未成年の視界を閉ざせ~!

 神聖国・都の郊外



「兄さま~」


 石に腰かけた僕の脇の間で小柄な妹が弱々しい声を上げる。

 顔は背の方、お尻はこっち。つまりいつでもお尻ペシペシが実行できるスタイルとも言う。


 悪魔ではなくもうポーラに戻っているが最近の君は少しあれが過ぎます。

 お兄ちゃんとしては可愛らしい義理の妹に慕われるというラブコメ系であれば絶対的な鉄板ネタに大興奮ですが、これはリアルです。リアルで義理の妹から求愛されると色々と困るのです。


 それに何度も言いますが僕はノイエをお嫁さんにした時に誓いました。

 側室も愛人も置かないと……その誓いを破るわけにはいかないのです。


「姉さまの妹だから同じ屋敷に居ても問題無し。それを計算して自分の妹にしなかったんじゃないの?」

「あん?」


 何やら悪魔が恐ろしいことを呟いて来たので、相手の腹部を腕でロックし軽く一度お尻を叩いたら、また甘えた声で許しを乞うてきた。

 感じからしてポーラに戻っているから今は許してあげよう。


 そもそもそんな計算などしていない。あの時はただポーラがノイエに似ているからノイエの妹にしたら分かりやすいかな~と思った程度だ。

 僕の妹になると王族のあれが~とかの問題が出そうだしね。


 ただ指摘されて気づいた。


 ノイエの妹とかにしてしまえば僕の誓いを掻い潜ることができるのか?


 まさかそんな裏技が存在していようとはっ!


「あと養女にするとかの方法もあるわよ?」

「悪魔よ?」

「叩かないで兄さま~」


 うむ。何故かポーラが甘えて居るだけのような気がするが気のせいだろう。


「養女って普通年下の幼い子を引き取るものじゃないの?」


 僕の辞書には年頃の娘を引き取るというイベントとして記載されていない。


「里子と勘違いしてない? 養子に年齢制限なんてないわよ」

「マジで?」


 そんな事実が?


「何よりこっちは言ったもん勝ちの世界だし」


 告げられた事実に戦慄する。


 落ち着け僕よ。そうだここは異世界だった。地球の倫理観なんてその辺に投げ捨ててしまっても問題ない世界だ。婚約だったら乳飲み子とも成立するし、婚姻だって乳飲み子とも……。


『ロリってナンデスカ? ショタってナンデスカ?』が異世界の基本だったわ!


「つまり?」

「そ。アンタの宣言には抜け道がちゃんと存在していたのよ」

「マジか……」


 僕としては最大限ノイエに対して愛を誓ったはずだったのに。


「別に養女にしなくても専属メイドとして常に傍に置けばしたい放題だし。どっかの王弟みたいにね」


 実例が身内に居ましたっ!


「だからこの子はどっちでも大丈夫のようにメイド道を究めようと……こら弟子。激しく抵抗をするな。別に今更隠すような事柄でもないでしょう? そんなに抵抗するなら貴女の恥ずかしい秘密を、ちょっと待て弟子よ。それは契約違反よ。それを暴露するなら私との戦争を覚悟しなさい」


 抱えている存在から物騒な単語が複数聞こえてきたので尻を叩いて黙らせる。


「それで……何の話をしていたんだっけ?」

「兄さまと私が関係を、」


 尻を叩いて妹も黙らせる。


「それで何の話をしていたんだっけ?」


 抱えている存在と会話を続けても前進しないことに気づいたよ。

 だから話を変えよう。空気を読めよ変態。


「えっと……アルグスタ様があれを倒すというお話でしたよね?」


 ヘイヘイ変態。いきなりそんな現実をぶつけて来るなよ?


 気づけばユリーさんが変態の護衛的な立ち位置に居るな? 君の専属奴隷……騎士は何処に行った? あっちで蛇に噛まれながら袋詰めを継続中? 助けてやれよって『その後が見たい』とか返事が早すぎるだろう?


 ユリーさん。そこの変態があんなことを言っていますが……あの蛇の毒は女性にも効くのか? どうなんだ悪魔よ?


 多少興奮するが効き目は男性の方が抜群だそうです。


 男性ホルモンに干渉するのかもって君たち色々と調査しすぎじゃない?


 これこれユリーさん。変態に抱き着いている名無しの少女に蛇を近づけない。新しいトラウマを背負ったらどうする? その時は面倒を見る? 具体的にどんな感じで?


 ふむふむ。おまわりさ~ん。ここにロリ百合が居ました。アウトなので逮捕をっ!


 って、ショタとロリのコンビだったから仲良くなったのかっ! この変態どもめっ! 保護者! ユリーさんの保護者は……お前もかっ!


 フルアーマーな熊は自分に蛇毒を使うか相手に使うかマジで悩んでいた。


「あはは……どうも異国の使者殿は和んだ場を作るのが好きらしいと見える」


 ただ1人萎んだオッサンがそんなことを言ってきた。


 違います。周りに変態が多いだけで僕のツッコミが追いつかないのです。


「ただ」


 オッサンが鋭い視線を向けて来た。


「本当にあれを退治することが可能なのか?」

「どうでしょうね?」


 ぶっちゃけ僕が聞きたいぐらいだ。


「それは本気で言っている、」


 凄んだオッサンの声が強制的に止められる。

 誰でもない。この場において最強の姐さんが睨むと、表情を硬いモノにして押し黙った。


「姐さん。それはただの脅迫っす」

「つまらん」


 鼻で笑って彼女はまた蛇を潰しだす。


 あれだけ潰しているのに数が減らないのも脅威だが、潰した蛇を投げ捨てているあのマッチョなオッサンはそれで良いのか? 君はいち早く姐さんの軍門に下っていないか?


 彼は周りの目など気にせずカミーラが潰した蛇を次から次へと……放物線を描いて飛んで行った蛇を餌にする蛇の姿を発見。


 蛇って共食いとかするんだ。知らなかったわ~。


「たぶん退治は可能なんですけどね~」

「本気で言っているのか?」


 凍っていた場の空気が氷解したのを察し、僕がそう切り出すと萎んだオッサンが立ち上がろうとして……止めておけ。今の君は無理をすると本気で死にそうだぞ?


「問題は問題がそこそこあることと、その問題解決が全く進んでいないことですかね?」

「……ならその問題が解決すればあれを倒せると?」


 倒せるんじゃないの? と言うか図体ばかり大きいただの的だよね? 的じゃなくて蛇でしたか。


「ウチのお嫁さんが本気を出せればどうにかなるんですが……」


 蛇を集めては毒抜きしているパーパシがこっちに顔を向け、軽く会釈をしてまた作業に戻る。


 君もこっちに来て話に加わっても良いんだよ? 難しそうな話し合いは場違いな気がするからって、忘れているかもしれないけど僕ってばこれでも王族さんですからね?


 お~い。無視するなって。お~い。


「ならば彼女が本気になれば?」

「まあ本気と言うか、ウチの国の最重要機密なので大きい声じゃ言えませんが、ウチのお嫁さんは多重人格で、その中の当たりが出てくれば倒せるはずです」


 僕を除いた全員が何となくパーパシに視線を向けた。

 そして納得してうんうんと頷いている。


 相変わらず口からの出まかせだが、僕としてはこの嘘がノイエには一番合っている気がする。

 ぶっちゃけ詳しく説明してもノイエの説明なんて簡単に済まない。長々と語る必要が生じる。面倒臭いから却下だな。


「ですからそれが出てくればなんですが」

「どうすれば出るのかね?」


 このオッサンどうした? そんな食い気味にグイグイと……思い出せば貴方ってばこの国の宰相の1人でしたね。つまり真面目に国のことを考えていると?


 女王がこんなにも残念な人だから側近に真面目な人が居ないとダメだよな。


「アルグスタ様? その慈愛に満ちた哀れんだ目は何ですか?」

「何故か涙が溢れて来そうだよ」

「詳しい説明を求めても良いですかっ!」


 変態が激怒するがそういうところだぞ?


 君は本当に女王として必要な気品が無いのです。あと神秘性?


 あっちを見ろ。あのマニカの……真・女王様はマッチョの1人の股間を爪先で弄んでおりました。


 未成年の視界を閉ざせ~!




~あとがき~


 ノイエの魔眼を説明せずに他人にあの入れ替わりを説明するなら多重人格しかないな。

 髪や瞳の色が変わる? そういう多重人格なのです。分かれっ!

 と言うか本気で他人任せな主人公…これで良いのか主人公?



 風邪が治り少しずつ体調が回復しつつありますが、休んだことで緊張の糸が切れたのか一気に体がしんどくなってしまいました。

 様子を見ながら少しずつペースを上げて行こうと思っていますが、まずは不眠症をどうにかしないとな~




© 2023 甲斐八雲

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