このお尻はアルグ様が好きなヤツ

 神聖国・都の郊外



「ノイエ」

「はい」

「ん~。可愛い」

「はい」


 これでもかと自慢して来るな。ノイエが可愛いのは僕が一番よく知っている。


 だからってノイエさん? どうして先ほどからそうして姉の胸に顔を埋めているのですか?

 これは良い枕だ? 貴女は何処の軍人ですか? それを上司に届けることはできませんよ?


 宇宙世紀にでもなったら改めてご相談ください。


「はいノイエ」

「ん~」


 僕との会話を邪魔してマニカがまたノイエの顔を今度は谷間へ。


 そこまでするのかこの性悪がっ!


「何かしら屑?」

「いや~。今日は実に良い天気で」


 気づけばショートカットになっていた彼女が絶対零度な視線を向けてくる。

 受けるこっちが凍ってしまいそうだ。バナナで釘でも打ちましょう?


 仕方なく僕は辺りを見渡す。


 マニカがやらかした方はスルーだ。先ほどノイエに頼んで惨劇会場を挟むように地面を殴ってクレータを二つ作って貰った。

 力技で申し訳ないが一応土葬だ。完全に土がかぶっていない部分も一部あるがそれは大目に見て欲しい。南無南無だ。


 さて……これで大方終わったと判断して良いのだろうか?


 後は自由人な姐さんを探しだせば良いだけのはずだ。


 で、あっちで暴れているペガサスの一団は何だろう?


 ノイエに感想を求めたら『美味しそう』と言い出す始末だし、何より『小さい子がいる』との話からポーラが合流しているっぽい。それかあのトラブルメーカーな悪魔だろう。うんスルーだな。


 結果として僕らはやることが無い。


 視線を戻すと……ウチのお嫁さんが何故か姉を押し倒して両手で胸を揉んでいた。

 ごめん。僅かな隙にどうしてそうなったか説明を、


「大丈夫よノイエ。同性だから感じられる何かがあるの!」

「アルグ様を喜ばせたい」

「だったらこのお姉ちゃんを、みぎゃっ!」


 本当にこのハリセンは便利アイテムだ。痛い思いをして埋め込んだ重力操作のプレートとシャボン玉発生のプレートの苦労が涙となって溢れ出そうだよ。


 だが僕は気づいた。自分の過ちにだ。


 自分を襲わせようとしていたノイエを放し、ゆら~りとマニカが立ち上がる。


「死にたいらしいわね?」

「……笑止っ!」


 全力でハリセンを構え僕も覚悟を決めた。


「ノイエと乳繰り合えるのは旦那である僕の特権である! 何人たりともその権利を奪うことを許さずっ!」

「そう。なら死になさい」


 ゆっくりとした足取りで近づいて来る相手に戦慄する。


 相手は凄腕の暗殺者だ。何よりあれほどの人間辞めちゃった系の人たちを……ノイエがマニカを背後から捕まえてあっさりと抱え上げた。


「喧嘩はダメ」

「違うのノイエ~!」

「ダメ」

「……はい」


 ジタバタと暴れて抵抗を示したマニカだが、どうやらノイエには勝てないらしい。

 が、マイスィートハニーよ……一言良いかな?


「なに?」


 あっ聞こえるんだ。なら良いか。


「マニカの尻が丸見えなのだが?」

「知ってる」

「ちょっとノイエ~!」


 スカートが捲れ上がっているという事実を知ったマニカがより激しく抵抗を示す。


「アルグ様はお姉ちゃんのお尻を見れば喧嘩しない」

「「ちょっと待(っ)て」」


 偶然にも僕とマニカの声が重なった。


「失礼だな? 僕も見るお尻は選びます」

「そうよ! 私だって見せる相手ぐらい選ぶわよ!」

「平気」


 だがノイエは動じることなく若干胸を張った。


「このお尻はアルグ様が好きなヤツ」

「……」

「ちょっと否定しなさいよ!」


 相手のクレームは最もだ。だが僕は正直者のアルグスタさんだ。自分の趣味嗜好には逆らえない。つまり目の前の尻がどうかと聞かれればこう答えるだろう。『あれは良い尻だ』と。

 また宇宙世紀の出番だよ。自分でもビックリだ。


「ノイエ。私は誰にでも見せたい訳じゃないのだけど?」


 僕と違いマニカはそう言ってノイエからの解放を計る。


「お姉ちゃんのお尻は綺麗だからみんなに見て欲しい」

「ノイエっ!」


 妹に甘すぎる姉は感極まってしまった。

 ウチのお嫁さんは、旦那と姉とを手玉に取る天才か?


「分かったわノイエ」

「はい」


 何故か通じ合ったらしいノイエと姉が……ごめんノイエ。マニカを地面に降ろさないで。


 どうしてこういう時だけは素直に姉の言うことを聞くのかな?


 地面に降り立ったマニカは軽く服装を正すとスタスタと僕の方へ向かい歩いて来る。


 ノイエさ~ん。


「喧嘩はダメ」


 通じた。だがマニカは止まらない。

 ノイエがまた止めようと動き出そうとしたタイミングで、マニカは僕を睨みつけたまま口を開いた。


「違うのノイエ」

「なに?」

「これは格付けよ」


 目の前まで来た彼女が僕を睨みつける。


 格付け……つまりどっちが上か下かを決めようって話だよね? あん? ノイエの夫である僕の方が上に決まっておろう?


 こっちも胸を張ってマニカを睨み返す。


「少しは良いものを持っているからって何も知らないノイエを篭絡したつもりでしょうが」

「んっ!」


 睨み合いからの口上……マニカの言葉に耳を傾けたせいでリアクションが遅れた。

 まさか彼女がワシッと僕の股間の息子をズボン越しに掴んで来るとは思わなかったのだ。


「私からすればまだまだよ」

「……だろうね」

「なに?」


 股間を掴まれているが僕も引けない。何故なら僕はノイエの夫ですから。

 夫である以上、姉よりも上の地位でありたいのだ。


「無駄に異性と回数を重ねて来ただけでしょう?」

「……」


 スッと目を細めマニカが若干強めに股間を握って来る。それ以上はちょっと……。


「誰にどんな口をきいているのかしら?」

「あれだあれ。井の中の蛙大海を知らずってヤツかな?」

「古い言葉を使ってこの私を貶す気?」


 ググっと相手の手が力強く……するとノイエが僕らの間に割って入って来た。


「喧嘩はダメ」

「違うのノイエ」

「喧嘩は……」


 ふとノイエは言葉を止めると僕でもマニカでも無い方へ視線を向けた。

 その方角をしばらく見つめ……しばらく睨むと、怒った感じでアホ毛を揺らす。


「もう煩い」

「「はい?」」


 僕とマニカの問いにノイエは何も答えない。

 ただ不機嫌そうに片足を上げると、何故か全力でその足を地面に向かい振り下ろした。


 ズンッと地面が揺れ、若干の地割れが生じる。


「喧嘩はダメ」


 そして僕らにそんなことを言いながら視線を向けて来る。

 僕は黙ってノイエの顔を見て、バカっと割れた地面を見て……色々と納得する。


「「喧嘩はダメだよね」」


 マニカも同じ結論を導き出したのか、僕と同じことを口走りやがった。

 仕方なく狂暴な姉に視線を向ける。相手もこっちを見ていた。


『ここは一時休戦で』『了解』


 アイコンタクトで停戦を交わし、僕らは離れることで喧嘩してないよアピールをノイエに見せる。


「それで良い」


 ノイエも納得してくれてアホ毛を動かすのを止め……ずに、何故か大きく振りかぶると地面に向けて鞭のように叩きつけた。


「しつこい」

「「はいっ」」


 僕とマニカはノイエに対し全面降伏だ。


 何故なら彼女がアホ毛を叩きつけた地面がバカッと割れ……ノイエさんの恐ろしさを垣間見たような気がします。




~あとがき~


 マニカ対主人公の格付けは…ノイエの乱入で勝者ノイエですw


 そして同時に色々と感じてしまうノイエさんはちょっと煩いのを退治しました。

 あれは嫌なものなので見つけ次第即退治です。情け無用です。


 結果として神聖国の地面がバカッと…




© 2023 甲斐八雲

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