は自分の頭を掻いた。


「ファナッテは僕に嘘を吐かないから、きっとどうにかしてるはずだよ」


 そうだろ?




「ファナッテ」

「んふ~。んふっ!」

「興奮して私の足を抱きしめないで。ちょっと痛いから」

「んふ~!」




 アカンアカンアカンて~!


 全身が痛い。焼けるように痛い。とにかく痛い。


 もう無理ぃ~!


 このままでは終わってしまう。こんな穴に頭を突っ込んだ姿で死んでしまったら人間共が我を指さし笑うことだろう。きっと『あれを詣でると子宝に恵まれるんだぞ? 由来? それが理解できるようになったら間違いなく子宝に恵まれるから』とか語られるに決まっている!


 そんなのは嫌だぁ~! 我も王として君臨していた存在だぁ~! 何が悲しくてそんな末路をたどらなければいけないっ!


『恥も外聞も捨てて全力で穴から抜け出なければ』


 我は覚悟を決めた。




 おや? 気のせいか足元がグラグラと。地震か?


 だが地震大国日本出身の僕に震度3ぐらいの揺れなんて格別気にもならんがな。


「あっえっ揺れてる?」


 ただ変態は地震体勢が無いのか揺れている地面に驚いている。


「そんな……地面が揺れるだなんて……」


 驚きから絶望じみた感じに表情が変わり、立ち上がろうとした変態が足をもつれさせて僕の方へと倒れて来る。


 人はこれを貰い事故と言う。


「ごめんなさい。地面が揺れてて……んっ?」


 これこれ変態。何処に手を突いている? そして触るな揉むな確認するな。


「彼にも負けない立派な、がっ!」


 自分の決まりを破りミニハリセンで変態に教育的指導を実施した。

 これは指導の一環です。暴力ではありません。ツッコミです。


「目を覚ませ変態」

「……そうでした」


 叩かれた場所を押さえつつ涙目の変態が、カッと両眼を見開いた。


「こんな頻度で地面が揺れようものなら……良くないのです」

「何が?」

「ですからこの国は本来地震など無く」


 言っている傍で都の方に目を向けた変態の表情がみるみる青く。

 僕も視線を向けて納得だ。

 大きく傾いた塔のような建物が『く』の字になって崩れ落ちた。


「手抜き工事?」

「違います! 一般的な工法で、ん~!」


 また一本倒れて変態の声にならない悲鳴が響いた。


「見ろ。変態」

「見てますが?」

「塔がゴミの様だっ!」

「……ゴミの様ではなく……もう良いです」


 ガクッと肩を落とした変態はポロポロと涙を落としている。


 まあ自分の生まれ故郷が崩壊していく様を見るのは辛いよな。


「で、変態よ」

「何ですか?」


 膝を抱えて拗ねるなって。


「お前はどうするんだ?」

「どうとは?」


 察しの悪い生き物だな。


「お前が、と言うかお前たちがここに居ても役には立たない訳です」

「……」


 事実マニカを防衛に割いて……あの女王様はマッチョ集団を盾にして蛇の攻撃を回避しているがな。


 見ろ。あの変態マッチョたちをっ! 自ら進んで蛇に噛まれ『主様の盾になった証だぁ~』とか傷口を見せびらかしている。もう末期だ。あのマッチョたちは色んな意味で終わっている。


「あの山は僕らがどうにかするから心配するなって」


 何よりこの地震って震源地あの山の方じゃない?


 たぶんファナッテの攻撃が効いているんだよ。


「だから……邪魔臭いから仲間を集めてちょっと都を解放して来てしまいなさい」

「解放?」

「です」


 うんうんと僕は頷く。


「右宰相一派をどうにかして早く王政復古してらっしゃい」

「……まだ王政は続いてますが?」

「なら簒奪してらっしゃい」

「そもそも私のモノなのですが?」

「うん」


 大きく頷いてミニハリセンを呼び出す。


「良いから全力で都を取ってこいや~!」

「にゃふんっ!」


 潰れたカエルのような姿を晒す女王は……大丈夫か? この国の未来は?




~あとがき~


 ファナッテの魔法は効いています。効きすぎてます。

 頑張れツチ〇コ。君の未来は絶望的だ。



 快眠という言葉と無縁な生活を送っています。

 ぐっすり寝たい。睡眠薬は目覚めが悪いっす




© 2023 甲斐八雲

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