死して屍を世界中に晒せ~!

 神聖国・都の郊外



「……で、始祖の阿呆は『アカシックレコード』と命名したがっていたんだけど、それって流石に恥ずかしいでしょ? だから全力で制止したら戦争になっちゃってね~。あの時は敵味方含めて7つぐらい国が滅んだわ」


『魂の根幹』とやらの説明を受けていたはずが愚痴に変化していた。


「ゲームの話?」

「違うわ」

「だったら誤魔化さずに語れ」


 どうもこの悪魔は魔法のことを詳しく語ろうとはしない。

 絶対に何かしらの裏があるな。


「え~。怠いし~」

「ノイエ~」

「いや~。もうこれ以上ポーラのお尻を虐めないで~」


 これこれ。人聞きの悪いことは言わない。


 そんな餌を与えるとノイエさんが、


「ちょっとお姉さまっ! 本気でお尻をっ!」

「大丈夫」

「大丈夫じゃないからっ!」


 ノイエのアホ毛に拘束された悪魔がまた地面の上でビチビチと……陸揚げされたカツオのようだ。


「兄さま? 今絶対変なことを考えていたでしょう?」

「寒ブリが食べたい」

「違った意味でのクレイジーっ!」


 吠えるな吠えるなこの変態が。


「で、魂の根幹とやらは?」

「え~。語んないとダメ?」

「語っておけ」

「マジで~?」


 どうしてそこまで拒絶する?


「別に聞いたら人が死ぬとかじゃないんだろう?」

「そうなんだけどさ~」


 拘束されたままの悪魔が諦めた感じで口を開いた。


「語っても良いけど後悔しない?」

「内容によるかも?」

「え~」


 凄い不満げだな?


「分かった。極力努力する」

「それと」


 まだあるの?


「私のことを殴らない?」

「お前は腐ったあれだがその体はポーラのモノだからな……攻撃はハリセンまでだ」

「ん~。まあ良いか」


 またノイエのアホ毛から抜け出した悪魔が教卓の上に座る。


「簡単に言うとね。魂の根幹……別に名称なんてどうでも良いんだけど、これが無いと魔法って使えないんだわ」


 スタートから爆弾発言だな?


「つまり素養?」

「まあそう受け取って貰っても良いかな」


 何故視線を逸らす。お兄ちゃんは可愛い妹の顔を見ていたいぞ?


 可愛いお嫁さんは拗ねずにお肉を食べながら僕に甘えて居るのが最高の幸せです。


 立ち上がろうとしていたノイエがまた座り、僕に寄り掛かって甘えて来る。


「その素養と言うか根幹と言うか……それのパーセンテージで魔力量や魔法使いとしての才能が決まるんだわ~。ただしお姉さまのような例外も居るけどね」

「ん?」


 スリスリと僕の腕に頬を擦り付け甘えて居るノイエに視線を巡らせる。


「前から言ってるけどお姉さまの魔力量は全て祝福の恩恵だから」

「そういう話だね」


 ウチのノイエは底なしの魔力を生み出せるチート的な存在だ。

 ただし魔法の才能は絶望的だとか。


「厳密に言うとお姉さまの魔法的な才能は皆無なの」

「そうなの?」

「ええ。だって別の才能が詰まっているから」

「あ~」


 言われてみればそうでした。


 ノイエは『聖女』と呼ばれる血脈を受け継いでいて、その才能は魔を払う力だとか。悪霊やゾンビなどを払わせるのならノイエさん最強なんですよね。

 で、ドラゴンの天敵だし……やはりチートか?


「異世界人の血が入っている人は多かれ少なかれ魂の根幹を持ち合わせていない人が多いの。まあこっちに来てから夜な夜な頑張って腰を振って子孫繁栄した人たちの中には居るっちゃいるけどね」


 発言に気を付けろと言いたい。


「ただし異世界人のあれ~を引き継いでいるタイプの人間もいるから厄介なんだけどね」


 あれ~とは?


「具体的な例は?」

「毒娘かな。あれは典型的な異世界人の血が色濃く出たタイプだね」


 ファナッテなんだ。てっきり先生とかファシーとかだと思った。


「その2人……と、あの黄色のフワフワも居れて3人か。あれは『魂の根幹』のパーセンテージが多すぎる方に振り切ってるタイプね。良く言う何十年に一度の天才よ」

「ドラフト時期になると毎年聞く系のヤツ?」

「じゃなくて本当の意味での方よ」


 教卓に腰かけている悪魔がプラプラと足を揺さぶる。


「あんな小国に3人も出るのはおかしいんだけどね。それ以外にも魔法使いとしたら破格の才能を持つ人とか、あの宝塚みたいなチートも居るし」


 確かに。ユニバンスは無駄に人材と言うか強キャラが多い。


「で、一般的なたとえ話を一つしても良い?」

「脱線しないならね」

「しないわよ」


 この悪魔は隙を見せると直ぐに脱線するからな。


「聞いたことない? 黒髪黒目の魔法使いは強い力を宿しているって」

「あ~。あるかも」


 誰が言っていたのか忘れたが、そんな話を聞いた気もする。


 だから先生がモミジさんを見た時に魔法に関して詳しく聞いていたような記憶が微かに残っています。


「あれって嘘なんだわ」

「嘘なのかいっ!」

「でも少しだけ事実が混ざっています」

「どっちやねん」


 ツッコミが止まらないぜ。


「厳密に言うとね~」


 ぴょんと教卓を降りた悪魔が地面に立った。


「その噂って続きがあるのよ」


 1週間以内に他人に聞かせないと呪われるとか?


「呪いなんてそこのお姉さまを横に置いておけば勝手に払ってくれるわよ」

「マジかっ!」


 知らない間にノイエにそんな機能が?


 いや待て。現在ノイエが僕に対してスリスリしている。普段以上にスリスリしている。


 つまり知らない間に呪われたのかっ!


「違う」

「違うんだ」

「はい」


 簡潔に答えてくれたノイエは……甘えの継続です。


「脱線してるのそっちじゃない?」

「振ったのそっちやん」

「気のせいよ」


 何故か屈伸運動を開始した悪魔は、スタート前のアスリートのようだ。


「三大魔女の血を濃く引くと黒髪黒目になるって、そんなことはないから。そもそも私たちの中で子供を産んだことのあるのは始祖の馬鹿だけだしね」


 そうらしい。


「なら何が事実なの?」

「そうね」


 バッチリ準備運動を済ませた悪魔が軽やかな笑みを浮かべてこっちを見た。


「私たちの卵子を取り出して体外受精して代理の母親の子宮の中へ、ちょちょいとね」

「……はい?」


 とっても倫理的にあれ~言葉が?


「それで生まれた子供を掛け合わせて……競走馬のように強い子供を作ろうと企画したことがあってね~」

「……」


 相手の笑みに若干の引き攣りが見えた。


 それはそうだろう。

 僕は今、自分が出せる全ての魔力を片手に集めてハリセンを出そうとしている。


「薬とか使ってかなりアウトなこととかしまくってね~。あの頃の私たちって敵なしだったし、異世界に来てヒャッハーな頃だったしね。あはは~」


 全力で笑って誤魔化そうとしているが、許されるとでも?


「つまり魂の根幹を持つ人って、ある意味で私たちの子孫ってことで間違ってないのよ。

 だってその根幹を持つのが私たち3人だけだったからね。うんうん。この大陸中に子孫が広がって私も嬉しいわ~。あはははは~」


 それで終わりか? 終わりで良いんだな?


「ふっ」


 笑った悪魔が全力で駆けだした。


「また会おう明智くんっ!」

「死して屍を世界中に晒せ~!」


 呼び出したハリセンをノイエのアホ毛にパス。


 受け取った彼女は迷うことなく逃走する悪魔の背中に向かい投げつけた。




~あとがき~


 大陸に住まう魔法使いの多くは三大魔女の血が入っています。

 入っていないのは異世界人の直系ですが、新たに異世界から召喚でもしなければ大半は混じっているかもしれません。

 混ざり過ぎてバグったのがファナッテです。


 アルグスタが怒った理由…この主人公も魔法使いですからねw



 明日から20時投稿となります。宜しくお願いします




© 2023 甲斐八雲

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