閑話 35

 神聖国・都の正門口



《死ぬの……この私が……》


 空を見上げ彼女は呟いた。

 ずっと生き続けたいと強く願った。求めた。結果がこれだ。


《死にたくない死にたくない死にたくない……》


 これは願いだ。望みだ。願望だ。


 死にたくないから生き残ろうと努力を重ねてきた。


 そう努力だ。


 他人から見れば愚かな行いかもしれない。後ろ指をさされ笑われるだろう。


 自覚はある。


 自分がどれ程醜いことをして来たのかなど分かっている。


 生き残るために自分は姉を食らいその知識の全てを吸収した。


《生きてやる》


 最後まで足掻いてやる。どんなに笑われても足掻いてやる。


《決して諦めない》


『何度でも言うわ。貴女は欲が深すぎる。だからその欲に溺れて溺死する。人は陸の上でも溺れ死ぬのよ』


 不意に頭の中で響いた声は過去に告げられた言葉だ。


 あの作られたような美女に告げられた……


《諦めてなるものか》




「ほう」


 化け物の襲来と討伐の方を受け彼はわざわざこの場所へと出向いた。


 正門の外に転がっている死体はこの世の物とは思えない生物だ。


 巨大な芋虫のようなその姿形には覚えがある。

 あの旅人がペットのように飼っていた存在だ。


《つまり……》


 誰かが旅人に施術を施されたのだろう。

 そして生まれた化け物が……ようやく理解した。


《この化け物の正体などどうでも良い》


 誰がこの化け物なのかなど、どうでも良い。

 知り得たいことはこの化け物が『自分』の栄養となりえる存在か否かだ。


「宰相様っ!」


 死体だと思っていた肉塊が動き出す。


 話を聞けば全体的に白を思わせる女性が一方的に襲撃した結果であると言う。


 だが動き出した。結果として死んでいなかったのだろう。


「お離れ下さいっ!」


 部下の声に彼は笑った。


「何を言うか?」


 口角を上げ、彼は形を崩しながらも動き出した生物に向かい両腕を広げながら一歩ずつ近づく。

 まるで何十年か振りに出会う親友でも迎えるように笑いながらだ。


「これは好機ぞ」


 間違いなく好機なのだ。


 その場に居た者たちはおぞましい光景を目撃することとなる。



 化け物と化け物が熱い抱擁を交わす姿を。

 

 化け物同士が互いを食らおうとする光景を、だ。




~あとがき~


 今日に関しては作者の手抜きでは無くて演出上短くなっております。


 旅人さんがこの国に残して行った化け物2人が共食いをしたら?


 結果は本編の続きにて




© 2023 甲斐八雲

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