こいつら本当に使えね~!

「は~い。注目~」


 その声にやる気の無さそうな視線と、緊急事態を知る緊張した視線とが向けられる。

 フードをかぶった人物……刻印の魔女は自分の分身である魔女たちを前にして口を開く。


「ちょっと聞いてくれる? あの赤毛も大概だけど、あの猫なんなの? ねえ何なの?」

「猫でしょ?」

「つまらない」


 事実を伝えた魔女の分身体が立つ床が抜け、彼女の姿が消えた。


「こほん」


 咳払い1つ。刻印の魔女は緊張している自分たちに目を向ける。


「ちょっと聞いてくれる? あの赤毛も大概だけど、あの猫なんなの? ねえ何なの?」

「「ハードル高くな~い?」」

「高い?」


 全員からの不満に魔女はため息を吐いて椅子を作り出すとそれに腰かけた。


「で、あれをどう思う?」


 大画面にしている映像には異次元の魔法を操る猫の姿が居た。


 あれはチートだ。チートレベルだ。あんなチートの相手をしている醜い芋虫に……


「どうしてかしら? あの芋虫が削られて行く姿を見ているとホッとするのは?」

「外見がね~」

「そうよね~」


 分身たちも同じ意見のようだ。

 つまり芋虫は潰れて当然らしい。


「あれ~?」

「はいそこの私!」

「ん~」

「勿体ぶるなって」

「左右から文句言わないでよね」

「で、何を思い出したのよ?」

「ええ。あれってマーリンの馬鹿が育ててた芋虫に似ているなって」

「「……」」


 全員が顎に手をやり考え込む。


「マーリンって芋虫が主食?」

「違うでしょ? 芋虫を食べさせられてマジ泣きしてたよね?」

「あ~。始祖の馬鹿が『新しい食べ物』とか言って無理矢理食べさせたヤツ?」

「昆虫食は世界を救うとか言って食べさせていたわね。その隣で召喚の魔女がエロエロしてたけど」

「その自爆テロでマーリンがエロエロして……あの時は大惨事だったわね~」

「で、芋虫の話は?」


 脱線から帰還した魔女たちがまた首を傾げる。


「確かにあれってマーリンが育てた芋虫よね」

「そうそう。で、何で育ててたんだっけ?」

「あれよあれ。分泌液が美容液になるとか言って研究していたような気が?」

「あ~。思い出した~!」


 1人の分身体が叫び全員の視線が彼女に向けられる。


「それって確かマーリンが作ってマーリンで人体実験したら大惨事になったヤツだ~」

「どんな惨事だっけ?」

「えっと古い皮膚をツルツルにって言うから浴槽に満たしてマーリンを突き落したらホラー映画になったヤツ」

「……全身を白濁にした危ないビデオのヤツだっけ?」

「その後その後」

「あ~。古い皮膚が溶けてツルツルのはずが、今の皮膚まで溶けてドロドロになったヤツか」

「それ正解っ!」


 何故かその場が湧いて、分身たちがハイタッチで喜ぶ。


「正体が分かっても何も解決していないような?」

「「それな」」


 刻印の魔女たちが全員で認める。


「まず芋虫から目を放しなさいよ。あれはマーリンの馬鹿が召喚した異世界の芋虫だし」

「知っていたのか私よ!」

「当り前よ。私を誰だと思っているの?」

「私ね」

「私よ」

「話を進めて」

「「ごめんなさ~い」」


 統括をしている刻印の魔女は息を吐いた。


「そろそろ現実を直視しない?」

「あれを見ろと?」

「そ」

「……目が潰れそうなんだけど?」

「頑張りなさい」


 頑張って全員は視線を向ける。


「机上の空論って誰か言ってなかった?」

「術式の魔女ね」

「あの赤毛が無理って言うなら無理よね?」

「ならあれは?」

「「……」」

「ちょっと誰かあのツルペタ魔女が何て言っていたか覚えている?」

「は~い。こほん。『理論上は可能よ。ただ問題があるとしたら足らないのよ。私がもう1人居れば可能だけど、それだと本質から離れてしまう』だったかな」

「そんな感じだったかも?」


 言い方が違うだの口論が発生するが、それでも概ねそんな感じだった。


「で、あの赤毛はできると言ったの?」


 統括の声にその場が静まり返る。


「今は無理って言葉で結んでたはずよ」

「そうよね」


 あの天才ですら『今は無理』だと言ったのだ。

 それをあの猫は思いもしない方法で実行して見せた。

 問題はその方法が全く分からない。


「時間差で詠唱していたわよね?」

「それでも無理だと思うんだけど?」

「論より証拠。レッツトライ!」


 見よう見まねでやりだした分身体が……グチャッとなって絶命した。


「自爆するなら他所でやってよね」

「そうだそうだ」


 文句を言いつつも魔法で防御していた分身体が潰れた仲間の躯をさっさと消す。


「当り前だけど人の口は1つなよ」

「だね~」

「でもそれを同時に発動するとなると……」


 統括は頭の中でその可能性を模索する。


「私なら空中で文字を描きながら詠唱をすれば理論上できるはず。でもあの術式の魔女は『不可能』と言った。何故だか分かるかしら?」

「人の1つの魔法式しか扱えない」

「その通りよ。それが定説なのよ」


 ゆっくりと刻印の魔女たちは外の様子に目を向ける。

 そこには二つの大魔法を同時に発動させた猫が暴れていた。


 あれは間違いなく魔女だ。


 千の軍に匹敵するほどの威力を振るう存在を昔であれば『魔女』と呼んだ。十分だ。その資格は前からあると思っていたが、今の様子を見るにもう魔女として扱って欲しいと思う。


「さながら獣人の魔女ね」

「は~い。可愛くないので訂正を求めま~す」

「却下よ私!」

「酷いな私!」


 殴り合いの喧嘩を始めた2人を無視して残りの魔女たちは真面目に思考する。


「あの猫ってさ~。簡単に言うと病んだよね?」

「病んだね」

「病んでる猫だね」

「「だよね~」」


 全員が認める


 だって病んだもの。


「で、普段は猫だよね?」

「何が言いたいの?」

「ん~。あれだよ? あくまで可能性の話だけどね」


 呆れながら彼女は言葉を続けた。


「人格が二つ以上あってその複数の人格の中に魔法式を操る存在が居た場合なら可能かなって」

「それだと若干時差式にしたのは……純粋に口の都合か」

「ええ。詠唱を使う都合どうしてもね」

「だったら私なら……しないから。扱える魔法式が1つしかないから」

「「だよね~」」


 自爆するかもと結界を準備していた分身たちは胸を撫で下ろす。


「はいはい。なら結論を出すわよ」

「「は~い」」


 自分たちを前に統括はその口を開いた。


「誰かこの中で病んでる子っている?」

「「あの猫で~す」」

「ですよね~」


 結論。あんな馬鹿げたことができるのは病んでる猫ぐらいだ。




 神聖国・都の郊外



「こいつら本当に使えね~!」


 どうした悪魔よ?


 先ほどから奇行を繰り返す悪魔に対し、そろそろ医者を呼んだ方が良い気がして来た。


「ヘイ変態。医者は居ないか?」

「えっと……」


 眠そうにしている変態がグシグシと目を擦る。


 おいおい。皆して気を抜きすぎだろう? 目を覚ませ!


「病気じゃないからっ! むしろ病んでる子を探しているから!」

「変態病ならここに」

「だから変態は病気ではありませんっ!」

「そうだな。性癖だもんな」


 ポンポンと変態の肩を叩いてやったらマジで泣きだした。


「ならあっちにペットボトルがボトルっている人物が」

「総合的に判断してセーフよ」


 誰がどんな判断を下したらあれがセーフになる?


「もっとこう精神的に病んでいる」

「……ファシー?」

「ですよね~!」


 何故かその答えを待っていましたと言わんばかりに悪魔が地面を蹴り飛ばした。


 これこれ。お行儀が悪いですぞ?


「ちょっとツルペタ魔女に用事があるんだけど、知らない?」

「精神的に死んでるって」

「あ~も~! 本気で使えない!」


 だから暴れるなって。

 振動でズキズキと頭の奥が鈍く痛むから。


「欲しい。何て言うか、もっと溢れんばかりの知識と知能が欲しい」

「落ち着け~」


 ハァハァと息を弾ませ、傍目から見ると今の悪魔はかなりヤバい人だ。

 おまわりさ~ん。きっとあの子は手を出してはいけない薬に手を出していま~す。


「で、どうしたの?」

「……猫が」

「はい?」


 猫というとウチのファシーですか?


「が、どうしたの?」

「……神の領域に手を伸ばした」


 ちょっと何を言っているのか本当に分かりません。




~あとがき~


 名物、刻印さんたちによる大集会でしたw


 ファシーがやったこととは大魔法の同時発動です。

 ただ内容についての詳しいあれが無いのは…引っ張り過ぎたら書くスペースが無くなっただけですw

 次回か何かで語られることでしょう。


 何度も言ってますがファシーってば才能豊かな魔法使いだったんですよ。

 もしアイルローゼのクラスにでも入っていれば…考えただけでもこわっ!




© 2023 甲斐八雲

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