何してくれてるのよ~!
神聖国・都の郊外
「兄さま。流石に酷いです」
「ごめんごめん」
エロエロで汚れてしまったメイド服を着替えたポーラが、怒って僕を殴って来る。
と言っても甘えるようにポカポカと叩いて来る程度だから可愛いものだ。
それよりも馴染むようにその服を着ているから忘れていたが、この国でメイド服って危ないんじゃなかったっけ?
「ごめんなさい。私が彼の気を引いてしまったから」
メイド服のことを聞こうとしたその前にノイエの姿をした人物の声が響いて来た。
真面目だ。真面目過ぎる。流石のポーラも動きを止めてしまったよ。
謝罪して来る姉……ノイエ体を借りたパーパシの様子に、ガクガクと震えたポーラが僕を見る。
「兄さま」
「うむ。皆まで聴こう」
「はい。お姉さまが謝罪をしてくるんですがっ!」
驚愕の事実だと言わんばかりの驚きようだ。
「ビックリだろう? 僕もノイエの中にこんな常識人が居るだなんて知らなかったよ」
「はい。お姉さま方にも常識を知る人が居たんですね」
「あの~。ちょっと?」
パーパシの声を無視して僕はポーラと手を繋ぎ合う。
「希望を捨てちゃダメだ。ノイエの中にはまだ真面目な人が居るのかもしれない」
「はい」
「居るからね? 私以外にも常識を持った人は」
「またまた~」
どんなジョークですか? アメリカンなヤツですか?
「ノイエの中の人たちって常識なんぞ、生まれた時に母親のお腹の中に忘れてきた人たちで構成されているんでしょう?」
「それだと私も無いことになるから」
確かに。
「パーパシはきっとコウノトリが運んで来てくれたんだよ」
「意味が分からないわ」
これだから異世界はっ!
「だってノイエの中の常識って……腹立たしい相手が目の前に居たら、殴る蹴る魔法を撃つが当たり前でしょ? ぶっちゃけ生かす価値が有るか無いかの二択でしょ?」
「……あら? 否定が出来ない」
パーパシが本気で驚いている。
「出会い頭に致死性の魔法とか」
「あるわね」
「それに欲情すると全裸で襲い掛かって来るし」
「どうしてだろう? 目から汗が……」
パーパシの認識を正した結果、彼女は膝を抱いて泣き出した。
良し良し。泣くと良い。悲しいことなんて涙と一緒に吐き出せば良いんだよ。
「で、ポーラさん」
「はい兄さま」
エロエロした様子も見せず、ポーラが可愛らしい顔を向けて来る。
うん。本当に可愛い妹だ。
「あの悪魔は?」
「師匠なら『話の腰を折ったのはそっちだから後は知らない』だそうです」
「ちっ」
逃がしたか。
「それに説明の大半はしたと」
「……したと言われればされたけどさ~」
ただね。途中で終わったでしょ?
「アイルローゼは死んでいるらしいから問題無いけど、ホリーが今の話を聞いていたとしたら後で絶対に怒られる気がするんだよね。最後までちゃんと聞かせろって」
確実に怒られるな。ホリーの怒りは結果として搾られるからな~。憂鬱だよ。
「兄さま」
「なに?」
ニコニコと笑うポーラがちょっと怖い。
「アイルローゼ姉さまも起きて話を聞いていたそうです」
「ちょっと待て」
「事実です。だから待てますが意味は無いです」
うんそうだね。
「何かポーラさん。僕の不幸を喜んでいませんか?」
「気のせいです」
「絶対に嘘だね。僕の目を見てはっきりと言いなさい」
「なら……こんなにもお慕いしているんですからいい加減に手を出していただいても、」
「あ~。何も聞こえませ~ん」
「兄さまっ!」
怒れるポーラに背を向けて両手で耳を押さえて僕は逃げ出す。
ずっと姿を隠していた岩の物陰から出ると……岩の数が増えていたよ。悪魔の仕業か? で、あっちで岩に張り付いて高さを稼いでこっちを覗こうとしている変態は何がしたいのだ? 必死に変態を肩車しているスク水少年がかなり涙目だぞ?
足を止めて変態を正面から見つめてあげると、彼女は足元の土台に撤退を命じた。
「ちょっとした運動ですから~」
言い訳が生々しくて見苦しい。
天罰でも下れば良い。ほら下った。
土台である少年がこけて変態が落下する。
お~。流石あの変態の唯一の忠臣だ。自分の体をクッションにして庇うほどの存在じゃないと思うぞ? その変態は。
「うぴぃ~!」
ただし変態が何故か自分の股間を押さえて飛び跳ね……覗きをする割には直接的なエロに対する免疫は無いんだよな。
今だって少年のペットボトルを上から押し潰した程度で悲鳴を上げるとか。
あれ? あのペットボトル硬くなってなかったよな? 串刺しにしたとか? 大丈夫か? 医者か? 医者が必要か?
「ちょっとリグを呼んでみようか?」
「にいさま~!」
僕と一緒に足を止めて変態の行動を観察していたポーラがまた怒り出したので逃げることとする。
妹に冗談が通じない。
「問題は僕らは今暇を持て余しているということです」
「あの~アルグスタ様?」
「煩いよ変態」
「本当に酷いっ!」
知るか変態。君はそっちで股間でも冷やしていなさい。何より少年を見なさい。何故か氷の塊を抱えてあっちの方へ逃げて行ったぞ。何を冷やすのかは聞かないであげよう。
ちなみに姐さんとマニカは変わらずだ。休憩モードの姐さんと女王様しているマニカだ。
関わると僕が不幸になるから関わらない。
萎んだオッサンは石を背もたれに完全に余生を過ごしている。
もう時期迎いが来そうな老いっぷりだ。
マッチョなオッサンは……マニカ教の信者と化している仲間たちに鉄拳を食らわせて目を覚まさそうと励んでいる。だがあれは無理だ。野郎共の目がハートマークだ。それこそ鉄拳制裁ですら何かのご褒美だと思って良そうな感覚だ。
名無しの女の子は萎んだオッサンの傍に居る。
ある意味あそこが一番の安全地帯かもしれない。
「結論。暇だっ!」
思わず叫んだ。叫んでしまった。だって事実だもん。
ポーラを抱きしめて精神安定を図っていたパーパシが僕の方を見る。
どうもノイエの姉たちは何かあるとポーラを抱きしめる傾向が強い。
ポーラの姿が幼い頃のノイエに似ているのが理由らしいが。
「なら刻……えっと、彼女を呼んで魔法のことでも聞いたら」
「真面目かっ!」
ええい。真面目過ぎる薬師とかこの場に欲しくない。
暇の状況を打破するには賑やかしが必要なのだ。
「レニーラと交代で」
パーパシにそう頼んでは見るが、何故かポーラが返事を寄こす。
「今はダメだそうです」
「何でよ?」
「師匠が何かしているそうで……」
素直なポーラの目が横へと流れた。
これは間違いなく絶対にあの悪魔が余計なことを企んでいるフラグに違いない。
「あの諸悪の根源めっ! 絶対に泣かしてやるっ!」
「頑張ってください。兄さま」
「おうっ!」
妹の声援を受け僕はガッツポーズを見せる。
ただ一番の問題……そろそろあれの直視するか。
「あの山、止まったまま動いてなくない?」
「ですね」
ポーラが僕の声に応じて頷き返してきた。
遠き山は成長を止めている。テラテラと爬虫類……蛇の皮膚らしいが、その皮膚に光が反射して先ほどまで動いている様子が見て取れた。が、今は動いていない。
「死んだか?」
「生きてますね」
即答か妹よ。
「ん~」
本格的に困って来たな。あれをどうにか……そうか。先生が復活したのなら彼女の魔法で一発解決じゃん。
「ポーラ。先生は?」
「はい。精神的にお亡くなりになっています」
「はい?」
だってさっき生き返ったって?
僕の視線にニコニコ笑顔のポーラが口を開く。
「ですからまたお亡くなりに」
何故そんなに笑顔なのだ妹よ。
「ならホリーは?」
「同じくお亡くなりになりました。精神が」
「ちょっとちょっとちょっと!」
頼りの2人がお亡くなりって、
「何してくれてるのよ~!」
若干オネエっぽく叫んでしまったよ。
~あとがき~
主人公たちは暇を持て余しています。
が、地の底から出てきた蛇が動きを止めました。その理由は?
ヤバい。明日は書く時間が確保できるのか…?
© 2023 甲斐八雲
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