ノイエの判断に委ねます

 神聖国・都の某所



「その報告が正しいのであれば急ぎ女王宮に兵を差し向ければ良いであろう!」


 部下からの報告に右宰相サーブは激怒した。


 どうして部下たちは自分で考えて行動を起こさないのだと文句を言いたくなる。

 だが部下たちにも言い分はあった。勝手なことをして失敗すれば自分たちの首が飛ぶのだ。文字通り胴体から離れ離れになる方向でだ。だったら叱られても即処刑を回避できる現状を求める。


 つまりは右宰相に報告し指示を仰ぐのだ。


 結果としてサーブの元へ左宰相ゴルベルの恐ろしい企みが届いたのは随分な時間が経過してからとなる。


「何でもかんでも押し付けおって……」


 イライラとした様子で机を叩き、サーブは自身の怒りを部下たちに見せる。その様子に部下たちが怯え委縮することにも気づかずにだ。

 自分の行いが部下たちの自主性を奪っているなど気づきもしていないのだろう……再び机を激しく叩いた。


「悪獣の巣に展開している兵を、」

「ご報告っ!」


 サーブの声を遮るように部下の1人が半ば転がり込むような勢いで部屋にやって来た。


「今度は何だっ!」


 次から次へと起こる出来事にサーブのいら立ちは頂点に達していた。

 こんなにも使えない部下たちであれば、今回の革命が終わり次第全員処刑しても良いと本気で考えるほどにだ。


「悪獣の巣へ向け移動していた部隊が襲撃を受けました」

「……なに?」


 主人の様子になど気づかず部下の1人は床に這いつくかのような体勢で言葉を発する。


「遠方に向かわせていたペガサス遊撃隊……ヴァルキュリアの乙女たちが上空より一斉に攻撃を放ち、部隊は半ば壊滅状態とのことです」

「なっ……」


 余りに衝撃的な部下の言葉は、サーブも開いた口が閉じられなくなる。


 何よりそんな状態になるまでどうして報告が来なかったと……顔の化粧がボロボロと崩れ落ちることを気にせず、彼は激高した。


「将軍は何をしていたっ!」

「それが……隊長のドミトリーの攻撃を受けて戦死したとのことです」

「アイツか~!」


 怒りの余りに立ち上がり、サーブは激しく机を叩いた。


 ドミトリーの名はサーブが嫌う人物の1人である。

 その人物が指揮するのがペガサス遊撃隊……通称ヴァルキュリアの乙女たちだ。

 神聖国軍の中で最強と謳われる部隊でもある。

 女王の傍で働けるようにと女性の、それも魔法を使える者のみで構成されたペガサス騎士団だ。


 長年その圧倒的な攻撃力で外から進軍して来る敵や反旗を翻す部族などの討伐を主に行って来ていたが、彼女たちはこの都に住まう権力者たちから嫌われていた。

 危険なのだ。女のくせに『最強』などと呼ばれている存在などは。


 だからこそ都での活動は式典のみの参加とし、段階を経て完全に都から追いやり解散させる手はずになっていた。女王が居なくなればあのような者たち存在など不要だ。最強は別に作った男性たちのペガサス騎士団が引き継げば良い。


 その手はずだったというのに。


「何故あれが都に来ているっ!」


 また机を叩くサーブの問いに応えられる者など居ない。誰もがその理由を知らないのだ。

 むしろサーブが知らないことなど聞かないで欲しい……それが部下たちの総意でもあった。


「使えん奴らめっ!」


 それが何の、誰に対しての発言なのかはサーブは口にしない。

 けれど長年彼の部下を務めている部下たちは薄々察していた。それが誰に対する言葉なのかをだ。


「集められるだけ兵を集めよ」


 サーブはそう命じるが動き出す者が居ない。

 主だった武官は全て悪獣の巣へ向かい、軍を預かっていた将軍は戦死しているのだ。


「右宰相様」


 沈黙に耐えられず最も年長の部下が貧乏くじを引く覚悟で口を開いた。


「それは誰に対してのご命令でしょうか?」

「……っ!」


 激しく机を叩きサーブは激高した。


 どうして自分の周りにはこうも使えない部下しかいないのか、激しく何かしらの存在を恨んだ。




 都の郊外



「お兄さま~」

「お~」


 フルフルと空に向かい手を振ってやると、はるか上空に居るポーラが迷うことなくダイブした。

 ノーロープバンジーだ。ノーパラシュートスカイダイビングでも可だな。

 ぶっちゃけ人はあれを身投げや投身自殺の類で表現する。


「白か~」


 だが僕は動じない。捲り上がったメイド服のスカートから覗かせるポーラの下着を冷静に眺めるほど余裕を持っている。何故ならウチには不可能を可能にするお嫁さんが居るからだ。


「ノイエに膝枕をされてのんびりする日が来るなんて」

「はい」


 ただ現在無敵のお嫁さんは、無駄に色気を晒す清楚系の姉の枕になっている。

 さっきまでノイエが姉の胸を枕にしていたはずが、いつの間にポジションをチェンジしたの?


「お兄さま~」


 両手両足を広げ真っ直ぐ落下して来るポーラがみるみる大きくなる。

 このままだと……もう少し右かな? と見せかけて絶対にフェイントを入れてくる妹だ。この兄を舐めるなよっ!


 全力で左に回避したら案の定ポーラは僕が避けようとしていた方へ突っ込んでいく。


「とうっ!」


 軽い掛け声1つでポーラは空中で停止した。

 落下の姿勢からクルっと回って足の裏を地面の方へ向けると、背負っていた箒を踏み台にして急停止したのだ。


「普通妹が落ちて来るのを回避する兄が何処に居るっ!」

「黙れ偽者がっ!」


 ビシッと相手に指を向け僕は告げる。


 そう。落下して来るポーラをスルーしたのはこの馬鹿が右目を閉じていたからだ。

 そんな状態の妹は間違いなく悪魔に汚染された状態に決まっている。ならば避けても問題無い。この悪魔は何度でも蘇る類のあれだからだ。


「酷いのはお兄様っ! こんな可愛い妹を、むぎゅっ」


 悪魔の声が不意に掻き消えた。と言うか声が何かに埋まったような?


 視線を向けるとマニカが悪魔を抱きしめていた。箒の上に立っていたせいか、マニカがポーラの体をクルっと回してそのまま正面から抱きしめた感じだ。

 完全に顔が胸の谷間に埋まっている。


「ノイエ。この小さなノイエみたいなのは貴女の妹として扱って良いの?」

「?」


 地面に座ったままのノイエが姉の声にアホ毛を綺麗な『?』にしている。


「妹なら我慢するけど、玩具にしていいなら」

「もがぁ~!」


 悪魔が全力で吠えた。谷間に顔を挟まれた状態でその表情は見えないが、様子からして身の危険を感じているのだろう。何故ならマニカの両手が悪魔の尻を鷲掴みしている。

 スカート越しに見える艶めかしい動きが生々しい。


「ねえノイエ。ちょっとだけで良いの。この小さなノイエみたいなこの子をお姉ちゃんに小一時間ほど預けてくれないかしら?」

「何するの?」

「ええ」


 ノイエに背中を向けているがマニカの顔は僕の角度からバッチリ見える。

 恍惚とした表情で……お巡りさ~ん。あそこに絶対に危ないことを企んでいる女性が居ます。ポーラの貞操が大ピンチです。


「むはっ! 助けてお兄さ、むぐっ」


 抜け出したがまた谷間に顔を埋めた悪魔が大ピンチな感じだ。


「ん~」


 ただ何故だろう……ノイエが相手じゃなければちょっと見てみたいと思ってしまう僕が居る。


「悪魔~」

「もがっ」

「小さいままだと色々と問題ありそうだから大きくなったりとかできない?」

「もがぁ~!」


 どうやら無理そうだ。そして絶望じみた声を上げている割には……悪魔の両足がガクガクで今にも崩れ得ちそうに見える。


 何をどうしたらこんな短時間で? 化け物か?


「ノイエ」

「はい」


 まだアホ毛を『?』にしているノイエが小さく首を傾げた。


「ノイエの判断に委ねます」

「もひゃ~!」


 悪魔の抵抗が弱くなってきているから急いだ方が良い気はするけどね。

 するとノイエは立ち上がり姉から悪魔を引き剥がして回収した。


「お姉さま~」


 涙ながらに抱き着く悪魔に何故かノイエがご満悦だ。

 マニカだけが物凄く残念そうだけど……まっ良いか。


 で、ポーラと一緒に来たペガサス騎士さん。放置しててごめん。話を聞くから許して。


 静かに地面に舞い降りて対応に困っているペガサス騎士さんに対し、僕も困った感じで笑みを向けた。




~あとがき~


 基本サーブは部下を信用していません。

 ですから何でも自分が指示を出したがるのですが、その弊害で自分の首が絞まる感じです。


 そしてポーラこと刻印さんが主人公たちと合流です。

 ただしちっこいノイエにも見えるポーラの体にマニカさんの興奮は止まりません。

 ハァハァです。無茶苦茶にしてみたいです。だって可愛いからw




© 2023 甲斐八雲

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