笑っているのに般若のようだ
神聖国・都の郊外
「そっち。列を乱さない」
「はい」
「そっちも」
「はい」
根が真面目な分、ちゃんと命じればパーパシは従ってくれる。
指示を出しながら全員を綺麗に並べて行く。
何だろう? この乱れたモノが整っていくの過程を見ている時の満足感って。
「はい。支点の本体を中心に扇状に」
「何してるのよっ!」
「酷いっ!」
横から全力ハリセンボンバーを食らった。
視界がグワンと歪んだが耐えた。マジで頭が取れるかと思った。
「しばくぞこの悪魔っ!」
「こっちの言葉よっ!」
マジ泣きしている悪魔が……どうした?
「アンタねっ! いくら私でもあんなの食らったら死ぬからっ!」
「元気に生きてるやん」
「今日をお前の命日にしてやるぅ~!」
泣きながら悪魔がハリセン召喚をして僕を追いかけ始めた。
いやぁ~。僕もあれを見た瞬間はポーラごと逝ったな~と本気で思ったさ。
鳥籠だっけ? 姐さんの奥の手に似た魔法を繰り出すとは思わなかったんだよね。
ただあれって鳥籠と言うよりもアイアンメイデンの方がピンと来るわ。
「泣き叫んで命乞いをしろ~!」
「それよりも悪魔よ」
ブンブンとハリセンを振り回し団体パーパシの周りを逃走する僕を追う悪魔にそろそろ事実を告げよう。
「着替えたら?」
「纏めて殺すぅ~!」
事実は時にして残酷なんだな。
やはりか。あの○パンばりの軟体回避を見せた悪魔ですら恐怖には打ち勝てなかったか。
大丈夫。お漏らしは決して恥ずかしいことじゃないから。不名誉なことだけど。
しばらく逃げ回ると悪魔が泣きながらフェードアウトして消えた。
たぶん濡れた下着が不快すぎて……皆まで語るのは良そう。それが優しさだ。
「で……何かグロい」
逃走を止めて視線を戻せば、集まったパーパシが元に戻ろうとしていた。
細胞分裂の映像を逆回しに見せられる状況……言葉に出来ない不思議な世界が目の前に。
2人の3歳児パーパシがうにょんとくっ付いて元の姿と言うか、大きさと言うか、これはこれで神秘的な映像だ。
そう思わないと胃の辺りから何かが出口を求めて大移動しそうだ。
「ってそこ。そこのユリーさん。ウチの子ひとり抱えて持ち逃げしようとしないの」
元に戻ろうとしていたパーパシの1人を抱えて逃亡を図るロリ好き変態には、アイコンタクトで姐さんに依頼を送り……あれって実は姐さんが絶妙に回避できる感じで串を出しているのかな?
そうじゃなければ普通串刺しで絶命コースだな。
「あの~。それぐらい出来ますので」
「気にしない気にしない」
相手の激しい抵抗から下着は諦めたが、服と鎧を着こむことには手を貸す。
可愛いウチのお嫁さんがずっとパーパシにチェンジしているせいかノイエ成分が枯渇している現状だ。普段ノイエの中の人が彼女の体を扱う場合って……考えることを止めよう。
姐さんと馬鹿姉以外からは過剰にノイエ成分を補給できるのだ。枯渇なんてあり得ない。
最期に鎧の金具をちゃんと締めて、はい完成。
「何処を見ても恥ずかしくないウチのお嫁さんです」
「そうですか」
はにかんだパーパシが軽く体を揺らして自分の様子を確認した。
満点です。ウチのノイエは本当に可愛いのです。世界一なのです。
「集めた毒は……どうしましょうか?」
「適当にどうにかしておくよ。国に帰ってから研究材料にしても良いしね」
「ならそれでお願いします」
深々と頭を下げ、パーパシが真っ直ぐ僕を見た。
開きかけた口を閉じて……何処か何か言いにくそうにしている。
ノイエの姉の中で真面目な部類のこの人を虐めるのは性に合わんな。
「約束はちゃんと守るよ」
「……」
「帰国後って単語が頭に着くけどね。それとレニーラの説得と言うか確認はそっちで宜しく」
「……はい」
知らぬ間に帰国してからの仕事が山盛りだ。
あっ……事務仕事も山か? 山なのか? 頑張れクレアっ!
「なら私はこれで」
「ん~」
頭を下げる彼女の表情にちょっと不満が。
「何か?」
少しだけ気になったので手を伸ばして相手の頬を摘まんで伸ばす。
突然のことでされるがままのパーパシであったが、全力で変顔をさせてたら怒り出した。
「何をするんですかっ!」
「ん~。何か胸の奥に来るものがあってね……自分の信念を曲げてみた」
「意味が分かりませんっ!」
だろうね。僕も良く分からないし。
「パーパシさんの挨拶にイラっとした感じかな?」
ぶっちゃければ本音はそれだ。
「挨拶をして怒られるのはこっちが怒っても良い気がするのですが?」
「うん。怒っても良いよ」
怒りたければ怒りなさい。
「ただ何か貴女の挨拶ってば今生の別れみたいな空気がして嫌だったのよね。『これが最後です』って感じって言えば伝わるかな?」
真面目なのは良いんだけどパーパシは何処か儚いと言うか、卒業間近の学校の先輩みたいな『もう私はそろそろここから消えますから』って感じがしたのです。
「ノイエの姉なら図太く生きて欲しいんだよね。まああの2人のようにとは言わないけど」
姐さん。酒を片手に蛇潰しをしてないでください。
マニカよ……下半身を露出させたマッチョたちに何をさせている? 自分の蛇に蛇が食らいつくまで我慢出来たらご褒美的なゲームですか?
お前こそソロソロ中に戻れ!
「うん。あの2人は悪い例すぎるけど」
あんな悪い例の増産は僕が耐えきれません。
「真面目なのも良いんだけど、出来たら戻る時は悲しい感じじゃなくて笑って戻って欲しいのよね」
「……」
僕の一方的なあれだけどさ。それと外で大暴れして高笑いで帰られるのは困るけどさ。
でもせっかく外に出れたのなら笑って帰って欲しいんだよな~。
「難しい言葉ですね」
「そうかな?」
「はい」
本当にパーパシは真面目だね。
「なら宿題ってことで」
「しゅくだい?」
「はい」
キョトンとするパーパシの鼻の頭に指先を付ける。
「外に出て笑える方法かな」
「……」
増々変な顔をしないの。
「どんな理由にせよ。パーパシはまだ生きているんだからさ……僕としてはノイエの姉たちには常に笑っていて欲しいのよね」
どんな過去があるにせよって部分は流石に言えないけど。
「無理を承知で言いましょう。もしこの世界から消える日が来るとしては最後は笑って逝きたいじゃん。僕は常にそう思ってるので」
「……無茶苦茶を言うのですね」
「まあね」
でもさ、
「ノイエの姉であるなら、ノイエから表情とかを奪った負い目があるならさ……率先して笑顔を見せるべきじゃないの? それともノイエは貴女の泣き顔を好んでた? 憂いだ表情を『好き』とか言ってたの?」
「……」
「それが答えです。だから少なくとも」
手を引いて彼女の鼻から指を退ける。
代わりに一歩前進して、僕は相手の目を覗き込んだ。
「ノイエが生きている限り現状に絶望するな。絶望するなら彼女から奪ったモノを全部返してから絶望しろ」
それだけはノイエの中の人たちに言い続けて行きたいと思います。
「……無理よ」
「なら絶望しないことだね」
一歩後退して僕は肩を竦めて軽くお道化る。
これぐらいの苦情は……後で馬鹿姉あたりが文句言ってきそうだな。
「意味が違うわ」
「はい?」
相手の声に僕は足を止めた。
何処か泣き出しそうな顔でパーパシは口を開く。
「忘れていたわ……あの子はきっと私たちが彼女から絶望を取り返したとしても、また奪っていくのよ。それが正しいとばかりにね」
「そりゃ大変だ」
それが事実なら。
「ノイエが生きている限り彼女は君たちから絶望を奪い続けるぞ?」
「……そうなるのね」
疲れた様子でパーパシは苦笑する。だが苦笑だ。
「あの子が生きている間……私たちは笑い続けるしかないのね?」
「だね。でも笑わなくてもいいかもよ?」
「どうして?」
決まっている。
「ノイエを見捨てれば良いだけのこと」
「ええ。そうね」
グッと唇を噛んでパーパシは笑った。
「それをしろと言うのは私にとってとてつもない屈辱だわ」
「お~。こわこわ」
やっぱりノイエの姉だ。見ろ……その表情が笑っているのに般若のようだ。
「では僕は身の危険を感じたから逃げます」
シュッと片手を上げ逃れようとしたが、パーパシの分身体に回り込まれたっ!
~あとがき~
一話を書く時は一気に書かないとダメだな~。
間を空けると書くことが微妙に変化して事故ることが分かりました。
そろそろパーパシが戻ります
© 2023 甲斐八雲
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます