おねえちゃんのタイプって?

 神聖国・都の郊外



「アンタって地雷原が目の前にあったら飛び込まないと生きられないマゾなの?」

「そんな性癖など持ち合わせていないんだけどな~」


 踏ん反り返る悪魔の言葉に強く言い返せない。


 短くて濃厚なお説教をパーパシから受けた僕の総評を悪魔が下す。

 どうやら僕はマゾらしい。自覚など無いけどね。はいありません。無いったら無いの!


 パーパシが戻りノイエが元に戻った。


 着替えと一緒にノイエの食事を準備していた悪魔が、どこのフードファイターが食べるのかと思うほどの超特大ハンバーガーを持って来た。

 ただノイエはフードファイターだ。直径がマンホールの蓋ほどあるハンバーガーをモグモグと。


「僕は気が付いたよ悪魔」

「何かしら?」


 新事実発見だ。


「ノイエは単品系よりも複数の食材が混ざった料理の方が食べるのに時間がかかる!」


 気づいたよ。食パンをノイエに食べさせると飲むように平らげてしまうが、ハンバーガーを与えている今はゆっくりとモグモグだ。つまり食パンでも何かをサンドして、


「ああ。あれはあれしか食材が無いと伝えたから味わっているのよ」

「……」


 僕の予想は大外れだ。


 そう告げられてからノイエを見れば、確かに貴重なお肉を味わうかのような振る舞いにも見える。

 ノイエの基準に『お肉』が付いて回る現状をどう改めれば良いのか悩んでしまうけどね。


「さて悪魔くん」

「お琴割りよ」


 真新しいメイド服を着た悪魔が何処からか取り出した琴を膝に乗せて割った。


 琴を割るな。日本の伝統的な楽器であろう? お前には日本人としての誇りは無いのかっ!


「まだ何も言っていないが?」

「あれでしょ?」


 何故か楽しげにステップを踏んでいる悪魔がクイクイと巨大な蛇を指さす。


「確かにそうだが」


 それとは別に問題が発生している。

 小型の蛇の量がね……笑えないレベルで増殖中なのだ。


 こっちの処理能力が追いつかなくなる未来が見える。最終兵器ノイエを投入するか?


「もぐもぐ……」


 嬉しそうにアホ毛を揺らしてハンバーガーを食べているノイエの邪魔は出来ない。

 あの幸せの邪魔をする奴は僕の敵だ。全員纏めてミンチにしてハンバーグの材料にしてやる!


「でも流石姉さまよね~」

「何が?」


 僕がノイエの幸せを護ると固く誓っている横で悪魔がうんうんと頷いていた。


「あの毒蛇の肉で作ったハンバーグを食べて無事なのだから」


 おま……今、何と?


「お前の墓石は『この腐女子、悪臭につき!』と刻んでくれる~!」

「あざ~すっ!」


 思わず蹴りが出てしまった。


 ああ……とうとうポーラの体を蹴り飛ばす日が来ようとは。お兄ちゃん反省。


「女性である私を蹴っていることに対しての謝罪は?」

「無い!」

「即答か~いっ!」


 無駄に元気な悪魔が後ろに倒れ込んで綺麗なブリッジを見せる。


「シルクの下着をチラッ」

「何を見せていやがるっ!」


 スカートを捲って白いモノを見せてきた馬鹿に対し、残り少ない魔力を搾り尽くしてハリセンを呼び出すと、相手の股間目掛けて全力で振り下ろしたっ!


「何か出ちゃうっ!」


 断末魔のワードセンスを疑ってしまうが、悪魔は無事に退治した。


「あっ」


 魔力の使い過ぎてクラッと立ち眩みが。

 倒れると思った瞬間にノイエが僕の横に来て支えてくれた。


「ありがとうノイエ」

「ん」


 本当に僕のお嫁さんは……ノイエさん?


 支える腕を器用に動かし僕の体勢を入れ替えたノイエの顔が、その油で濡れた唇が……ちょっと待てノイエ! その油の原材料ってば!


「はむっ」


 制止も間に合わずノイエの唇が僕のモノを覆うように近づき、口いっぱいにシビシビとした感じの痺れが広がって行く。


「ん~! んっん~!」

「あむっ」


 歓迎していないからっ! 喜んで迎え入れているわけじゃないから~! 必死に押し返そうとして……ノイエさんっ! 痺れが喉の奥まで広がって来ていますからっ!


「あ~。アンタら夫婦ってキスですら命がけなのね?」


 悪魔のツッコミを聞きながら僕の意識がぼんやりと遠くへ……




「レニーラ」

「ほ~い」

「彼との約束は取り付けたから」

「はいは~い」


 相変わらず真面目さを感じない舞姫の態度と返事に、パーパシは自分の腰に手を当てて問題児を睨みつける。


「約束守りなさいよねっ!」

「分かってるよ~」


 返事をしてくる当事者が本当に分かっているのかが怪しい。

 けれどパーパシは小さくため息を吐くと、体を起こし軽く腕を回した。


「おねえちゃん」

「何かしら? ファナッテ」


 歌姫に抱き着いている全裸の女性にパーパシは目を向ける。


 本人としてはただ母性の強い相手に保護を求め甘えて居るだけなのかもしれないが、パーパシからするとその様子はぶっちゃけ女性同士のあれにしか見えない。


「戻るの?」

「ええ」


 子供の心を持つファナッテは何かを察しているのだろう。

 だからこそパーパシもまた嘘は吐かない。


「魔眼の深部に戻るわ」

「……戻ってこないの?」


 不安そうな声と表情にパーパシは足を動かし相手に近づくと、その場でしゃがみ伸ばした手でファナッテの頭を優しく撫でてやった。


「宿題をしながら待っているから、あの馬鹿が外で踊る時に呼びに来て」

「いいの?」

「ええ。お願いねファナッテ」

「うん」


 全力で頷く相手に微笑みかけ、立ち上がったパーパシは魔眼の中枢を後にした。


「ねぇねぇ歌姫」

「何かしら?」


 パーパシが立ち去ると同時にレニーラが口を開いた。


「パーパシってば堕ちてる?」

「堕ちてないわよ」

「うっそだ~。あんなに旦那君に優しくされて?」


 自分ならコロッと行けると胸を張る舞姫にセシリーンはため息を吐いた。


「彼って……パーパシの好みのタイプじゃなさそうだし」

「あ~。そっか」


 事実を忘れていたレニーラも納得して軽く手を叩いた。


「おねえちゃんのタイプって?」

「ん?」


 スリスリと甘えて来るファナッテの問いにセシリーンは柔らかく笑いかける。


「自分よりも若い……と言うか幼い感じの男性よ」

「えっと……あの人みたいな?」


 ファナッテが腕を動かし何かを指さしているのであろうことをセシリーンは理解していた。

 きっと外に居る幼く見える男性が好きな女王様だろう。


「一緒にしちゃダメよ?」

「は~い」


 パーパシの名誉のためにセシリーンは自分に甘える存在に優しい嘘を吐く。


「に~ぃ?」


 ただ軽く鳴いた猫に対しては……軽く手を伸ばしその尻を小さく叩くのであった。




~あとがき~


 ようやくパーパシが中に戻った…。



 体調の方は回復傾向なのですが仕事の方が忙しすぎて目を回しています。

 今月いっぱいは2日に1回のペースで投稿して行こうかと思っています。

 

 もう少し仕事が楽になってくれれば…GW明けに新入社員が辞めるのってウチだけでしょうか?

 他もそうならGWとかマジで無くして欲しいわ…




© 2023 甲斐八雲

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