滅びよ!

 むか~しむかし、とある3人の少女たちがとある異世界へとやって来ました。


 彼女たちの所有物は異世界から持ち込んだ魔法書とか漫画とかそういった物ばかりです。それと双子の姉妹の趣味であったアンティークと言う名の不可思議な道具とかも色々とあったかな?

 水晶とかタロットとか銀の杯とか……うん。あの2人って親が海外で大きな会社をしててこれがこれで大金持ちだったのよ。自宅なんて明治時代に作られた洋館よ?

 それを移築して、どんだけお金を余らせているのか聞きたくなったわ。


 で、そんな私たちは原住民を支配下に置いて……何よ? 大丈夫。ちゃんと話し合いでコミュニケーションを図ったわよ?

 あの頃の原住民は自分たちで火も起こせなかったからね。ライターで火を灯したら神扱いだったわ~。

 それから魔女たちは一生懸命この世界のことを研究したのでした。


 はい? 前置きが長い?


 まあ良いでしょう。多少端折って……魔女たちは研究の過程でこの世界に自分たちが暮らしていた世界とは違う存在を確認したわけ。それが異世界元素なの。


 要は魔力を込めれば炎が生じるってことに気づいたわけ。気が付けば後は応用よね?

 水、風、土って感じに色々と扱えるようになり、そこで派閥が生じたのよ。


 元素を探求する派と魔力を探求する派にね。


 始祖の魔女が元素を、刻印の魔女が魔力を、それぞれ追求し始めた。

 召喚の魔女はどっちつかずの両方よ。


 まあ始祖の言い分も分かるのよね。

『すべての元素を明るみにし、どれほどの系譜の魔法を作れるのか追及したい』ってね。

 ただ全員でするのは効率悪いでしょう? だから刻印の魔女はその研究を始祖に任せ、自分は始祖が見つけた元素を効率よく扱うための研究……つまり魔力の効率化を追及し始めたの。


 ただね~。始祖ってば意外とかまってちゃんなのよ。

 で、あれからすると刻印の魔女は自分に面倒な仕事を押し付けて好き勝手に違うことを始めたと……何よ? 実際? うん。元素を見つけるのって物凄く地味でつまらない作業の繰り返しなのよ。私には無理だわ~。だから親愛なる友に任せたんだけどね。


 私は悪くない。悪くないぞ~。


 それでまあ始祖が探し出した“元素”には最初名前が無くて“あれ”とか“それ”とか呼んでたんだけど、書類にする時に困るでしょう? 後世、あれとかそれとか書かれた物が出てきたらその時の歴史学者がマジで泣くわよ? 私がそんなの食らったらマジギレ確定よ? 『後のことを考えろよフェルマー!』とか叫んで大暴れよ?


 そんな訳で3人の魔女が集まって殴り合いの喧嘩をして決まったのが『元素』なのよ。


 殴り合いになった理由? 3で割れる個数のお菓子を準備していなかった始祖とか言うクズが悪いのだと私は思う訳よ。

『今日の主催は私だから1個多く』とか知らないわよ! こっちとら客なんだからむしろもてなせと……それで殴り合い確定したわけ。まあ少しずつだけどあの当時から始祖と刻印の魔女との目に見えないボタンの掛け違いが発生していたんだろうね。相手が何をするにも苛立ってたしね。


 その辺の話はポイ捨てして、結果として始祖が推してた『元素』に決定したのよ。

 私? 私は『魔素』よ。ちなみに召喚は『精霊』だったけどね。


 で、私が負けたのは決して弱かったとかじゃないから。

 召喚の馬鹿が途中で制止に入って来て、そのタイミングで放って来た始祖の一撃が運悪く顎に決まってね……貰い事故よ。事故なの。納得しろ。


 それで決定したわけ。


 質問は? 聞いている全員で手を上げるなっ!

 どうせそっちの方の人たちは後で記憶を消去するんだから聞くだけ無駄よ?


 おっと逃げようとしてももう遅い。この刻印の魔女様から逃げられると思っていたのか~! お前たちなど全員魔女様の生贄に、痛い。調子に乗って演説している最中にハリセンチョップとか場の空気を……名無しの子供が泣いているから止めろって、アンタってば本当に子どもには甘いわね? 私だって一応子供よ?


 何よ? 見た目は子供、生殖機能は大人のこの私が嘘を吐いているとでも? 何ならこの場で見せてあげようか?


 分かれば良い。今日の所は許してしんぜよう


 で、始祖が見つけた元素の概念はもう逸失しているのかな? あとで赤毛の薄胸魔女に聞いといてくれる?


 私が聞きに行くとあの魔女は答えたがらないから。


 あん? アンタね~。自分の女を恐れる男が何処に居るのよ? そんなんだからあの魔女は調子に乗って我がままを言うのよ。ツンデレするのよ。

 一回壁ドンからのお姫様抱っこぐらいの男らしさを見せつけて、あの馬鹿魔女をベッドであんあん言わせれば従うようになるわよ。


 良い? イニシアティブって言うのは強引さが必要なの!


 強気に出てあの魔女の飼い主が誰であるのかをその身に叩き込んであげなさい。

 ちなみに返り討ちに遭っても当局は関知しませんのであしからず。


 まあ良いわ。私の記憶だと元素って概念は途切れているはずよ。

 どうしてって……空気中に色々な成分が混ざっていると知っててもその具体的なパーセンテージなんて覚えてないでしょう? それと一緒よ。魔法使いは覚えることが多いから必要ではないモノ……つまりは考える必要のない元素と言う概念を頭の片隅に置いておいて気に掛けないようになっていったわけ。


 結果として火の魔法を使えば炎が起きると言う現象を詳しく追及しなくなってしまったのよ。

 大気中に火の魔法の元となる存在があって魔力で干渉することで炎が生じると言う当たり前のことを失念してしまったわけ。


 ようやくここから本題。


 あの踊り狂っているお馬鹿な子が居るでしょう? 別名トランス状態とも言うんだけど……簡単に言えば逝っちゃってるだけだから。街中であんな人を見かけたら、遠巻きに囲って生温かな目を向けてあげなさい。それが優しさだから。


 本人はたぶん真面目に『精霊』に干渉しているんだろうけど……異世界の魔法がこっちで無事に使えるのかが興味を引く所よね。あとで確りと調査しないと。


 それか仮説になるけど魔力を媒介にして元素干渉して……終わったらあの毒っ娘をしばらく拉致監禁するんで宜しく。大丈夫。酷いことはしないから。

 私の概念では酷くないから。具体的な内容? 私からそんな恐ろしい言葉を引き出そうとするアンタは人の屑よっ! ここで話をしたらあそこの小さい子がギャン泣きする方に全財産賭けるわっ!


 はいごめんなさい。分かったわよ。少しマイルドに……できる限り最小限の被害で済ませるからそのハリセンをしまってください。


 何の話の途中だっけ?


 そうそう。たぶんだけどあの毒っ娘は、自分の体の中に元素を取り込み毒を生成しているんだと思う。確かに今までと変わらないけど、でも今まではあんな踊りとか披露して無かったでしょう?

 その必要が無かったとも言えるけど、もう1つの言い方をすればそれが必要になるほどの毒を生成しているってことも考えられるわ。だからあの子がどんな毒を作り出すのか興味がある。


 なので邪魔はさせません。それと、私の話を聞きすぎた人たちには悪いけど……優しく記憶を消してあげるから心配しないでね?




「なら消しま~す」


 パンと胸の前で手を合わせた魔女がそう宣言した。




 神聖国・都の郊外



「にゃは~」


 体全体を動かして何かしているファナッテが愛らしい。

 我が子の成長を見つめる父親の心境だ。


 だがそんなファナッテが動きを止めた。

 両腕を天にかざして……元気を分けて貰っていますか?


「おに~ちゃ~ん」

「何でしょう?」


 クルっと振り向いたファナッテは屈託のない笑みを見せて来る。


「あのおやまで良いの?」

「良いぞ~」

「分かった」


 ニコニコと笑ったファナッテが山の方へ体を向ける。


「うんと」


 元気に声を発し、


「滅びよ!」


 めっちゃ危険な単語を発した。




~あとがき~


 刻印さんの独り言チックな会話は書いてて楽なんだよねw

 そして毒っ娘は全力で魔法を飛ばしました




© 2023 甲斐八雲

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