モヒカン頭のヒャッハーな人たちが

 神聖国・都の郊外



 戻れないってあ~た? 何を言ってるんざましょ?


 まあここにポーラが居るから問題はないか。


「ポーラさん」

「はい」

「どうしたら戻れるか、」

「知りません」


 即答でした。素っ気ないぐらいに即答でした。


「ちょっと待てよ妹様。あれの弟子でしょ?」

「弟子ですが知りません」

「何故に?」


 僕の問いにポーラがこちらを向いて片目を閉じた。


「あれはペチャパイ魔女が作ったモノだからね。何より私が外に出るのは別の方法だし」


 これこれ悪魔よ。君の好奇心はどうした?


「自分が使っている魔法より劣化している物を調べろと?」


 これこれ悪魔さん。そんな言葉を先生が知ったら変なスイッチが入っちゃうからね?


「あれが私が使っている魔法を調べるべきなのよ。最近色ごとを覚えて腑抜けになってるんじゃないの?」

「問題が発生する前に戻れ」

「あうちっ!」


 手刀を落として悪魔に退場を願う。


 閉じていた瞼を開いたポーラが涙目で僕を睨んで来た。


「兄さま」

「はい?」

「最近力加減が雑です」

「うむ」


 ついついツッコミを重ねる度に加減の下限が上がっていたらしい。


「ごめんね」

「ダメです」


 おやおや妹様が反抗期に?


「妹はナデナデを兄さまに求めます」

「甘えん坊か?」

「はい」


 認めてきたら仕方ない。ポーラの頭をナデナデしながら思考する。


 つか忘れていたよ。答えが暇そうに蛇を潰していた。


「姐さん」

「酒か?」


 何故に?


「普段ってどう戻っているの?」

「……さあな」


 おひおひ。


「出てきたのなら戻れるでしょう?」

「ああ……何となく?」

「マジで?」


 それが答えか。


「ならパーパシも何となく戻れば良いんだよ」

「……」


 僕が頑張って導き出した答えに対し真面目パーパシの表情が大変に渋い。


「適当とか何となくとかって良く分からないのだけど?」

「真面目かっ!」

「良く分かります」

「頷いたよ妹様っ!」


 どうしたポーラさん?


「兄さま」

「はい」

「私もパーパシお姉さまに激しく同意します」


 目がマジだ。


「……理由を聞こうか?」

「はい。適当とかメイドとして最も困る言葉です」


 頭を撫でているポーラから不満が溢れ出したよ。


「朝になったら適当な時間に起こしてとか、仕事に間に合う時間に起こしてとか」

「それの何処に問題が?」


 僕が良くポーラにお願いしていることですよね?


「起こしてから兄さまの行動が決まっていないじゃないですかっ!」

「異議ありっ!」


 ポーラの訴えに対して僕は心から叫びたい。


「だってノイエの気分次第で」

「だからって一晩中したのにまた始める必要はありませんっ!」


 ですよね~。


 妹様の正論に何も言い返せない。返す言葉がどこにも見当たらないです。


「あんなにドロドロになるまで絡みあった挙句にお風呂に入る前にまたして、それからお風呂でも始めることも、もごもご……」


 みなまで言うな妹よ。そして部外者たちよ。指折り何かを数えるな。


 そこのパーパシさん? 驚きながら自分の体に触れて何かを確認しないの。

 今日は……うん。さっきしたね。しましたね。何か?


「今度から気を付けるから」


 告げてポーラの口から手を放す。


「姉さまも姉さまです。毎日毎日お肉って、王都の市場から精肉が無くなりそうな勢いで、最近は潰す前の家畜を買い付けて、もごもご……」


 ノイエ批判は各方面に敵を作るから止めなさい。


 必要なら牧場を買い取る方向で話を進めて良いから。

 ノイエの為ならそれぐらいの出費など許容しよう。


 落ち着いたか妹よ?


「お姉さま方も出てくる度に無理なお願いをしてきて、もごもご……」


 不満が止まらないのかね? きっと師である悪魔が悪いんだな?


 そうに決まっている。


「私は兄さまの愛人でも良いから、もががっ」


 手を退けようとして激しく抵抗を見せるポーラの口を無理矢理塞ぐ。


 ええい。僕の辞書に妹を愛人にするという言葉は載っていないのだ。


「うむ。それで皆の者たちよ」


 ポーラの口を塞いで顔を上げると全員が僕を見ていた。


 そんな時のリアクションなど決まっている。


「何の話の途中だったか?」


 豪快に話のすり替えを実施した。




『ドロドロって?』『お風呂に入っても?』『あの夫婦なら……』と何故か変態とユリーさんのヒソヒソ話が聞こえて来る。


 いつの間に仲良くなった? 腐ってもその変態は女王だぞ?


 場の空気に流されるなユリーさん。


『自分も若い男が相手なら……』と恐ろしいことを呟いているフルアーマーな熊はそのまま大気圏にまで飛んで行ってしまえ。


『若いの~』と笑っている萎んだオッサンがある意味で一番真面目か?


 まだ僕の腕の中で暴れているポーラがとんでもない毒を吐いたせいで場はカオスのままだ。

 強制転嫁は失敗に終わった。残念なことにだ。


 ちなみにパーパシさん? 顔を真っ赤にしてオロオロしないでください。真面目かっ!


「とりあえずこのカオスな状況を打破しなければっ!」

「もががっ」


 もがってないで悪魔を呼びなさい。


「エロエロメッサエロ。エロエロスゲーエロ。我は求め訴えたり~!」

「呼ばれて飛び出てパンパカパーン」


 両手で抱え持ったポーラに悪魔が宿った。


「良くぞ来た悪魔よ」

「はっ! 私としたことが場の空気に釣られっ!」


 それでこそ悪魔です。


「で、ウチのファナッテを呼びたいのですが?」

「はんっ!」


 何故怒る?


「あんな毒っ子ぐらい呼ばないでもあれぐらいの蛇なんて退治しなさいよ」

「分かった。ユリーさん。この子をあの蛇の傍か出来たら口の中に捨てて来て、」

「いやぁ~! そんなあっさりな抹殺はいやぁ~!」


 本当に我が儘ちゃんだな?


「つかファナッテ以外であれを退治できるのって先生ぐらいでしょう?」

「残念。あの無い胸魔女でも不可能よ」


 マジか?


「先生の胸は小さいけど形の良い物が存在していますから」

「はんっ! 形が良くても小さかったら意味が無いのよっ! アンタは形のいいメダカと形の悪いクロマグロとどっちを選ぶのっ!」


 対象が酷くない?


「食用ならマクロ。観賞用ならメダカ」

「手本のような返答をありがとうっ!」

「ぐはっ!」


 バックブローは酷いなり。


 地面に降り立った悪魔が何故か踏ん反り返る。


「それにまだ早いわっ!」

「……はい?」


 何を言っているんですか?


「忘れたの! このお馬鹿っ!」

「馬鹿なのは否定しないが?」


 自慢ではないが僕は決して頭の良い人では無いのです。


「姉さまが言っていたでしょう。あれは危ないって」


 言ってたか? 危ないとかじゃなくて逃げようじゃなかった?


「危ないも逃げようも同義語よ!」


 絶対に違うから。国語に厳しい人たちから怒られるよ?


「あの姉さまが逃げようと言ったのよ? その意味は分かる?」

「あ~。ん~。えっと……はい?」

「このお馬鹿っ!」

「これが若さかっ!」


 悪魔の蹴りが僕の頬にクリーンヒットだ。


「大型ドラゴンを常にウエルカムなお姉さまが逃げの一手よ! 分かる?」

「ん~?」


 蹴られた頬を押さえて僕は地面に座り直す。


 ワラワラとやって来る蛇たちがマジで邪魔だな。

 ただ氷の上に来ると動きが鈍くなるのは蛇由来の弱点か? 寒くなると冬眠したくなるのですか?


「つまりあれはとっても強いってこと?」

「正解っ!」


 何故か嬉しそうに悪魔が笑い出す。


「この神聖国の最期に相応しい敵よっ! あの化け物が大いに暴れ荒廃したこの土地は明日からモヒカン頭のヒャッハーな人たちが跋扈して力が正義の世紀末な感じになるのよ~!」

「そんな明日は困るんですけど?」


 僕らの会話を受け流せずに変態がツッコんで来た。


「だが遅いっ! あの化け物はもう間もなくこの世に姿を現し、この地を破壊し尽くすのだぁ~!」


 あ~。分かった。この悪魔がやりたいことが。


 カラカラと笑っている悪魔から視線を外し、僕は蛇を潰している姐さんを見る。

 気づいた彼女は僕の視線に呆れつつ、ため息と同時に爪先で氷の地面を叩いた。


「あひ~んっ!」


 ラスボス気取りで企みの口上をしている悪魔が氷の串を股間に受けて沈黙した。


 と言うか、お前の企みじゃないやん。そもそもさ。




~あとがき~


 リハビリ気味に書いたら内輪ネタで終わってしまったw


 パーパシが戻れない理由は簡単で、刻印さんが原因なんですけどね。

 作者としてはさっさと戻して欲しいものです。


 まだ熱っぽいのとそれでも仕事には復帰せんといかんので…きっと仕事が溜まっているんだろうな。

 それが社会人だと言えばそれまでですが…。


 しばらくはマイペースに執筆するので投稿する日はその日次第です。ご迷惑をおかけします




© 2023 甲斐八雲

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