本当に人間か?

 神聖国・都の郊外



《あれは何だ? 何なのだ?》


 迫り来る長身の女性により駒たちが全て弾け飛ばされて行く。

 あの小柄なドラゴンスレイヤーとは違い容赦や情けなどはない。


 槍を振る。確実に相手を屠るようにだ。


 相手に致命的な一撃を放つことになっても表情一つ変えない。

 恐ろしく強く、そして止められない。


 神輿に乗る女王アパテーは震えた。


 こんなにも強い者が異国には居るのか?


 全身を振るわせ、個性的な顔を醜く歪める。

 どんなに命じても自分の駒では相手を倒せない。


 だが、


 笑みを浮かべて女王は手にする扇子を開く。

 決められた場所を開け、そして閉じることで発動する魔法が決まる。

 後は自分の中にあるモノを動かし扇子を叩けば……迫り来る長身の女性の足が止まった。


《成功じゃっ!》


 魔法により相手を強制的に服従させることに成功した女王は、


「なっ……?」


 相手の行動に目を剥く。

 気怠そうに片手を頭に当てガシガシと頭を掻いたのだ。


「今のは何だ? ユーリカの相手をした時のような不快な感じは」


 魔道具により届く相手の声に女王は恐怖する。


 自身が知る最強の服従魔法が、精神干渉魔法をそんな頭痛程度に?


 はっきりと震えだし、女王は思わず神輿を担ぐ者たちに命じていた。


「おいおい逃げるな」


 相手の声は事実だった。

 恐怖した女王は命じてしまったのだ。後退を。


《違う。そんなことは……》


 震えながら彼女はまた命じる。

 近くに居る駒たちに時間稼ぎを。そして自分の逃げる時間を作ること。


「面倒だ」


 相手が地面に対して強く爪先を打ち付ける。


 パンっと乾いた音が響くと、女王は自分が乗る神輿が激しく震えるのを知った。

 ガタガタと音を立てて神輿のバランスが崩れる。

 ガタンっと底が抜けた感じで斜めになり……女王はしたたかに背中を打ち付けた。


《何が?》


 自分の身に何が起きたのかは分からない。ただ神輿の動きが止まったことだけは分かる。


「ひぃい~」


 悲鳴を上げて神輿から這い出る。

 贅肉まみれの体を大きく震わせどうにか這い出た女王は、欠伸をしながら近づいて来る相手に気づいた。その王者たる振る舞いを見せる相手を見つめた。


《死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ……死んでしまうっ!》


 ようやく不老不死の手がかりを得られる状況となったと言うのに許されない。許せない。


「死に、たくなど……ないっ!」


 恐怖故の反応だった。

 火事場の……そう呼ばれる類のモノだったのかもしれない。


 だがそれは間違いなく迫っていたカミーラの度肝を抜いた。


 後頭部で纏められ団子にされていた女王の髪の毛が解け、そして彼女の背後に転がっている神輿を掴んで持ち上げたのだ。


「っ!」


 神輿を担ぎあげた髪の毛の動きに反射的に動けたのは、カミーラの日々の鍛錬の賜物だろう。


 それはまるで弟子のノイエのような無茶を絵に描いたような行動だった。

 豪華で重そうな特別サイズの神輿を一直線に放って来たのだ。


 回避できたのは偶然だが、緊張を思い出したカミーラから相手への侮りは消えた。


「お前強そうだな?」

「……」


 座り込んだまま前屈みとなった女王にカミーラは槍の穂先を向ける。


 油断なく身構えるカミーラはそれに気づいた。

 神輿のあった場所に転がっている躯へ向かい、目の前の女の髪が伸びている事実にだ。


 また投げて来るのか? それとも武器とするのか?


 警戒しバックステップしたカミーラは自分の判断の誤りに気付いた。

 相手は死体を持ち上げると、自分の後頭部へと運んだのだ。


 ゴリッ……ゴリッゴリッ……と骨を砕く音がし、そして血肉を啜る音もまた。


「お前……本当に人間か?」


 人を食らう化け物に目を向け、カミーラはその顔に好戦的な笑みを浮かべた。




~あとがき~


 執筆時間が25分しかなかったんや…(´;ω;`)


 もう少し書きたかったけど女王の流れ弾でとある人はお亡くなりです。

 そして本性を現した相手にカミーラはどう戦うのか?




© 2023 甲斐八雲

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