みんなで元気に踊りましょう
それは長き年月を土の中で過ごしていた。
昔は……思い出そうとしても思い出せない。
だが決してずっと土の中に居たわけではない。
日の明かりを見た記憶がある。
日の温かさを感じた記憶がある。
日の……それらは全て幻では無いはずだ。
憧れた。
地上に出て日の光を浴びることを。
全てを、遠い記憶の断片を確認することを。
長い年月をかけて土を食らい地上を求めた。
ずっと食らい、時には土以外のモノを食らい……地上を求めて突き進んだはずだった。
けれど自分の住まうスペースが横に広くなるだけで決して地上には出れなかったのだ。
自分が“上”だと思い食らった土は、すべて横だった。
なら横を食らえば……そうも考え実行したが、答えは何も変わらない。
結果として横に広くなるだけなのだ。
諦めもした。
地上を目指すことを諦めもした。
ずっと横になり眠りにつくこともした。
けれど長い年月の中で自然と目が覚め、自分を食らおうと噛みついている存在に気づいてそれらを食らいつくした。
何度も何度も、寝ては食らい。寝ては食らい。
時には土を食らってしまうこともあった。
だって狭くなってしまったのだから仕方ない。
食らい食らい食らい食らい……どれほどの時間が過ぎたのかはもう分からない。
考えることも止めて本能のまま生きてきた。
ふとある時に気づく。
自分が求めている方角が分かる気がした。
上が分かったのだ。目指すべき地上の方角が分かったのだ。
言いようのない感覚に震え、全力で口を開いて道を切り開く。
地面が割れているのか進みやすかった。
味もしない硬いだけの土が美味しくも感じる。
何より向かう先から良い匂いがする。忘れていた血肉の匂いだ。
ずっと前から食らっていた拙い肉ではなく、好んで食らっていた血肉の匂いだ。
興奮のままに口を動かし……また阻まれた。
頭が出ない。
必死に口を動かし土を食らうが、一定の大きさの穴しか作れない。このままでは外に出れない。
それは考えた。必死に考えた。
頭からだからダメなんじゃないのか?
閃きだった。天啓だった。答えを見い出した。
尻尾から出ればいいのだ。
全力で身を捩じり尻尾から外へ出た。
歓喜に全身が震えた。
地面から出た尻尾が間違いなく外の空気に触れたのだ。
これほど嬉しいことは無い。
あとはこのまま尻尾から出て行けば……喜びに震えながら全身を外へと出して行く。
順調だった。
このまま出て行けば……ガチっと首元で何かが嵌った。
体を震わせ嵌った何かを何とかしようとしたが出来ない。
全力で出ようとした勢いの反動からか、前にも後ろにも勧めない。
どうしてこうなった?
自分は外に出るはずだったのだ。
頭から出れないから尻尾から出て……あっ!
気づいた。それは気づいた。気づいてしまったのだ。
自分がここから出れない事実を。
悲しいかな……出れないと言う事実をだ。
どうしよう?
途方に暮れたそれは、身動きの取れない状況で困り果てた。
神聖国・都の郊外
「見てておに~ちゃん」
「はいはい」
ブンブンと腕を振り回しファナッテが無駄に元気だ。テンション高めだ。
どうして子供ってあんなに元気なんだろう?
子が付く生き物って無駄にテンション高いよな。
子猫とか子犬とか……それで遊び疲れると燃え尽きたように爆睡するんだろう?
生暖かくファナッテを見つめていると、何故か隣に悪魔がやって来た。
箒で気持ち宙に浮かんだ存在は、偉そうに腕を組んで……君はどうしてそんなに無駄に胸を張る?
「偉いからよ!」
「無い胸自慢だろう?」
「乙女の恥じらいパンチっ!」
「あざ~す」
横からワンパンを食らい涙目になりつつ頬を押さえる。
親父にも殴られたこと……このネタにも飽きたな。
「大丈夫よ! この子の問題は胸より身長だからっ!」
「そっちか」
「しみじみ頷くな~!」
事実を認めたら怒られるのは納得いかないんだけど?
イラっとしたからハリセンボンバーを食らわせようとしたら、何故か悪魔の頭を掴む手が。
「邪魔だ」
「ちゃれんじゃ~!」
ポイっと後方に投げ捨てられた悪魔がクルクル回って無事に着地した。無駄に高性能だな。
「どうしたの姐さん?」
悪魔を退治したのは姐さんことカミーラだ。
ずっと蛇を退治してからマニカたち一団の護衛をしていた様子だったが、その仕事を悪魔に押し付けてこっちに来た感じだ。
「少し様子を見たくてな」
「ファナッテの?」
「そうだ」
告げて槍を支えに立つその姿は、本当に宝塚の男役を思わせる。
何より感じがワイルドだし、男性の僕から見てもカッコイイ。
「あれがまともに魔法を使うところなんて誰も見たことないからな」
「あ~」
納得した。納得したが。
「挑まないでね?」
「……」
「こっちを見ようか?」
全力で僕を無視する姐さんには逆らえないので……彼女が暴走したらどう止めれば良いのかマジで悩むっす。
「おに~ちゃ~ん」
「はいはい」
「見ててね~」
「は~い」
元気に手を、と言うか腕を振って来るファナッテに手を振り返す。
飛んだり跳ねたりしている様子は物凄く可愛いんだけどね。
「いっくよ~!」
愛らしい様子から可愛らしい元気な声が響く。
跳ねまわるファナッテは……何がしたいんだ? 踊っているのか?
「にゃは~。にゃ~。にゃにゃっと。にゃ~」
奇声を発し、体全体を動かすファナッテはまるで子供のお遊戯のようだ。
保育園とか幼稚園とかで『みんなで元気に踊りましょう』って言われて踊っているようにしか見えない。
「ニクっ!」
僕の声に反応し、我が家のペットが撮影の魔道具を抱えて駆けて来た。
分かっているじゃないか。流石我が家のペットだ。今度高級ブラシを買ってやろう。
「あれは魔法か?」
姐さんの何とも言えない声に僕も首を捻る。
魔法と言うか……何でしょう?
「しいて言えばシャーマンの類にも見えるわね」
「護衛はどうした?」
「ゴーレムを置いて来たわ」
沸いて出てきた悪魔から視線をずらせば、マニカたちの方にはなまはげが居た。
『悪い子は~』とか言い出しそうだ。何より包丁が肉厚の鉈にも見える。肉切り包丁か?
「で、あれが何だって?」
「だからシャーマンよシャーマン」
「ああ。あれね。牌を摘まんで」
「それマージャン」
「緑色した子供が大嫌いな野菜代表」
「それピーマン」
「……」
「来いよ~。次来いよ~」
「思いつかんのじゃっ!」
「むごしっ!」
苦し紛れのハリセンボンバーで悪魔を黙らせた。
回復少ない魔力を奪い去る悪魔め……また目の前で星が散ったぞ?
「で、刻印の」
「何よ?」
僕が苦しんでいる間に復活した悪魔が姐さんと向かい合う。
物理最強と魔法最強……戦ったらどっちが勝つんだろう?
「シャーマンって?」
「ん~。簡単に言うと自然信仰の術者かしらね」
「自然?」
「そっ」
パチパチと瞼を動かした悪魔が踊っているファナッテを見る。
「自然の力をその身に宿して魔法……とは違う形態の魔法みたいなものを扱い存在かしらね」
「強いのか?」
「どうかしら? バルキリーなジャベリンを連発して放って来たら怖いけど、あれはその手の類の精霊魔法には見えないしね」
あっ……やっぱり精霊魔法なんだ。
「って精霊とかって居るの?」
「居ないわよ」
終了です。
「おいコラ悪魔。夢と希望を打ち砕くその発想を止めんか」
「止めないわよ」
ため息1つ吐いて悪魔は片手を前へ伸ばすと掌を上へと向けた。
「ここに火の魔法があります」
ポッと悪魔の掌の上で人魂を思わせる火の玉が生まれた。
「これって簡単に言うと魔力を媒体に燃やしてるわけだけどね」
「ふむふむ」
「魔力って燃料なわけよ」
「ふんふん」
「つまりこの大気中の火に魔力を注いで発火させてコントロールしているわけ」
「なるほど」
うんうんと頷く僕を悪魔が冷ややかな目を向けて来た。
まさか……そんなことは無い。無いはずだ。
「理解してないでしょう? こっちを見なさいお兄さま?」
違うんだ悪魔よ。風水的にそっちを見るのは良くない時間帯なんだ。
~あとがき~
えっと…残念蛇さんは頭が引っかかって出れない感じです。
そして外ではファナッテが。
近況ノートの方で今後の投稿ペースに関して書かせていただきました。
簡単に言うと今のペースを維持です。上げて休んでの繰り返しですね。
詳しいことは近況ノートの方を
© 2023 甲斐八雲
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