そろそろ終わるか?
神聖国・都の郊外
「もう終わりか?」
「……」
圧倒的に自分が強いはずだ。はずなのだ。
だが竜人は地面に両膝を突き、両手も地面に触れている。このまま頭を下げれば大陸北部に伝わる最大限の屈辱……謝罪の姿勢になる。別名『哀れな命乞い』だ。
伝え聞くに三大魔女が自分たちに歯向かった者たちにその姿勢を強要し、応じた者たちの頭を踏みつけ罪を許したとも言われている。
「だがっ!」
歯を食いしばり竜人は立ち上がった。
自分の力はまだこんな物ではない。こんな物では無いのだ。
「そうだ頑張れ。お前はまだやれるだろう?」
相手の声に若干心が折れかかる。
どうしてこの人間の女は自分を応援するのだ?
分かっている。相手は自分の“狂竜”の力も通じないほどに狂っている。狂い過ぎているのだ。
強者との戦いを望む狂人……それが目の前に立つ女の正体だ。
手を叩き立ち上がろうとする子供に声援を送るような態度に、バキバキと心の中で何かが砕けつつも竜人は立った。立ち上がった。
「はい良く出来ました」
そして問答無用の回し蹴りだ。
胴体の中心を抉るかのような強力な蹴りに視界が一気に後方へと流れて行く。
が、竜人はそれを好機と捉えた。
「何で逃げる?」
手にしている槍を回して女が呆れた様子でそんなことを言って来る。
言いたければそう言えば良い。実際は違うのだから。
「本来これは使いたくなかったのだよ。人間」
「何だ? 負けた時の言い訳か?」
本当に腹立たしい相手だ。だが現状押されているから否定はできない。
「このまま終わればそうだろうな? だが1つ聞きたい」
「何だ?」
槍を軽く構える相手に竜人は笑った。
「お前はドラゴンスレイヤーか?」
「違うな」
確証はあった。
相手の攻撃は確かに脅威ではあるが、ただし自分への致命傷となる攻撃は一切ない。
このままずっと戦っていれば削り殺される心配はあったが、心配だけでそれはだいぶ時間を要するだろう。
「やはりな」
「で、それがどうした?」
「分からんか?」
相手の狂った言動や態度、攻撃力に誤魔化されていた。
竜人は自分がどれ程気を抜いていたのかを思い知らされた。
神聖国という人の国で生温い生活を送っていて気が抜け切っていたのだ。そうに違いない。
「お前の攻撃はドラゴンを屠る威力が無いのだっ!」
大音量で声を上げ、竜人は自分の中の封印を解く。
竜王から与えられし異世界の竜……狂竜の力を全て紐解く。
恐ろしいほどの力が自分の内側から溢れ出しその姿を変えて行く。そのはずだった。
「……で?」
女……カミーラの声に竜人は全身を震わせた。
自分でも何が起きたのか分からない。本来の力を、一度解けば戻ることの出来ない異世界の竜の力を解き放ったはずなのだ。勝つために全てを捨てて解き放つはずだったのだ。
それなのに姿が変わらない。竜の力を得た人の姿では目の前の人間には勝てないと言うのにだ。
「何故だ~!」
「知るか。馬鹿者が」
容赦ないカミーラの突きが竜人の腹を貫いた。
隙だらけの相手なら槍の穂先を通すことができる。
何より相手は人の大きさだ。確かに強いが人の大きさであれば対応もできる。
だがドラゴンは面倒だ。
何より大きい。巨大な体と言うのはそれだけで武器になる。
体の大きさがもう少し小さければ倒すこともできるとカミーラは思っていた。
《そう考えると私もまだまだ強くなれると言うことか》
とりあえず次は小型のドラゴンでも良い。
あれを魔法を使わずに突き殺すことから始めるとしよう。
魔法を使えば……まあ倒すこともできるだろうがそれはそれで面白くない。
魔法に頼っていたら魔力が尽きた時に困る。戦場に出る以上は最悪の事態を想定しておくべきなのだ。
「どうして……」
穂先を相手の腹から引き抜いたカミーラは、その声を聴いた。
竜人はどうやら何かをしようとして失敗したらしい。出来ればその攻撃を見たかった気もするが仕方ない。
「そろそろ終わるか? 次が無いなら」
人の女の声に……竜人は恐怖し、カミーラに背を向けて逃げ出した。
~あとがき~
つまり小型ドラゴン程度の強さならカミーラは倒せると。
ぶっちゃけ可能でしょう。ただ中型ぐらいになると大きさが増すので…無理かな~。
そしてリアルが多忙で執筆時間が取れず、本日は短めでごめんなさい
© 2023 甲斐八雲
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