頑張れ独裁者!

 神聖国・都の郊外



 陸揚げされたウツボのように地面の上を転がっていた悪魔が突然止まった。


 うつ伏せでお尻を上げた状態で止まった理由を問いたい。どうしてわざわざスカートを捲った?


「痴女だからよ~!」

「ウチの妹におかしな属性を付与するなぁ~!」

「ありがとうございまーすっ!」


 全力ハリセンボンバーを尻に受けた悪魔は、またビチビチと地面の上を跳ねまわる。


 見ろ。本当にウツボのようだ。


「あの~? アルグスタ様?」


 なんざんしょ?


 チラチラと変態が悪魔の方を確認しながら口を開く。


「時折ポーラ様のことを別人のように扱っているような……?」

「気のせいです」


 君の目が腐っています。


「でも今だって」

「この子はそう言う性癖なのです」

「性癖?」

「そうです。貴女のような覗き癖のある女性なら分かるでしょう?」

「だから違いますからっ!」


 またまた~。この変態が。


「私は至って正常ですっ!」

「覗きが趣味でも?」

「……違いますからっ!」


 今の間は何だ?


「そもそも私は、」

「覗きが趣味な」

「変態です。違うから~!」


 認めてしまえ。本当に楽になるから。


「違うんですっ!」


 頭を抱えて変態が蹲った。


「だって私ってずっと女王宮で同性と一緒に暮らして……異性と会えるのは謁見の時間だけ。その時に軽く会話をするのが精いっぱいで……」


 変態が全力で闇を吐き出したぞ?


「私だって恋とかしたかったんです~!」


 立ち上がり全力で吠えた。

 変態が空に向かって恋を叫んだ。


 痛々しすぎて軽く引くけど。

 悪魔なんて離れた場所に移動してこっちを見ながら『うわ~。痛々しい』とか吹き出しを作って発言していやがる。芸が細かいなっ!


「結果として少しでも男性を見たくて趣味が覗きになったんだね」


 納得だ。


「私の言葉の何を聞いたらそうなるんですかっ!」

「全部?」

「今すぐその耳をお医者様に見て貰ってくださいっ!」


 怒るなって。そう言えば僕の専属医は最近何をしている?


「姐さん。リグは?」

「寝てるんじゃないか?」


 横になって脇を掻いている人にそう言われてもな~。


「リグは?」

「知らないわよ。馬鹿じゃないの?」


 女王様をしているマニカがそう言ってきた。


 あの~? その従えたマッチョたちに何する気ですか? その跪いているマッチョさんがさっきから苦悩の表情を浮かべている理由は何ですか? こちらからの角度ではよく見えませんが、貴女の足先はそのマッチョのどの部分を踏みつけているのでしょうか?


「よく我慢したわね。ご褒美よ」

「きんにくぅ~!」


 聞いたことの無い絶頂を迎え……マニカに踏まれていたマッチョが燃え尽きた。


 彼の背中が煤けているよ?


「次は誰が楽しませてくれるのかしら?」


 ポージングで自らを売り込むマッチョたちは……うん。これ以上見ていると色々と何かが崩壊しそうだ。

 スルースキルを発動してスルーするに限る。


「で、変態」

「シクシク……」


 泣くな。そして認めろ。


「部族連合とかはまだか?」


 そしてぶっちゃけよう。もう飽きた。


「変態も巨根もリアクションが普通でつまらん」


 問題はこいつらだ。僕の暇潰しも務まらないとは何たる役立たずかと。


「普通って悪口言われて怒るって、それが普通だと思うんですけどっ!」

「そんな普通など知らんっ! 変態なら変態らしく斜め上を行く異常を見せろっ!」

「斜め上を行く異常って何ですかっ!」

「あれが見本だっ!」


 指さした先では、玉乗りをしながらお手玉をしつつおかしな形状の笛を吹く悪魔の姿が。


「まああれでもまだ普通だが」

「あれがっ! あの何処が普通っ!」

「あそこまでするなら口から火を噴くとか」


 悪魔が口から火を噴いた。


「おならで空を飛ぶとか」


 悪魔が両手で『×』を作って来た。使えん奴だ。


「失格!」

「判定が厳しすぎる~!」


 地面に伏した悪魔がシクシクと泣きだした。


「あそこまでして一人前だ」

「無理ですからっ!」


 無理だと? あれだってまだまだだぞ?


「修行が足らん! 出直してこいっ!」

「無茶苦茶な~」


 変態が蹲って……本当にメンタルの弱いヤツである。


「で、部族連合は?」

「その切り替えの速さは何なんですかっ!」

「君も大概に立ち直りが早いぞ?」


 これだから変態は。


「で、実際どうなの?」

「そうですね。狼煙を上げて気づいてくれてから移動準備をして……」


 変態が何やら考え込んだ。

 時間がかかりそうだからとりあえず悪魔を回収して来てから発射準備を進める。


 用意したのは、人生に絶望しているベッドボトルスク水少年だ。


「半日程度はかかるのでは?」

「なら確認してみよう」

「はい?」


 変態が悩んでいる隙に耳打ちしたスク水少年が悪魔を持ち上げて上空に向け投げ飛ばした。


「大気圏に向かって~!」


 発射された悪魔はいつものように箒を取り出して上空で停止した。


 だからスカートをたくし上げるな。その距離だと全く見えんぞ?


「あの~。どうしてポーラ様を?」

「観察です」

「そうですか」


 そしてスク水少年に気づいた変態が、頬を赤くして相手を見つめる。


「女王陛下。申し訳ございませんでしたっ!」


 地面に伏した少年が、全力で謝罪する。


 うむ。きっとこれを忠臣と言うのだろう。

 あっちでなんちゃって女王様に弄ばれているマッチョたちと忠誠心が違うのだな。


「大丈夫です。私も突然のことで驚いてしまって」

「本当ですか?」

「ええ。大丈夫です」

「むしろご褒美です?」

「そう。あんな立派な……何を言わせるんですかっ!」


 ブンブンと両腕を振るって変態が殴りかかって来る。

 変なことを言い出したのは僕ではありません。貴女です。


「案ずるな少年」


 僕は全力謝罪している少年の肩に手を置く。


「女王陛下は君の股間のそれを大層お気に入りのご様子だ」

「ですがこんな大きいだけの」

「そんな大きいのが良いそうです」

「勝手に私の好みを決めないでくださいっ!」

「なら嫌いなの?」


 怒る相手に静かに問えば、変態は一瞬で鎮火してモジモジし始めた。


「母様が言ってました。夫にするなら大きい人が良いと……」

「うむ。ならこれを相手に将来の旦那を受け入れる準備をすれば良い」

「……」


 目から鱗のご様子で変態が少年の股間をガン見する。

 はっきり言いましょう。今の貴女はただの変態セクハラ女王です。


「護衛として常に傍に置いておけばいいじゃないですか」

「ですが女王宮に異性を置いてはいけないと言うしきたりが」


 全くこの変態は真面目か?


「そんなしきたり変えてしまえよ」

「えっ?」


 驚くなって。


「これからの生活に邪魔なら変えてしまえば良い。それが権力者ってもんだ」


 何よりこれからはこの変態に独裁政権を立ち上げて貰わないとな。


「だから自分好みの男たちを呼び集めて、うふふな事とかいっぱいできるぞ?」

「そんなことはしませんっ!」

「ほほう」


 断言したな?


「ならこの少年でも傍に置いて守って貰え」

「……ですが」


 チラチラと何処を見ている?

 あまり見てやるな。育ってしまうぞ?


「頑張れ独裁者」

「サラッと私を悪者にしてませんか?」

「ん? 独裁も悪くないぞ?」


 何より決定権が1つだから即断即決で国の運営が決まるしね。

 問題は支配者が馬鹿だと国は悪い方へ一気に転がり落ちるけど。


「頑張れ独裁者!」

「……」


 変態が疲れ切った様子でため息を吐いた。


「貴方のその性格、直した方が良いと思いますよ?」

「何故に?」


 僕ほど真面目に生きている人は居ないと思うけど?


「絶対に災いが訪れますから」

「そんなことはっ!」


 突然の衝撃で息が詰まった。

 気づけば地面に押し倒され、胸にスリスリと擦り付けて来る感触が。


「何ごと?」


 顔を上げたら納得だ。


 ノイエが全力で……ノイエさん? ちょっと落ち着こうか? 無理? どうして?


「いっぱい甘える」

「落ち着けノイエ~」


 叫んでみたがノイエが止まる訳が無い。


 そのまま抱えられて……ちょっとノイエさん? 何処に行く気ですか? そっちに何が? そっちは無人ですか? 無人の場所で何を?




~あとがき~


 ファシー対アパテーの戦いを書く予定がノイエ帰還w

 戦いの内容は後でね。



 神聖国を書ききってから少しお休みすることにしました。

 ストックが無い状態だと綱渡り過ぎてダメですね。せめて数話は貯金が欲しい。

 ただもし数話貯金が出来たら毎日更新は継続する方向で。


 全ては仕事次第なのですが…




© 2023 甲斐八雲

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