瓶の底っ!

 神聖国・都の郊外



 ブンブンと腕を振り回していたファナッテが顔を空に向けた。


「あ~き~た~」

「はやっ!」


 思わず声が出る。


 いつまでも悪魔の腰にぶら下がっているのは辛いので、下を片付けて着地しようと思うこと1分の出来事だ。

 悪魔が取り出した掃除機系魔道具で蛇の亡骸をズーッと吸っていたら、出来上がった安全地帯でファナッテが横になり駄々を捏ねだした。


「できないも~んっ!」

「もんって」

「ならできないっ!」


 断言して来た。


 ジタバタと手足を振るって完全に駄々っ子状態だ。

 ただノイエの姿でそれをしていると本当に愛らしくて……このまま家に持って帰って一晩中眺めていたい。思う存分ハァハァできる。興奮が止まらずに大暴走してしまうかもしれない。


「なら私の勝ちでいいのねっ!」

「……」


 宙に浮かぶ箒の上で立ち上がり踏ん反り返る悪魔に暴れていたファナッテが止まった。


 あ~。こんな所に変な物を捨てておかないで欲しい。吸い込み口に詰まるやん。見覚えのある透明な石を投げ捨て僕はまた地面の上を掃除する。


 これこれニクよ。そっちはまだ掃除が……ゴミを拾って来ないの。そんなにそのゴミが気に入ったのか? ならこのハンカチで綺麗に拭いてやるから持ってなさい。


 ハンカチ1枚を犠牲にしニクに改めて透明な石を渡してやる。嬉しそうに頭の上に石を乗せたニクは、首にぶら下げている魔道具の水晶でファナッテの撮影を再開する。


 お前って本当に仕事の出来る奴だな……今の君は輝いて見えるよ。

 何より光物に群がるのはカラスの類かと思っていたがリスも興味を持つんだな。


「私の勝ちってことで」

「……」


 おおっと。ニクと主従の絆を再発見していたら悪魔がまた攻勢に。


「まあ仕方ないわよね~。アンタなんてな~んにもできないただの子供だもんね~」


 煽るな煽るな。


「ちがうもん」

「え~? 何かな~? お姉さんよく聞こえな~い?」

「ちがうもんっ!」


 煽り耐性が無いらしいファナッテが癇癪を起して起き上がった。


 余程悪魔の言葉にご立腹なのか、両手を頭上に掲げてむきぃーと言う効果音が聞こえてきそうなノリで怒っている。


 うむ。実に可愛い。


 ニクさんニクさん。そっちからのアングルであの可愛らしいファナッテを……完璧じゃないかっ! 流石我が家のペットだ。


「ん~っと! こうして、ばしゃ~ってすればできるもんっ!」


 両手を悪魔に向けてファナッテが可愛らしく『ばしゃ~』っと吠えているが変化はない。


「あくま~」

「何よ?」


『ばしゃ~』から『もわ~』に言葉を変化させたファナッテが頑張っているが何も変わらない。ただ最高に可愛いのでいつまでも眺めていられる。


「あまりファナッテを虐めてやるな」


 見てて可愛らしいがやはり子供を虐めるのは胸が痛い。


「へっ」


 だが悪魔は箒の上で鼻で笑う。


「見た目は大人。中身は子供は世間一般からして大人扱いなのよ~」

「お前とは真逆だな」

「そうそう。この見た目は子供、頭脳は大人の私と比べれば、」

「ただし精神は子供だろう?」

「……」


 僕の言葉に悪魔とファナッテが動きを止めた。


「ちがっ……何を言ってるのかな~?」

「や~い。こどもこども」

「あん? 子供に子供なんて言われたくはないわよっ!」

「わたしおとなだもんっ!」


 これでもかと胸を張ってファナッテが大人アピールをする。

 確かに今の君はノイエの体を扱っているから……本体も十二分に大人でしたね。むしろあっちの方が大人大人しててエロいぐらいだ。


「や~い。こども~」

「むきぃ~。お前みたいな大人、修正してやるぅ~」

「はうっ」


 箒の上から殴りかかった悪魔のパンチをファナッテが食らい、そのまま地面に倒れ込んだ2人は仲良く取っ組み合いの喧嘩を始めた。見ているこっちが恥ずかしくなるレベルの喧嘩だ。


 頬を引っ張り合って唾を掛け合っている。子供か。


「はいはい。お子様2人、喧嘩はそれまでですよ~」

「「でも~」」


 デモもテロもありません。


「そんな我が儘を言う子はオヤツ抜きです」

「「む~」」


 頬を膨らませて2人は喧嘩を止めた。


 というかノイエが食料を食べ尽くしてしまっているから今日はオヤツ抜きなんだけどね。

 それに時間からして……太陽の位置があそこだから、オヤツの時間を少し回ったくらいか。


「確か飴ならあったような」


 非常食として優れているチョコと飴。チョコはこの世界に似た感じのモノしかないので諦めている。カカオをバナナの皮に包んで……と何かのテレビ映像で昔に見たことがあるが、あれを作り出した人って天才か馬鹿かのどちらかだろう。あんな食材を無駄遣いして作り出すって答えを知らないと絶対に作れない気がするんだよね。


 チートか? 地球にも異世界から流れ込んだチート知識が蔓延しているのか?


 こんにゃくとか煮たコンニャク芋の液体に灰を入れるとか狂気の沙汰だと思うよ。


「あれは煮てた鍋の底が抜けて灰の上にぶちまけた液体を勿体ない精神で回収したのが由来じゃないかっていう噂もあったわね~。諸説あるらしいけど」

「ならチョコは?」

「現地の人に聞けば分かるわよ」


 僕が取りだした飴の瓶を手にした悪魔がファナッテの目の前で……これこれ。ウチのお嫁さんを飴で釣らない。

 ファナッテも障害物競走のアンパンを食らおうとして背伸びする生徒のようなリアクションをって箒に乗ってまですることか悪魔よ?


「ほ~れ。これが欲しいか? 欲しいのなら背伸びをしろ~」

「にゃんっにゃんっにゃんっ」


 ピョンピョンと飛んでいるファナッテの姿にほっこりしてしまう。


 悪魔の悪魔的所業を妨害しようとは思うが、もう少しだけ観察していたい。

 だって可愛いんだもん。


「むきぃ~! この子きらいっ!」


 頭上で振られている飴の瓶を手に入れられないファナッテが癇癪を起した。

 両手を悪魔に向けて伸ばし、何やら力みだす。


「むっはぁ~!」

「のがぁ~」


 ボテッと箒の上に立っていた悪魔が落とされた。


 後頭部から落ちた悪魔は目を回し、その隙にファナッテが彼女の手から瓶を回収して口いっぱいに飴を頬張る。見ろニクよ。まるでリスのようだ。

 違いますから……と首を振るニクの姿に僕としてはどっこいどっこいだと思う。


「おひ~ひゃんもひふ?」

「……要る」


 瓶を突き出してきたファナッテ的には『お兄ちゃんも要る?』とか言ったのだろう。

 良く聞こえはしなかったが、このままファナッテが飴を食べ続けるのも良くないので瓶を受け取り回収する。


「む~っ!」

「今日のオヤツはその口の中の分までです」

「む~」


 拗ねはしたがファナッテは流石に口いっぱいに頬張り過ぎたことを自覚したのか、僕の横に来て抱き着き甘えだす。こういう部分は本当にノイエと同じで可愛らしい。

 というかノイエって姉たちの可愛らしい仕草や動作を真似ているのか……あれ? そう考えるとノイエと姉たちのシンクロ率って高くない?


 まさかまた新しいノイエの何かに気づいてしまったのだろか?


「姉さまはああ見えて頭が良くて計算高いから、アンタに好かれること方法を常日頃考えて」

「天誅っ!」

「瓶の底っ!」


 顔面に瓶底を食らった悪魔がまた地に伏した。


 その飴は君が持っていなさい。僕の場合、ノイエたちにおねだりされちゃうと全部渡しちゃうから。


「何よりノイエは計算高くありません」

「ふっ……これだから女の恐ろしさを知らない男は」

「天誅!」

「蛇の頭~!」


 掃除忘れた蛇の頭を掴んで悪魔に投げつけておいた。

 ノイエは計算なんてしませんし、する必要もないしね。


「おにーひゃん。んく」


 飲むな飲むな。ちゃんと飴を舐めてから会話しなさい。


「ん~」


 コロコロと舌を動かしファナッテが飴を舐めるが時間がかかりそうだな。


「んっか」

「はい」

「ん~」

「あむっ」


 キスして来たファナッテが口の中の飴を半分ぐらい僕に押し付けてきた。

 物凄く甘いキスをした気がするよ。物理的にね。




~あとがき~


 ファナッテが何かしら発射したことをスルーしてしまうのがこの主人公たちw


 ノイエはの真似疑惑は…まあそのうち明かされることでしょう。

 計算と言うよりも、まあ何と言うか…なんでしょうね?


 で、ニクが回収したのは…こっちもスルーか主人公?




© 2023 甲斐八雲

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