一緒に覗こうとしないっ!
神聖国・都の郊外
「あれを叱る? 面倒臭いことになるから嫌だよ」
姐さんに暴君マニカを叱るようにお願いしたらそんな言葉が返って来た。
だからってあれを野放しにしておくのは危険だ。具体的に言うと……あの名無しの少女のトラウマが増えてしまう。
思春期の少女に見せちゃダメだろう?
「男性はあんな風に汚いモノですから」
「……」
ユリーさんが少女に囁き洗脳していた。
精神汚染は許さん。お前の趣味にその少女を染めるな。
本当にツッコミが追いつかん。
「ならパーパシが叱ってよ……パーパシさん?」
マニカへの注意をもう1人のノイエの姉に丸投げしようとしたら、彼女は顔を真っ赤にして凄い速さで毒抜きをしていた。
ガチで恥ずかしがっている様子が手に取るように見えてある意味で斬新だ。むしろ新鮮か?
どうやらあれを注意する人が居ないから伸び伸びと間違いを繰り返してしまっているのだろう。
「だったら兄さまが叱れば?」
何を言い出す悪魔さん。そんなことをしたら僕の命が危ない。
結果としてスルーするしかないらしい。
「さて」
いい加減話を進めよう。何故なら全く話が進んでいない。
「悪魔よ」
「ん~」
「そろそろパーパシを戻せ」
「いやぷ~」
3回、尻を叩いて悪魔を躾ける。
「戻しなさい」
「いや~ん」
追加で3回。
「兄さま? 妹のお尻を大きくする気なのっ!」
「大きくなるほど肉があるようには」
「本当に妹の精神を抉る兄ねっ!」
そう言われても引き取った頃から比べれば多少太ったポーラではあるが、それでも標準的な体重よりも絶対に少ない気がする。つまりお尻のお肉は薄めなのだ。
「兄さまはポチャが好きなのっ!」
「痩せすぎよりかは?」
「術式の魔女~! お兄様の裏切りよ~!」
強めに尻を叩いて黙らせる。
恐ろしいことを言うな。先生が怒り狂ったらどうする気だ?
「先生の場合は完成された美だから良いんです。増えず減らずで保ってもらえればと僕は思います」
「言い訳上手ねっ!」
言い訳ではない。事実です。
「なら幼児体型の猫は?」
「あれはあれで完成です。手を加えちゃいけないのです」
「まあ分かる気がするわ」
悪魔も同意らしい。
「だったらこの体はっ!」
「ん~」
尻に手を置いて撫でる。
やはり掌に骨を感じる。肉が薄いからだっ!
「もう少し頑張れ」
「しみじみと~!」
事実を告げたら悪魔が憤慨した。だが事実なのだよ。
「で、悪魔よ」
「何さ?」
「パーパシを戻す条件は?」
「……」
普通に戻れるという証言があるのに戻れないのは誰かが邪魔しているからに決まっている。
何より先の返事で僕の中で確信に変わった。つまり犯人はこの馬鹿だ。
自称先生以上の能力を遊びに使うなと言いたい。
「見てみたいのよね」
「何を?」
「あれの祝福」
自然とため息が出た。そんな理由で?
「馬鹿なの?」
「好奇心が止まらないだけよ」
「こんな時に走り出すな」
本気でこの馬鹿は。
「パーパシさん」
「はい?」
どれほど毒を集める気ですか?
「全力の祝福見せて貰っても良いですか?」
「ここでですか?」
彼女は何とも言えない様子で辺りを見渡す。具体的には男性をだ。
「野郎の目は潰すのでご安心を」
紳士的な僕の返事にその他野郎共がギョッとする。
何故だ? 何故そんなリアクションをする? 彼女が野郎の目を気にしているのなら進んでその両眼を抉り取れと言いたいぐらいだが?
「潰すのはちょっと……」
心優しいパーパシに感謝しろ。野郎ども。
「ならこの遊び人にどうにかさせるので」
「運だけで生きてま~す」
尻を振るな悪魔よ。
少し考え込んだパーパシが、ため息交じりに肩を落とした。
「分かりました。でも面白くないですよ?」
「お粗末様です」
深々と頭を下げるパーパシなど誰も見ていない。
ぶっちゃけ野郎共は僕を除いて全員が悶絶している。
犯人は勿論悪魔だ。悪魔による悪魔の為の悪魔的な魔法……つまり『真・異世界魔法! トラウマ改!』が炸裂した結果だ。
何でも子供の頃の黒歴史がエンドレスで頭の中を駆け巡るらしい。
何人か泡を吹いてぶっ倒れているが大丈夫か? フルアーマーな熊など全身を痙攣させているぞ?
待て。あの熊のトラウマだと? ちょっと気になるな。
「幼少期に女性に襲われる記憶がエンドレスっぽいわね」
「うわ~」
悪魔さん? 実は他人の頭の中を覗いてませんか? 紐づけしてちょっと覗いているだけ? 流石に全員は無理だから興味を引く人だけって……それで良いのか刻印の魔女?
呆れつつも元に戻ろうとしているパーパシの手伝いというか、これこれそこのユリーさん。それを懐に押し込まない。持ち帰ろうとしない。ウチのですから返しなさい。
お~い変態。何人か集めて『私は女王陛下なのです』とか言って跪かせるな。
そういうところがダメな証拠だぞ?
「あの~アルグスタ様?」
「はい?」
何故かパーパシさんの声が頭の上から。
気づけば回収した本体……だと思われるパーパシを肩車していた。
高い高いからの流れるような自然な動作であった。
うむ。どうやら僕の父性が溢れ出てしまったとも言う。
「戻りたいのですが?」
「だよね」
困った感じのパーパシは全裸でちょっと恥ずかしそうだ。
何体かは抱き合って団子状態になっている。って姐さん。あっちで蛇に襲われそうになっている個体が居るから援護よろっ!
「だったら全員集めろ。面倒臭い」
言ってもちゃんと援護しつつパーパシを回収して来るのが姐さんだ。
で、そこのマニカ! 捕まえたパーパシの両足を広げて何を観察しているっ!
良く出来ているって……
「何をしようとしているんですかっ!」
肩車しているパーパシが僕の両目を潰す勢いで目隠ししてくる。
決してエロい気持などではない。ただぶっちゃけると小さなノイエな訳やん? 見たくない?
イタタタタ。冗談だから両眼を押さないでよ。
捕まえていたパーパシを解放したら肩車をしていたパーパシが手を放してくれた。
ちょっとした冗談です。去年幼くなったノイエの体を色々と確認するの忘れたな~と今にして思えばとても残念な事だったなと、そのリベンジの機会を得たのかと思ってついね。ついだからね。
内心で笑って色々と誤魔化しておく。
現状としてはとってもカオスだ。
僕が頼み、悪魔が望んだパーパシの全力祝福……結果は3歳児程度のノイエが32体ほどになった。これは『分身』ではない。『分裂』だ。厳密に言うと『増殖』か?
悪魔が野郎共の視界を適当な魔法で封じ、それから始まった披露会は凄かった。
1が2に。2が4に。4が8に。8が16に。16が32にと倍々で数が増えたのだ。
ただし2人に分かれたまでは問題無かったが、4人になったらパーパシの身長が縮んだ。8人になると顕著に小さくなったのが分かり……32人の現在では全員が3歳児程度の大きさだ。
「増えるごとに体積が減少する? と言うよりも……」
パーパシの1人を捕まえた悪魔がマニカとは違い細かく色々と観察して、だから両足を持って開く意味を説明しろっ!
「一緒に覗こうとしないっ!」
「僕にだけ酷いっ!」
また両眼を潰しに来たので大人しく視線を別の方向へ。
視界に入るのはどれも全裸の幼いパーパシだ。容姿はノイエだけどね。
「全裸になるって酷い仕様だな」
「……なりたくてなったわけでは」
頭の上からブスッとした拗ねた感じのパーパシの不満が。
「まあ確かにね」
落ちている服を拾い上げると、それはポロポロと崩れてしまった。
「服までは増やせない感じ?」
「2人以上になると段々脆くなるみたいで」
何よりサイズが違うから着ることもできないっぽい。
しばらく歩き回り本物のノイエの服と鎧を発見した。あと下着もだ。
「ウチのお嫁さんが着ている物だけを残して消えてしまったっ!」
「なっ! 何だって~!」
わざとらしく声を上げたら反応したのは悪魔だけでした。
流石ボケに生きる女だなお前は。
改めてノイエの衣服を畳んで回収する。
「下着を丁寧に畳む理由は?」
「ん~。気のせいです」
ほんのり暖かかったから長く触っていたかっただけですが何か?
「さて」
全裸の3歳児ノイエが31体ほど動き回っている状況を見つめ……僕はその視線を悪魔へと向けた。
「満足した?」
「もっとよ! もっと私に新しい刺激をっ!」
刺激か……了解。
「姐さん」
「何だ?」
チビパーパシを数体抱え持った姐さんが呆れつつ僕を見た。
にこやかに笑って僕は姐さんにお願いごとをする。
「あの悪魔に死ぬかと思うほどの刺激を」
「……はいよ」
タンっと姐さんが爪先で地面の氷を叩いた。
~あとがき~
長らく引っ張りましたがパーパシの本当の祝福はこんな感じです。
ですが彼女は普段+1人の2人までとしています。理由はそれ以上増えると体が小さくなるし服の強度に難が生じるからです。
で、主人公は状況から分裂と言ってますが…どうしてこんな問題が生じたのか? その辺の話は次回ですかね?
主人公は忘れているかもしれませんが、この場には国のトップが居ますからw
しばらくは1日おきに投稿していきます
© 2023 甲斐八雲
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