閑話 36

「そもそも私は思うわけよ。何で私の尻拭いを私がしなきゃいけないのかと……綺麗に尻が拭けなかった私が悪いんだから、尻を汚した私が泣きながら拭けばいいのよ。乳飲み子でもあるまいし」


 椅子を取り出したそれは腰かけ床に転がっている人物に向かい声をかける。と言うより一方的に話しかけているのが現状だ。

 何故なら話しかけられている人物は床に磔になっている。声も出せない。


「確かに私も好き勝手するけどさ~。そこまで他人に迷惑はかけてないわけよ。と言うか絶対に別の私が好き勝手大暴走しているんだと思う。その犯人をみつけて血の粛清をすれば良いのに、統括の私はこう言うのよ。


『面倒をこれ以上増やすな』ってね。


 そもそも一番の面倒ごとを起こしているのはお前だって言うのよ。それなのに『あん? 文句があるなら粛清よ。この立場を代わってあげようか?』ってどんな凶悪な脅しよ。


 馬鹿じゃないの? ねえ聞いてる?


 頷きは瞼の開閉で良いわよ。おっぱいを揺らされてもイラっとするしね。

 決して私が小さいとかじゃないから。見なさい。この世の男性が『ハァハァ』しまくった刻印の魔女様のたわわな巨乳を。もうプルンプルンのタプンタプンなんだからね。


 何よ? その怪訝そうな目は? 私が自分の胸を盛っているとか言いたいの?


 それは私じゃなくてあの残念姉妹の方よ。あの馬鹿たちはスレンダーを絵に描いた東欧系の美人だったから胸なんてこ~んなに小さくてね、いつもお風呂に入る時に私の胸と自分の胸を見比べて絶望していたわ。


 まあその反動からかこっちに来てから盛るわ盛るわ。

 ほぼ死なない体になったと同時に2人して胸とお尻に何やら詰め込んでね~。どこぞの世界的な泥棒が追い回す女性かと言いたくなったわ。

 肋骨も弄ってウエストを細くして、そうすると人って不思議と無駄に首元がガッと開いたドレスとか着たがるのよね~。


 こ~んなハイヒール履いて舗装されていない道を歩いて足を取られてコケるわけよ。最後なんてコケないように軽く宙に浮かんで歩いてるの。で、風が吹いたらピュ~ってね。滑稽だったわ~」


 足を叩きながら面白おかしく砕けた口調で彼女は語る。


「本当に馬鹿だったのよね。始祖も召喚も……色々と悪いことをいっぱいして神も殺して私たちに不可能は無いと心のどこかで思い上がっていたのかもしれない。だからってまあ若さゆえの過ちで色々と大暴走もしたわけよ。

 国を亡ぼすなんて両手で足らないほどしたし、大陸を滅亡したこともあるしね~。

 それ以上にも色々と沢山悪いことをして来た。


 これでも私は少しぐらい反省しているのよ?


 オーバーテクノロジーは決して幸せを作り出さない。

 作るのは敵と味方。それと上と下ぐらい。

 人は支配されていることに幸せ感じるタイプと人を支配して幸せを感じるタイプが居るから仕方ないのだけどね。


 もちろん私は人を支配して優越に浸るタイプよ。

 高い場所から人間を見下ろして、『見ろ! 人がゴミの様だ』とか言いながら攻撃魔法を降り注ぐとかもしたわ。うん。今は自重しているからやってない。


 それにあれは始祖の部下たちが暴走して私を攻めてきたから返り討ちにした時のはずだし……あれ? 私が悪の魔女を演じて調子に乗り過ぎて世界各国が討伐命令を出した時だっけ?

 まあそんな感じで楽しんでしまった時の過ちよ。過ち。

 今は海より深く反省しているからそんなことはしないわ」


 足を組み替え彼女は小さく口角を上げて笑う。


「貴女だって『出来るかもっ!』と思って暴走しちゃうときもあるでしょう? 私のそれもそんな感じ。長く生きているとついついしなくても良いことをしてしまうのよ。


 不死ゆえの暴走かな? ただ不死と言っても疑似的なモノで、私も始祖もとっくに生物の限界を超えているんだけどね。だからまあさっさとあの馬鹿を始末して終わりにしないといけないんだけど、病んでる召喚の魔女があれにろくでも無い呪いと言うか何と言うか……あれって本当にどうやったら殺せるのか私にも良く分からないのよ。


 ただ今回ばかりはあの馬鹿は失敗した。召喚の魔女もこんな冗談みたいな状況になるとは思っていなかったでしょうね。あれよあれ。千載一遇のチャンスってやつよ。これを逃すとたぶんあの馬鹿を殺すことはできない。


 何よりあの馬鹿が天空城に乗って何処か行ってしまったから……本当にあの馬鹿姉妹は、少しは自分たちがこの世界に来たイレギュラーだと自覚して欲しいわけよ。


 分かる? 分かれ!


 無駄にそんな大きなおっぱいを見せびらかして……確かに全裸でオーバーオールを着せたのは私だけどね。


 何かエロくない? その胸のパーツで上手いこと胸を隠さないと丸見えになるシチュエーションとか外の馬鹿なお兄様なら『ご馳走ありがとうございますっ!』とか言い出して抱き着いて来るわよ?


 私の昔話にはそんなに興味を抱かないのに、あのお馬鹿なお兄様に好かれると聞くと興奮するってどういう神経しているわけ?

 貴女たちって美人揃いなのに、あんな馬鹿を好きになるとかもう少し男を選んだ方が良いと思うわよ?


 まあ少なくともあの馬鹿はどんな性格でも、どんな人格でも、どんな性癖でも……同性じゃなければ受け入れてくれそうだけどね。うん。あの心と言うか懐の深さは私でもビックリするけどね。


 で、そこのおっぱいさん? 彼の魔剣の鞘になった感想は?


 照れない照れない。あんなに激しい絡みを披露しておいて恥ずかしがる方が恥ずかしいわよ。

 魔剣工房と呼ばれる存在が知らない間に魔剣の鞘ですもんね~。

 かぁ~。お姉さんビックリし過ぎて思わずお兄様の魔剣の代わりに世に出せない異色の魔剣を貴女の鞘に押し込んでやろうかしら?


 えっ? これに似たのを見たことがある? 使われている?


 誰よ。絶対に犯人はこの中に居るわ。具体的には私の中に居るわ。

 まったく……おかしな道具は世に広めるなって統括が言っているのにね。


 理由?


 その昔ピンクなマッサージ器を世に広めたら戦争になったのよ。

 あれは恐ろしい戦いだったわ。

 ピンクの誘惑に負けた女性たちが結束して秘密結社を作って『これがあれば野蛮な男たちは要らない』とか言いだしね~。人類の約4割がその戦いで死滅したわ。マジで。


 だからその手の道具は世に出さないって決めたんだけどね~。

 統括に報告して犯人捜しさせないと」


 宙に指を走らせ彼女は何かを綴るとそれを押して描いた模様を消した。


「これで良し。


 で、お兄さまの魔剣はどうだったの? 何々? ふんふん……へぇ~。


 それは貴重な意見ね。あとで弟子に教えてあげないと。


 ん? ええ。あの小さな弟子よ。


 あの子ってば本当にお兄様が大好きだからね。

 全部お姉さまのせいにして早朝の寝室に忍び込んではお兄さまにキスしたりとかしたい放題なのよ。流石に勝手に自分の鞘をとはならないけど、一生懸命に舐めてご奉仕とか見ていると泣けてくるわ~。


 まあ一番怖いのはそれを起きて覗いているお姉さまだけどね。

 本当にあの子だけは何を考えているのか分からないから怖いんだけどさ」


 告げて彼女は座っていた椅子から立ち上がると、使用していた椅子を掴んで自分が纏っているローブの中へとしまった。


「さてと……魔剣工房さん」


 床に磔になっている相手……エウリンカに刻印の魔女はその目を向けた。


 エウリンカが磔になっている理由は簡単だ。

 その昔に自分が作った治癒系の小型の魔剣が両手と両脛、そして喉に突き刺さっている。

 結果として体を治癒されながらも床に磔にされているのだ。


「もう少し観察していたかったけど統括から別の仕事が来ちゃったんでね」


 相手の腹に片足の裏を乗せ、魔女は突き刺さっている魔剣を引き抜いて行く。


「これだけ治っていれば後は自力でどうにかなるでしょう?」


 告げてすべての魔剣を引き抜いた。そして、


「暇潰しに話してあげた話の記憶は削除するから」


 宙に指を走らせ魔女は文字を綴る。


「ごめんね~。この話はまた今度にね」


 描いた模様を押して、彼女は魔法とした。




~あとがき~


 治癒中のエウリンカに刻印さんが延々と語るだけの話です。

 実は結構色々とあれ~な部分を語っていますが、詳しいことは本編で。


 刻印さんは三大魔女の中で一番の問題児です。愉快犯です。トラブル大好きっ娘です。

 ですがきっと三大魔女の中で一番……




© 2023 甲斐八雲

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