魔改造こそ我が人生っ!
神聖国・都の郊外
「ガルルっ!」
「来いよ。かかって来いよ」
「殺す。絶対に殺す」
牙を剥いて怒れる悪魔はノイエの束縛から逃れられずただ暴れるのみだ。
もうそのアホ毛は『武器』とか『触手』とかのジャンルで括った方が良いと思うよ。
ノイエのアホ毛に縛られた悪魔が地面の上に転がっている。いつも通りと言えばその通りだ。
「で、何で人は1つしか魔法が使えないのかな~?」
「……」
だんまりを決め込んだ悪魔は口を真一文字に。
はは~ん。そういう態度を取るのですね?
「ノイエ」
「もぐっ」
焼いたベーコンをもぐもぐしているノイエの耳を拝借。
で、アホ毛の先端で……そうそう。そんな感じで。
スルスルと伸びるノイエのアホ毛が悪魔のスカートの中に侵入していく。
「ちょっと待ったっ!」
「何かな悪魔くん?」
「そっちはダメっ! そっちはダメなんだから~!」
焦った悪魔が必死の形相で悲鳴を上げる。
どっちか分からんよ。だがあえて言おうか? お前に拒否権など無い。
そしてノイエには『後ろ』としか言っていない。さあ頑張れ。
「むぅりぃ~! 説明するからっ!」
「根性の無い。まあ勘弁してやろう」
ノイエさん。ストップでお願いします。
「どうして?」
「はい?」
首を小さく傾げて問うてくるお嫁さんに軽く戦慄する。
「それ以上しちゃうとポーラの体が大事故に?」
ウチの妹様の体は綺麗であって欲しいのです。
「小さい子なら喜ぶ」
「ノイエさんっ!」
そんな事実など知りたくもないのだが?
「むう」
焦る僕に渋々といった感じでノイエがアホ毛を引いてくれた。
と言うか引かなかったらどうしていたの? どうなっていたの?
「串刺し」
「妹だから。ポーラはノイエの妹だからね?」
「妹は私だけで良い」
凄い不満気だ。だからってポーラを亡き者にしようとするのは……違う? 最近自己主張が激しいから少し懲らしめてやろうとした?
それはきっとポーラの中の人が悪いんであってポーラ自身はいつも通り、はい? 最近僕の使用済み下着やらを抱えてこっそりハァハァしている?
これはノイエ姉さんも挟んで一度家族会議案件ですな。
拘束は継続で地面に横たわる悪魔を見る。無様だな。
「で、何で人は1つしか魔法が使えないのかな~?」
再度の質問に……悪魔は口を開く。
「厳密に言えば『と思われる』が正解ね」
「どういう意味よ?」
「そのままよ。まあ言い換えれば『1人の人は1つの魔法しか使えないと思われる』が正しいのよ」
体を起こし地面に座る悪魔が……こらこら胡坐をかくな。品の無い。
「私たちはずっとそうだと思って来た。と言っても同時展開での魔法とかロマン溢れるでしょう? オタクとしては絶対に扱いたいジャンルだから研究もしたわ。でも同時展開できるのは簡単な魔法のみ」
「簡単って?」
悪魔はスルリとノイエのアホ毛から抜け出すと地面に立って軽く手を振る。
そよ風が起き、その風が小さく渦巻いた。
「今のが同時展開」
「あ~。うん。竜巻の魔法?」
「違う。風の魔法と渦の魔法」
違いの説明を求める。
「風の魔法は威力を求め強くすればどんどん激しくなる。渦の魔法も同じ。でも威力を上げる過程で当たり前だけど術者の力量が関わって来る」
「ふ~ん」
つまり低レベルな魔法使いはそよ風しか起こせないと?
「その通り。何より威力を上げれば制御に意識を割かなければいけない。魔法の暴発とか聞いたことは?」
「あるよ」
これでもアイルローゼの弟子である。
才能無さすぎて『魔法を使おうと考えるな馬鹿弟子』と言われていますけどね。
「それはあくまで自分の力量以上の魔法を扱おうとして発生する事故ね」
ふむふむ。
「例外的に力量はあっても制御できずに常に暴発していた魔法使いも居たけど」
「居たんだ。そんな人」
「お宅の猫よ」
あちゃ~。そんな人もいましたね。
「ただ普通に考えるとあの猫とか毒娘とか本当にイレギュラーすぎるのよ」
「簡単に言うと?」
「生存するバグ」
チートレベルの先生とかお前の方がその言葉が当てはまるような気がするぞ?
言えばまた喧嘩になるので口を閉じておくが。
悪魔は自分が取り出した教卓の上に座ると……妖艶を演出しようとして足を組んでいるのかもしれないが、やはりそれが出来るのは大人の色気を持つ女性だけだと思います。
「泣くわよ妹が?」
あれ? 心の声が駄々洩れしてたかな?
「毒娘の方はその体を隈なく調査して……そのメモ紙は何処から取り出したのかしら?」
反射的にメモ用紙を取り出していたよ。案ずるな。ペンが無い。
だから聞いた数字は全て暗記する所存なのでミリ単位まで言うが良い!
「実数は計測しているけど誰が言うものですか」
やはり計測していたか。
「何故教えない?」
「スリーサイズは乙女の秘密でしょう? それに私は自分が得たその手の秘密を語るのが好きじゃないの」
「裏切者め~!」
明智だ。ここに明智が居る。者ども出会え!
「姉さま。兄さまが浮気的なことを考えているわよ」
「このお肉を食べたら本気を見せる」
十分です。
先ほど十分見せていただいたので、ノイエさんはお肉を食べてのんびりしてください。
「それでファナッテの胸を調べてどうなったと?」
「着やせするタイプって卑怯よね。トップとアンダーの数字に驚きが止まらなかったわ」
その驚きを僕も共感したいです。
「で、あれは完全にバグね」
話を戻すな悪魔よ。
「戻すわよ。姉さまの視線が怖いし」
気のせいだ。ノイエはこんなことで怒らない。
怒らないが確実に僕の股間を見つめているな。落ち着いてノイエ。話せば分かる。
「毒娘は簡単に言うと遺伝子レベルでバグってた」
「簡単かそれ?」
遺伝子レベルって……遺伝子的な病気の意味かな?
「ま~ね。たぶん図面を引いたマーリンの馬鹿のせいか、それとも何世代と過ごすうちに少しずつ不具合が出てしまったのか……異世界魔法を混ぜ込むのは危険だって私は主張したんだけどね」
「何の話よ?」
「始祖の馬鹿を呪い殺したくなる話」
左様で。
「で、そっちは遺伝子レベルのゴミを取り除けば魔法の駄々洩れは解消するはずなの。現に魔眼の中での実験は上手くいっているから」
「そんな実験とかしているの?」
あら怖い。ここにマッドな人が。
「魔改造こそ我が人生っ!」
胸を張ってとんでもないことを言い出した。
「で、問題が猫なのよ」
おっと忘れてた。
「あの猫は精神があれでしょう?」
オブラートに包んでも分かるぞ? それだと?
「病んでても可愛いよ」
「それが言えるのはアンタぐらいよ」
そっかな~。ファシーは基本凄く可愛いけどね。
「結果としてたぶんあれは多重人格的な症状を抱えている」
「猫と人?」
猫を『人格』として扱って良いものなのだろうか?
「猫と人と人と人と……って感じかな?」
言われて見ればファシーもノイエ同様に色々な面を見せてくれてとても可愛い。
「本格的にアンタのその精神を疑いたくなって来たわよ?」
「何故に?」
可愛いモノは何をしても可愛いのである。
「まあそれで今回あの猫が制御を、私たちが必要だと思っていた魔法の根幹……『魂の制御』を複数で行ってみせた」
「それが魔法の同時使用のカラクリ?」
「簡単に言うとね」
口を閉じた悪魔に対し、僕はハリセンを召喚した。
「何処が簡単なのか述べろっ!」
「説明したじゃんっ!」
顔にハリセンを食らった悪魔は教卓の向こう側へと消えて行った。
これだから天才は……説明になってないんだよ。
~あとがき~
説明が終わらなかった。そんな訳で明日も説明回です。
それと5月より投稿時間を20時に変更します。
執筆時間の関係で最近色々と辛いんです。本当にごめんなさい。
完全に作者の都合ですが、これからもよろしくお願いします
© 2023 甲斐八雲
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